逆流性食道炎
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
医療情報に関する注意:ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。免責事項もお読みください。 |
逆流性食道炎(ぎゃくりゅうせいしょくどうえん)とは胃から分泌される胃酸が、食道に逆流することで、食道の粘膜を刺激し傷つけることで起こる炎症をさす。症状はあっても炎症の所見が見られないことがあることから、近年では胃食道逆流症(いしょくどうぎゃくりゅうしょう)(Gastroesophageal Reflux Disease:GERD)という概念で捉えられることが多い。
逆流性食道炎の症状は、元来欧米に多い症例であったが、近年日本でも増加傾向が見られる。ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)菌の除去施術後、一時的に見られる場合があるが、肥満者や妊娠により発症する場合もある。
腹圧を高める、若しくは腹筋を使うトレーニング等を積んでいる人も発症しやすい。このため腹式呼吸を多用する歌手等に多く見られ、「歌手病」などと俗称される場合もある。
目次 |
[編集] 分類
内視鏡によって肉眼的に重症度を判定する、ロサンゼルス分類が一般的。なお、グレードNとグレードMCは日本独自の分類である。
- グレードN
- 正常粘膜
- グレードMC
- 明らかな糜爛や潰瘍がなく、発赤だけを認めるもの
- グレードA
- 粘膜障害が粘膜ひだに限局し、5mm以内のもの
- グレードB
- 粘膜障害が粘膜ひだに限局し、5mm以上で相互に癒合しないもの
- グレードC
- 複数の粘膜ひだにわたって癒合し、全周の75%を超えないもの
- グレードD
- 全周の75%以上にまたがるもの
[編集] 症状
- 横になったときに、胸焼け等が起こる
- 食事中・後に胃酸が逆流する
- 喉部の違和感、不快感
- 肋間神経痛様の胸痛
- 嗄声(声枯れ)
- 耳痛、耳の違和感
[編集] バレット食道
逆流性食道炎の合併症として重要なものにバレット食道がある。食道上皮は本来は重層扁平上皮であるが、逆流性食道炎では円柱上皮化成が生じることがある。これに特殊腸上皮化成が合併したものがバレット食道(Barrett esophagus)である。バレット食道は食道腺癌の前癌状態とされ、無治療では高確率で食道癌が発生する。
バレット食道は日本を含むアジアでは低く、北米やヨーロッパでは多い。欧米ではバレット食道由来の食道癌(バレット食道癌)が食道癌の30~60%を占める。
[編集] 原因
- ストレス
- 加齢
- 胃酸増加
- 下部括約筋の機能低下
- 食道の機能低下
- 肥満
- 腹圧を高める原因となる衣服の着用
[編集] 疫学
アジアよりも欧米で罹患率が高いという特徴がある。また、地域差よりもむしろ人種差が大きく、欧米に住むアジア系民族は欧米系民族と比較して罹患率が低いことから、遺伝的な要因が大きい。罹患率に差が出る原因として、欧米系民族では下部括約筋の圧力(LES圧)がアジア系民族と比較して低いなどが考えられている。
[編集] 検査
- 内視鏡検査
- 食道上皮に発赤や糜爛・潰瘍、腫瘍がないか検査する。
- 食道内pHモニタリング
- 食道への胃酸逆流を評価する。24時間検査し、食道内pHが急速に4以下に低下したときに酸逆流と認める。
[編集] 診断
症状から胃酸逆流を疑い、食道内pHモニタリングで確定診断する。内視鏡は重症度分類の助けとする。
[編集] 治療
日常生活においては食後横になるなどの逆流を増強する行為を避け、就寝時には頭を高くする(Fowler体位)。薬物療法ではおもにH2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬(-そがいやく)等を服用する。 食道裂孔ヘルニアを併発し、症状が著しい例では手術(噴門部形成術など)を行う場合もあるが、一般には施行されないことが多い。原因がはっきりしている場合を除いては、ストレスによって発症する例が大部分を占めるため、薬物療法に加えて根治を目的とした精神科的治療を平行して行う場合もある。治療は長期化する場合が多い。