二重スリット実験
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二重スリット実験(にじゅうスリットじっけん)は、量子の波動性と粒子性の問題を典型的に示す実験。リチャード・P・ファインマンはこれを「量子力学の精髄」と呼んだ。ヤングの実験で使われた光の代わりに一粒の電子を使ったもので、1989年に外村彰によって行われた。この実験はPhysicsWeb誌で最も美しい実験に選ばれた[1]。
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[編集] 実験
電子銃から電子を発射して、向こう側の写真乾板に到達させる。その途中は真空になっている。ただし、電子の通り道にあたる位置についたてとなる板を置く。その板には二本のスリット(細長い穴)がある。
電子は電子銃から発射されたあと、二本あるスリットを通り 向こう側の写真乾板に到達する。写真乾板には電子による感光で濃淡の縞模様が像として描かれる。このような濃淡の縞模様は電子に波動性があることを示す。実際、その縞模様は波の干渉縞の模様と同じである。
[編集] 問題
ここで問題が生じる。多くの電子を一度に発射した場合は電子同士がたがいに干渉することもあるだろう。しかしこの実験では、電子を一つずつ発射させても、同じ結果が得られるのだ。つまり、電子を一度に一つずつ発射させることを何度も何度も繰り返してから その合計に当たるものを写真乾板で見ると、やはり同じような干渉縞が生じている。
これは一般的な直観に反する奇妙な現象である。なぜなら電子は一つずつ間を空けて発射されたのだから、空間中に電子は同時に一つしか存在せず、それぞれの電子が互いに干渉するはずがないからである。
[編集] 解釈
この実験について次の二通りの解釈が生じた。
- 一つの電子が粒子のまま、二つのスリットを同時に通った。
- 電子は粒子ではなく波として、二つのスリットを通った。
前者の解釈はあまりにも不自然である。これがいわゆる「二重スリット」の問題だ。後者の解釈では、量子は確率波ではなく実際の波として存在することになる。その説明が課題となる。
前者の解釈によれば、この実験の結果は「電子が一つの粒子として、二本のスリットを同時に通過していること」を示す。後者の解釈によれば、この実験は、「電子が(一つとは言えない)波として、二本のスリットを同時に通過している」ことを示す。(詳しくは真空の項を参照。)
なお、前者は電子を粒子と見る立場であり、後者は電子を波と見る立場である。前者の発想は普通の量子論に近く、後者の発想は場の量子論に近い。(前者の解釈を取る人が多いが、後者の解釈もあることに注意せよ。)