火鉢
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火鉢(ひばち)とは、日本の暖房器具のひとつ。中で炭を焚いて使用する。陶器製または金属製のものが多いが、木製や石製のものもある。大きさは50cmを超えるものから、手炙り(てあぶり)と呼ばれる15cm程度のものまでさまざまである。手焙り火鉢は通常対で作られていた。昔の大きなお屋敷にはこの対の火鉢25組50個置ける部屋があり、村の寄り合いなどの際には全てに火が入れられ、来た物から火に当たっていたという。
また長火鉢と呼ばれる火鉢と引出しを一体化させたものもある。全体は直方体をしていて四角い火鉢の右横に猫板とよばれるスペースがある。猫板の下に2~3段の引出しが付き、火鉢の下にも横に2つ引出しが並ぶのが一般的。関西長火鉢は上部にテーブルのような張り出しがあるのが特徴。引出しは乾燥するので煙草や、海苔など湿気を嫌うものを入れる事が多い。
材質はケヤキの木がその堅さゆえ最も多く使用されており、上部の縁に黒柿(柿の木数百本の1本の割合で存在)を使用したものが特に好まれた。
[編集] 歴史
火鉢がいつ頃から使用されていたのかははっきりしない。清少納言の枕草子に、火鉢の前身にあたる火桶(ひおけ)に関する記述が見られることから、平安時代には使用されていたと考えられる。
炭を使用するため、薪を使う囲炉裡に比べ煙が出ないことから、武家や公家の間で使用されていたものが一般にも普及し、江戸時代から明治時代にかけて、インテリアとして発達した。彫金を施された金属製の火鉢や、鮮やかな彩色をされた陶器製の火鉢が作られた。そのため、現在では装飾植木鉢、プランターカバーとしての需要が高まっている。また、中に水を張り金魚などを飼う事もある。
戦前までは駅の待ち合いなどでよく見られたが、ストーブに押され、消えていった。
平成に入って、テレビの骨董鑑定番組の影響から急激に需要が増えたが、投機目的や、インテリアとして求められる例が多く、暖房器具としての需要は低かった。しかし昨今、エアコンが苦手な若者に炭の火の暖かさが支持されてきている。遠赤外線による暖房しての効果もさることながら、心の中をも暖めてくれるその効果に惹かれているのかもしれない。
[編集] 使用方法
空の火鉢の底に小石などを敷く。その上から灰(藁灰がよい)を、火鉢の1/2-2/3ほどまで入れる。灰を入れる炉、又は“おとし”と呼ばれる部分は、銅板により作られていることも多い。その場合は小石が湿気を含んでいると銅板がさびてしまうので、灰だけを入れた方がよい。灰は断熱材なので深さ10cmもあれば炭の熱の心配は無い。五徳を使う場合は、灰の中に2-3cmほど埋め、鉄瓶などを乗せても傾かないようにする。五徳は爪を上に向けて使っても、下に向けて使ってもいい。2-3本の炭を火おこしに入れて火にかけ、炭全体が赤く色づくまで20分ほど加熱する。炭が暖まったら、十能(じゅうのう)に入れて運び、火鉢の中央に適当に間隔をあけて並べる。灰の上に火のついていない炭をのせ、固形燃料などを使って火をつける方法もある。火がつきづらい場合は、豆炭を使用すると火をおこしやすい。炭から炎があがっている状態よりも、炭が赤く色づいている程度の方が持ちが良い。火力の調整は、炭の量の増減や配置を調整することによって行う。火を消す場合は炭を灰の中に埋めるか、火消し壷に入れる。
炭を扱うには火箸(ひばし)を用いる。金属製の長い箸で、使わないときは火鉢の隅の灰に突き刺しておく。火の神を祭る神社には防火を祈って大小の火箸が奉納される。
五徳の上に水を張った鉄瓶をかけておくと加湿器代わりになる。五徳の上に網を乗せ、餅やキノコを焼く。灰に臭いが付くため、魚などの臭いのきついものを焼くときには火鉢は使われない。
銅壷をいれて湯を沸かすこともある。酒に燗をつけるためにも使われる。
炭が燃える際に一酸化炭素が発生するので、換気には注意が必要である。