スター・システム
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スター・システム (star system) とは、多くは演劇・映画・プロスポーツなどの興行分野において、高い人気を持つ人物を起用し、その花形的人物がいることを大前提として作品製作やチーム編成、宣伝計画の立案などを総合的に行っていく方式の呼称。近代以前より演劇分野、特に商業演劇を中心に定着し、20世紀以降は映画製作においても用いられるようになった。
転じて、漫画などで、同一作家が同じ絵柄のキャラクターをあたかも俳優のように扱い、異なる作品中に様々な役柄で登場させるような表現スタイルも、スター・システムと呼ばれている。手塚治虫が、スター・システムを採用している宝塚歌劇の影響を受けて始めたといわれている。
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[編集] スター・システムの原型
[編集] 18世紀イギリス演劇
[編集] 近世日本の歌舞伎
[編集] 映画
ハリウッド草創期の1920年代、チャールズ・チャップリンやダグラス・フェアバンクスらの映画からこの方法が取られるようになり、1930~40年代の黄金期にそのピークを迎えた。
[編集] 海外のスター・システム
[編集] 漫画・アニメーション
アニメーションや漫画におけるスター・システムは、興行分野におけるそれとは意味合いを異にする場合がある。
[編集] 架空のキャラクターによるスターシステム
アニメーションでは、アメリカのカートゥーンと呼ばれる劇場用短編作品が多く作られたジャンルにおいて、人気キャラクターを俳優に見立てて、その出演作が製作された。これは、アニメキャラクターは俳優であり、主演映画シリーズを持っているという点で、興行分野におけるスターシステムと共通するものであった。
- ハンナ・バーベラ作品
- トムとジェリー: 中世の騎士、西部開拓時代の保安官、宇宙飛行士などを演じるエピソードがある。
- ハンナ・バーベラ秘宝探検団: ヨギベア(クマゴロー)・トップキャット(どら猫大将)・早撃ちマック・チキチキマシン猛レース・オギーとダディ等の主要キャラクターが敵味方に別れ、毎回、世界各地を回ってトレジャー・ハンティングを行うシリーズ。
- スカイキッド ブラック魔王: チキチキマシン猛レースの悪役「ブラック魔王」「ケンケン」コンビが、この作品シリーズでは戦場の伝書鳩(主人公)の任務を妨害する敵国空軍パイロット役として登場。
- ペネロッピー: チキチキマシン猛レースに登場してる女性が主役の別シリーズ。
- ルーニー・トゥーンズ作品
- スペース・ジャム: バッグズバニーなど出演。
[編集] 音楽
リヒャルト・ワーグナーのライトモティーフ、シルヴァーノ・ブッソッティのラーラ・ツィクルス、カールハインツ・シュトックハウゼンのフォルメル技法も広義のスターシステムと呼ぶに相応しい。
[編集] 日本のスター・システム
日本では、外国以上にスターとは実力の伴わない容姿の良いだけの人物を「周りが作り上げる」ものであるという考えが横行しているとされている。
[編集] テレビドラマ
「赤いシリーズ」で知られる三浦友和、山口百恵のコンビが特に有名。脇役も宇津井健が毎回出演するなど、典型的なスターシステムを採用した。 「京都地検の女」と「京都迷宮案内」の主人公が同じドラマ同士で出演あり。
1980年代のトレンディドラマを端緒として、フジテレビの「月9」と呼ばれるドラマの枠などで、ドラマの企画も決まっていないうちから、視聴率の取れる俳優のスケジュールを確保することがしばしば行なわれる。
[編集] 漫画・アニメーション
[編集] 架空のキャラクターによるスターシステム
日本国内のアニメーションでも幾つかの作品が例にあげられる。1980年代末~1990年代にかけて、サンリオのキャラクターを俳優に見立てた出演作として、童話を題材にした『サンリオ名作映画館』シリーズ、オリジナルストーリーの『サンリオキャラクターアニメ』シリーズが製作された。2006年現在ではマイメロディを主人公にした『おねがいマイメロディ』シリーズやテレビ番組『キティズパラダイス』内でサンリオのキャラクターが主演するアニメ作品が放映されている。
また、オリジナルビデオアニメを中心としたメディアミックス作品『天地無用!』に登場していた脇役キャラクター「砂沙美」に人気が出たために、砂沙美を主人公にした別個の作品『魔法少女プリティサミー』、『砂沙美☆魔法少女クラブ』が制作された。これらは、作品人気による続編や世界観を共通するサイドストーリーとも異なり、キャラクターを俳優に見立てたスターシステムに基づいた企画である。
漫画では、作品によって名前は違うが多くの作品に同じ特徴の人物を使う場合と、名前や特徴なども固定されている人物を使う場合の二種類があり、手塚治虫が両方を多くの漫画作品で用いたことで知られる(前者としてハム・エッグ、アセチレン・ランプ、ロック、ヒゲオヤジなど。後者としてヒョウタンツギ、スパイダーなどがある)。藤子不二雄や石ノ森章太郎、永井豪、松本零士、吾妻ひでお、とり・みき、西岸良平、黒田硫黄、森下裕美など、短編作品を多く手がける漫画家がスターシステムを使うケースが多い。永井豪の手がける作品に登場するキャラクターは、作品を「番組」と呼び、登場することを「出演する」とまで言っている。これも、スターシステムを意識してのことであると考えられる。また、後者としてはこれ以外に藤子不二雄の作品には小池さんや神成さん、ゴンスケと呼ばれるキャラクターが、藤子不二雄A名義、藤子・F・不二雄名義を問わずに数多く登場することで知られている。
サンライズのアニメーション作品『舞-HiME』シリーズがスターシステムを採用、第1作に登場したキャラクターの設定を変えて第2作、3作に登場させる、という手法をとっている。またCLAMPの漫画『ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-』でも、CLAMPによる他の作品のキャラクターを多数登場させており、これもスターシステムととらえることができよう。これ以外に最近の漫画家としては野中英次なども多用している。
[編集] ゲーム
ゲームも漫画・アニメ同様スターシステムを用いている作品がある。ディズニーとスクウェア・エニックスのコラボレーションである『キングダムハーツ』シリーズは代表的な例のひとつだろう。また、『ファイナルファンタジー』シリーズでは「シド」の名を持つキャラクターが登場し、空を飛ぶ船である「飛空艇」を扱うことが定番化している。また、シリーズ作品とは別途に、キャラクターのみを全く別ジャンルのゲームに用いているものがある。日本における代表例として『スーパーマリオブラザーズ』のキャラクターが様々な作品に登場している。『マリオカート』(レース)、『マリオテニス』(スポーツ)、『スーパーマリオRPG』(ロールプレイングゲーム)、『ヨッシーのたまご』(パズル)など非常に多岐に渡っている。任天堂はこの他自社ゲーム登場キャラクターを一同に会させるクロスオーバー作品を多く作っている。
[編集] 声優によるスターシステム
1980年代以降、本来は日陰の存在であるアニメ・ゲームの声優にファンがつくことが多くなった。これを受けて、1990年代において、キングレコードのレーベルであるスターチャイルドが番組提供を行なったテレビアニメ、あるいはスターチャイルドが発売元となったオリジナルビデオアニメで、その主役キャラクターの声優がほとんど林原めぐみであった例がある。これなどは、キャラクターに合わせて声優をキャスティングしたのではなく、林原めぐみ主演作という前提でスターチャイルドが製作に関与したという意味で、興行的な意味合いが強いスターシステムと言えよう。また、2000年代に入ってからは堀江由衣がそれを継承する形となっている。
肝付兼太は、数多くの藤子不二雄アニメで声優をつとめていることで有名である。(代表例:日本テレビ版「ドラえもん」のジャイアン、テレビ朝日版「ドラえもん」の初代スネ夫、「忍者ハットリくん」のケムマキ、シンエイ動画版「パーマン」のパーマン4号、1985年版「オバケのQ太郎」のハカセ等)
また、声優が前面に押し出されたゲームソフトも存在する。
[編集] 音楽
音楽の分野では、古くから手塚漫画の音楽を手掛けている冨田勲が取り入れている。
[編集] スポーツ
スポーツの分野でもこの言葉が使われることがあるが、上に列挙した分野とはまた意味が異なる。
[編集] サッカー
スポーツにおいてスターシステムという言葉が多用されるようになったのはサッカー日本代表の監督(1998年-2002年)であったフィリップ・トルシエが使い始めてからである。彼は、テレビ・新聞などのマスコミが、知名度の高いスター選手や期待されている若手選手のことを過剰に持ち上げ、試合で彼らを起用しないことを批判したり、調子が下がると目の色を変えて批判を始めることを、皮肉を込めてスターシステムと呼んだ。また、それによって選手がスポイルされた実例として、しばしばトルシエは前園真聖の名を挙げた。この言葉はサッカーに対するマスコミ報道を批判する時に度々引用され、それは2002年にトルシエが退任した後も続いている。2003年における大久保嘉人、2004年における平山相太などは、マスコミによるスターシステム的扱いが指摘された一例である。
[編集] バレーボール
2004年アテネオリンピックの際、女子バレーチームの各選手に愛称を付け、それを各報道機関で繰り返し使うことで、バレーボールマニア以外には知られていなかった選手たちの知名度を上げた。栗原恵を「プリンセス・メグ」と呼んだり、「スーパー女子高生」や「帰ってきた五輪戦士」とひとりひとりに二つ名を設定した。実況やゲストのタレントもこの二つ名を連呼し、イメージ定着を図った。
[編集] 陸上競技
世界陸上競技選手権(世界陸上)において、中継を担当したTBSが番組制作の過程で二つ名を設定し、選手名の表示において現地からの画像に重ねるように、それらを前面に出す。
「マッハ末續(末續慎吾)」、「鉄人DNA(室伏広治)」、「ラスト・サムライ(為末大)」など単純明快なものばかりではなく、「大英帝国のメダルハンター(ダレン・キャンベル)」「ブロンドのぶっとび娘(カロリナ・クリュフト)」「女王にたてつくミステリーハンター(アンナ・ロブフスカ)」など長いものを設定することもある。
[編集] プロレス
日本のスポーツの中では、興行色が強いプロレスが最もスターシステムを活用している。1980年代の新日本プロレスはアントニオ猪木やタイガーマスクを興行の中心に据えた。二流外国人選手を招聘し、前述の二人を除く日本人レスラーを次々と倒した後に、完敗させることにより、エースの強さを演出し格を保持していた。スターに倒されるやられ役であるジョバーが重要な役目を背負っていた。
ハッスルにおいては、学生プロレス経験者であるが本職はお笑い芸人であるHGやインリン・オブ・ジョイトイを前面に出し、プロレスラーが彼らを際だたせるための役割を担っている。
また、アントニオ猪木vs滝沢秀明など芸能人とレスラーが試合をすることは珍しくない。
[編集] 総合格闘技
PRIDEでは俳優の金子賢、K-1 Dynamite!!ではタレントのボビー・オロゴンがアマチュアでの実績が無いにも関わらず、試合を行った。この場合は、テレビ局と興行会社の連動でプロモーションが行われた。金子のはPRIDEを放送するフジテレビ、オロゴンはK-1 MAX、HERO'Sを放送するTBSでそれぞれレギュラー番組を持っており、その番組で試合までのドキュメントが放送された。
[編集] ボクシング
亀田興毅、亀田大毅、亀田和毅ら「亀田三兄弟」はTBSの演出を受けてスターとなっている。タイトルマッチではなく、招聘禁止選手との試合でもゴールデン・プライムタイムで試合が放送され、彼らを紹介するドキュメントなども製作された。
[編集] 伝統芸能
[編集] 商業演劇
[編集] 映画
つかこうへい監督作品や周防正行監督作品、他、馬場康夫監督等を擁するホイチョイ・プロダクションズ作品や伊丹十三監督作品では、監督お気に入りの俳優陣が毎回役柄を変えて作品に抜擢されるケースが多く、これも一種のスターシステムと呼べる。
[編集] つかこうへい作品群
[編集] 周防正行作品群
[編集] ホイチョイ・プロ作品群
[編集] 伊丹十三作品群
宮本信子、津川雅彦、山崎努、宝田明 、三國連太郎、伊東四朗、大地康雄、小松方正、笠智衆、きたろう、桜金造、伊集院光、不破万作、高橋長英、柴田美保子 、朝岡実嶺 など
[編集] スター・システムによるメリットとデメリット
この方法によって各映画会社は莫大な利益を得ることに成功するが、逆に制作者側にとっての弊害があったのも否めない事実である。
- 俳優のイメージが作品に影響
- ヒッチコックは『断崖』を撮影の際、主演のケーリー・グラントを悪役に仕立てたかったのだが、映画会社に「グラントのイメージを損ねてはならない」と、ラストを大幅に改変することを要請された。そして、当初のねらいとはまったく違ったものに仕上がってしまった。
- スター人気に依存しすぎ失敗作も生まれる可能性
- MGMは、当時契約していたスペンサー・トレイシーの人気にあやかって、彼に『ジキル博士とハイド氏』の企画を押し付けた。ところが、トレイシーは『我は海の子』『少年の町』といった作品で、ヒューマニティ溢れる人間像を確立していた。そのため、トレイシーの悪役に違和感を感じた観客は多く、その作品は失敗作となった。
しかし、さまざまな弊害や失敗はあるものの、この方法が莫大な利益をもたらすのは間違いなく、フリー・エージェント制になった現在のハリウッドでも、スター・システムは脈々と生き続けている。