婿養子
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婿養子(むこようし)とは、婚姻と同時に夫が妻の親と養子縁組すること、又はその場合に養子になった夫のことをいう。本稿では主に民法における規定を説明する。歴史的な事柄は入婿参照のこと。
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[編集] 概要
夫は、婿養子になることにより、妻の親の嫡出子、推定相続人となる。そのため、跡継ぎとして男性を欲する家がある場合に行われることが多かった。
日本では結婚すると夫の姓に合わせることが圧倒的多数であるため、婚姻の結果として夫が妻の氏を称することのみをもって「婿養子になった」と表現することがままある。しかし、それでは妻の親と養子縁組したことにはならず、単に「夫婦の姓を妻のものに統一した」だけであり、妻の親の嫡出子・推定相続人になるわけではない(妻が夫の姓に変える場合でも同様である)。
[編集] 民法旧規定
昭和22年法律第222号により改正される前の民法(旧規定)には、婿養子(ただし、法文上は「壻養子」)に関する規定が存在していた(旧規定788条2項)。
旧規定では、婚姻した場合、原則として妻は夫の家に入ることになっており(旧規定788条1項)、それに伴い妻は従前の家を去ることになる。
その一方で、旧規定は家制度を基調とする家族制度を採用し、家の継続を重んじていた。そのため、法律上戸主の地位を承継することになっている者(法定推定家督相続人)は、原則としてその家を去るような形態で婚姻をすることができなかった(旧規定744条1項本文)。
この結果、女は婚姻により従前の家を去ることが原則であるにもかかわらず、女が法定推定家督相続人の地位にある場合(戸主の直系卑属に男がいない場合)は家を去ることができないため、婚姻できないという不都合を生じる。このため、婚姻により夫を妻の家に入れる形態の一つとして、婚姻と同時に夫が妻の親と養子縁組する制度が採用されていた。婿養子縁組が成立すると夫は養親の嫡出子となり(旧規定860条)、妻が法定推定家督相続人である場合はその地位が夫に移転することになる(旧規定970条)。
もっとも、法文上は、女が法定推定家督相続人ではない場合であっても婿養子縁組の形態により婚姻することは一応は可能であった。
[編集] 現行民法
昭和22年法律第222号により改正された民法は家制度を廃止したため、家督相続人の確保を主たる目的とする婿養子の制度も、法律上は廃止された。
ただし、養子と養方の傍系血族との間の婚姻については近親婚禁止の規定が適用されない(民法734条1項但書)こともあり、婚姻と同時に夫が妻の親と養子縁組することができないわけではない(婚姻届と縁組届の両方が必要になる)。