Pentium 4
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Pentium 4(ペンティアム・フォー)は、2000年にインテルによって発表、2001年より製造・販売された80x86アーキテクチャのCPU。
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[編集] 概要
[編集] 新アーキテクチャ NetBurst
1995年のPentium Pro以来続いてきたP6マイクロアーキテクチャを大幅に変更したNetBurstマイクロアーキテクチャを採用した。NetBurst(ネットバースト)の命名は、Pentium 4で実装したSSE2命令などでインターネットアプリケーションの処理能力向上を意図し、従来から用いられてきたP5やP6という没個性的な呼称を踏襲せず、新たなマイクロアーキテクチャの誕生をユーザに印象づけるために行われたと推定できる。このNetBurstマイクロアーキテクチャの本質は、命令解釈を行うフロントエンドと命令処理を行うバックエンドとを完全に分離し、CPUの機能拡張に柔軟に対応することを設計思想としていることが後になってIntelから公表された。
NetBurstマイクロアーキテクチャは、極端に小さいL1キャッシュ、比較的大きなL2キャッシュ、帯域の広いCPUバス(FSB、Front Side Busと一般的に呼ばれる)など、他社を含め従来のプロセッサのそれとは大きく異なる点を多数備えていることから、従来の設計思想とは異としたアーキテクチャであることが読み取れる。
L1キャッシュはデータと命令とを分けて格納するが、命令は命令解釈(デコード)されマイクロOPsと呼ばれるNetBurst専用の命令に変換された状態でL1キャッシュに格納される。Pentium 4は命令実行を行うパイプライン段数が同社のPentium IIIやAMD社のAthlonに比べて大きく増加している。パイプライン段数の増加は動作クロック周波数を向上させやすいというメリットがあるが、条件分岐命令の予測ミスによりパイプラインがストールしてしまい、結果CPUの動作密度が低下するというデメリットも伴っている。そのため、NetBurstマイクロアーキテクチャはクロックあたりの処理性能が従来のアーキテクチャ(P6やK7など)と比較して劣る。
しかし、トレースキャッシュと称する命令格納L1キャッシュはパイプラインの途中に組み込まれ、トレースキャッシュに目的の命令が格納されていれば命令実行時間のおよそ1/3を占めるデコードを省くことが可能となる。 また、従来の条件分岐プログラムは現状より大幅な向上は求められておらず、それに代わって「ストリーミングSIMD拡張命令2 (SSE2) 」など動作クロックに比例して処理能力が向上するアプリケーションの処理の向上が望まれることになるであろうとの予想に基づいてNetBurstマイクロアーキテクチャは開発されている。比較的苦手な条件分岐処理においても動作クロックの向上によって性能の向上が期待できる。
そして次世代あるいは次々世代Pentium 4で実装されると一般に考えられていた「ハイパー・スレッディング (HT) テクノロジ」もNetBurstマイクロアーキテクチャの柔軟な構造を活用し、第一世代のWillametteでは使用できない状態で販売されていたものの完成されていたと見られる。後に、SSE3命令も追加される。
NetBurstマイクロアーキテクチャを採用したPentium 4は、その性格上必然的に動作クロック周波数が増加した。動作クロック=CPUの性能、そのCPUを搭載したコンピューターの性能だと大きく誤解している消費者に対し高性能という印象を与えることも目的にあったことは想像に難くなく、PCの普及に伴い「高クロック=高性能」という認識も植え付けIntel製品が市場ニーズを制圧していくが、情報網の厚いユーザーからは発熱や高価格等の不満が漏れる事となる。またこの「高クロック=高性能」という認識が後の「低クロックでも高性能」のCoreシリーズにとって足枷になってしまう事が懸念される。
[編集] 発熱と消費電力の深刻な問題
一般的に、発熱や消費電力は動作クロックに比例して大きくなる。製造プロセスを微細化することで動作電圧を低減し発熱や消費電力を抑えることができたが、微細化がより高度になることによりリーク(漏れ)電流と呼ばれる電流が問題視されるようになった。
漏れ電流はどのような半導体でも発生する。コンピュータ以外も含むいかなる回路の中で、漏れ電流はその回路の動作に寄与するどころか悪影響を与える存在として排除の対象となる。特にnm(ナノメートル)単位で設計されるようになった集積度の極めて高いマイクロプロセッサ類では、ほんのわずかな漏れ電流でさえ悩みの種となる。これはIntelのみならず、半導体業界全体の問題となっている。
130nmプロセス世代では漏れ電流の増加より電圧低減による省消費電力化のメリットがかろうじて勝っていたが、90nmプロセスになると漏れ電流が極端に増加し省電力化が難しくなってきた。動作クロックを高めることで性能向上を図るPentium 4では、この問題が小型なコンピューター本体・CPU冷却装置の低コスト化や冷却騒音低減、低消費電力が求められるモバイル向けで顕著にあわられた。この問題はAMDのAthlon 64でも発生しているが、Athlon 64はパイプライン見直しとそれに伴う構成の最適化によって実クロックを抑制しつつ、SOI(Silicon on Insulator)を採用し、(比較論として)効果的に抑制したことからPentium 4の欠点としてクローズアップされる結果となった。
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- Pentium 4においても、歪シリコンと呼ばれる漏れ電流抑制技術が採用されていたが、SOIほど効果的ではなかった(その代わり、製造コストは安い)上、実クロックが高すぎる為に期待された程の効果は得られなかった。
- もともと NetBurst アーキテクチャの高クロック傾向は、AMDがK7世代前半期(Athlon、開発コードK7~ThunderBird)で一気にクロックを向上させたことに対抗した結果であった。それが逆に現在のAMDプロセッサに対するウィークポイントとなってしまったことは、皮肉であると言える。
その結果、動作クロックの向上による性能向上から方針転換が図られ、4GHz以上の製品の発売は取りやめになった。また、モバイル用途には当初Pentium 4及び同ラインのCeleronより格下に位置づけられていたPentium M、Celeron Mを最前面に押し出した。
Pentium 4の動作クロック周波数は、2004年11月に発表されたPentium 4 3.80GHzを最後に向上していない。そしてTejasと呼ばれる製品の開発は取り止めになり、今後のCPUの処理能力の向上は動作クロックの向上ではなく同時に複数の命令を処理する1個のプロセッサパッケージにコアを2個あるいは複数配置したデュアル/マルチコア化に移っていった。このインテルの方針転換に対し、直ちにAMD側もデュアルコア版Athlon 64(Athlon 64 X2)を前倒しして市場に投入することを発表した。
一時期、Athlon 64の性能向上に対抗し、Xeon MPを流用した2MBのL3キャッシュを搭載したPentium 4 Extreme Editionと呼ばれる製品も発売されている。発熱は言うまでも無く凄まじいものがある。 余談だが、P7はItaniumの開発の為に開発チームが解体されたことで欠番になるが、ItaniumをP7と称する場合もある。
[編集] 各世代の概要
[編集] Willamette(ウィラメット)
第一世代のPentium 4。0.18μmプロセスで製造される。
動作クロック1.4GHz版と1.5GHz版が市場に投入された。しかし旧世代アーキテクチャであるPentium IIIと性能に大差がないのにも関わらず、システムの価格と消費電力が増加してしまったことから、あまり普及しなかった。 CPU開発で度々行われることだが、設備を一新した工場で新開発のCPUの製造を行うと、問題が見付かってもその問題がCPUと製造設備のどちらに由来するものなのか原因の特定が難しく、性能などは多少劣ってしまうものの無難に旧来の工場で当面は製造することが一般的である。改良をするにも一度に複数を変更すべきではないのはどんな事にも言えることだが、短時間で対処が出来ないCPUではその弊害はより顕著に現れる。故に新開発のCPUの購入はモデルチェンジを待つとの定説がある。
さらに、それまでのPC-100などの安価なSDRAMを使えないことも普及の妨げになっていた。唯一の専用となるチップセットi850は、高価なうえに2枚一組でしか使えないメモリ(RIMM)しか対応しなかったことが災いした。普及を試みてRIMMを添付しても価格を据え置いてPentium 4を発売したこともあったが、その効果は今一つだった。このため、intelはPC-133 SDRAMをサポートするi845チップセットを廉価機種向けに発売した。このチップセットはシングルチャネルSDR SDRAMチップセットとしてはきわめて高速であったが、i850と比べると大きく性能が劣ることは否めず、あまり人気はでなかった。後にDDR SDRAMをサポートしたi845 B-Step、通称i845Dが投入された。
発売当初はSocket423に対応していたが、後にSocket478に対応し、これが主流となる。
- ラインナップ
- FSB 400MHz対応 - 1.3GHz、1.4GHz、1.5GHz、1.6GHz、1.7GHz、1.8GHz、1.9GHz、2GHz
[編集] Northwood(ノースウッド)
第二世代のPentium 4。Willametteを0.13μmプロセスで製造した製品。根本的には変更がないものの、製造プロセスの微細化により消費電力低減とL2キャッシュを256KBから512KBに倍増し多少の性能向上を実現している。ちなみに、クロック周波数は2004年2月に3.4GHzを達成した。 発熱量と処理能力のバランスが良くPrescott登場後も根強い人気があったが、2005年3月をもって製造終了。日本では在庫の確保を巡ってユーザーが熾烈な争奪戦を繰り広げた。 2002年11月にはXeonプロセッサに引き続きHyper-Threadingテクノロジが利用可能なPentium 4をリリース。これは1個のプロセッサでありながらオペレーティングシステムからは2個あるいは複数のプロセッサが存在するかのように振舞う技術である。現状での論理プロセッサ数は2である。通常ではプロセッサの処理が停止してしまう状況でも他方の仮想プロセッサは休まず動作することでプロセッサの稼動効率を高め、それにより性能の向上を図るという予測によるもの。Intelでは、トランジスタ増は5%で処理能力は30~15%向上としており、ポラックの法則(トランジスタを倍増しても処理能力は4割しか向上しない)を遥かに上回る高効率である。 しかしながらビデオのエンコーダなどの一部ソフトウェアを除きマルチスレッドアプリケーションがパソコンではそれほど普及していない現状から、また、場合によってはHyper-Threadingの処理に伴うオーバーヘッドにより、むしろHyper-Threadingテクノロジを使わない方が性能が良い場合もあり、その効果は限定されたものとなってしまっている。このHyper-Threadingテクノロジに対応したチップセットとしてi865系が開発された。当初はi850~i845での遅れを一気に挽回しようとした特急開発が祟って不安定だったが、後には安定、発熱もそれほど大きくはなく、NetBurst用チップセットとしては最も評価が高い。
- ラインナップ
- FSB 400MHz対応 - 1.6GHz、1.8GHz、2GHz、2.2GHz、2.4GHz、2.5GHz、2.6GHz、(2.8GHz?SL6Y0-確認中)
- FSB 533MHz対応 - 2.26GHz、2.4GHz、2.53GHz、2.66GHz、2.8GHz、3.06GHz(3.06GHz版のみHT対応)
- FSB 800MHz、HT対応 - 2.4GHz、2.6GHz、2.8GHz、3GHz、3.2GHz、3.4GHz
- 同時マルチスレッディング (同:ハイパースレッディングテクノロジ)
[編集] Prescott(プレスコット)
90nmプロセスで製造される第三世代のPentium 4。L2キャッシュメモリを1MBに増量した一方で、さらなる高クロック化を想定してキャッシュアクセスのレイテンシとパイプライン段数は増加している。これにより1サイクルあたりの平均処理命令数は低下するため、同クロックで動作するNorthwoodと比べて目立った性能向上はない。また、製造プロセスの微細化によるリーク電流の増加は消費電力の問題をより深刻化させ、より強力な冷却機構を装備する必要が生じている。このため高クロック化は限界に達し、当初予定されていた4GHz版の発売はその発表を待たず中止されることになった。
この事態を踏まえてインテルはロードマップを大幅に変更し、動作クロックそのものの向上を重視する戦略から、1サイクルあたりの性能の向上を重視する方向へと転換した。その時期を同じくしてプロセッサー・ナンバーを導入している。
実際には4GHzを超えるクロックのコアも出せるところまでは行ったが、デュアルコア・マルチコアなどの複数コアのCPUを将来的に控えるロードマップに変更したため、4GHzの大台に乗ってしまうとそれ以下のクロックにならざるを得ないデュアルコアCPUの見劣りが避けられず、経営的判断から4GHzを超える製品は発売を取りやめたと見る向きもある。一方、ヘヴィ・ユーザほど低発熱のAthlon 64へ逃げる傾向にあり、仮に発売されたとしても、AMDのロードマップを若干変更させただけにとどまったろうという見方もある
発売当初はSocket 478に対応する製品も投入されていたが、電源周りへの要求がシビアでマザーボードへの要求が頻繁に変わる事態を生み、既存在庫のマザーボードを流用する初期の需要のみの出荷になった。現在はLGA775が主流となっている。PrescottからはSSE2の拡張版にあたる「ストリーミングSIMD拡張命令3(SSE3)」の他、一部製品ではバッファオーバーランを利用した攻撃プログラムの実行を防止する「エグゼキュート・ディスエーブル・ビット (XD bit) 」や、AMD64互換の64ビット拡張である「インテル 64 テクノロジ (Intel 64) 」といった機能が追加されている。
ちなみにLGA775はSocket Tとも呼ばれている。これは従来のCPU側にピンがあるPin grid array(PGA-ZIF)形式とは違い、マザーボード側にピンがあるLand grid array(LGA)形式に変更されている。これによってCPUクーラーを取り外す際にCPUがヒートシンクに吸着されCPU側のピンを破損するという事故はなくなった(この事故は、先にソケットのレバーを解放しておき、シンクごとプロセッサを外してしまうという方法で回避できる。Pentium 4はヒートスプレッダを装着しているので、その後で、マイナスドライバーで剥がせは危険は少ない)が、反面マザーボード側に用意されたピンはより繊細な扱いを必要とするようになったため、自作ユーザーからの評判はあまり良くない。(詳細は集積回路の項目も参照)
- ラインナップ(括弧内はプロセッサー・ナンバー)
- FSB 533MHz、Socket478対応 - 2.4GHz、2.8GHz
- FSB 533MHz、LGA775対応 - 2.66GHz(505)、2.93GHz(515)
- FSB 800MHz、Socket478、HT対応 - 2.8GHz、3GHz、3.2GHz、3.4GHz
- FSB 800MHz、LGA775、HT対応 - 2.8GHz(520)、3GHz(530)、3.2GHz(540)、3.4GHz(550)、3.6GHz(560)、3.8GHz(570)
- FSB 800MHz、LGA775、HT、XD bit対応 - 2.8GHz(520J)、3GHz(530J)、3.2GHz(540J)、3.4GHz(550J)、3.6GHz(560J)、3.8GHz(570J)
- FSB 800MHz、LGA775、HT、XD bit、Intel 64対応 - 2.8GHz(521)、3GHz(531)、3.2GHz(541)、3.4GHz(551)、3.6GHz(561)、3.8GHz(571)
[編集] Prescott-2M
2005年2月21日にリリースされた第四世代Pentium 4。Prescottの2次キャッシュを2MBに倍増し、Intel 64やSpeedStep(EIST:Enhanced Intel SpeedStep Technology)に対応させたもの。XD bitも標準で搭載される。プロセッサー・ナンバーは600番台となる。
また、2005年にコンピュータの仮想化技術であるVirtualizationテクノロジを実装された製品(プロセッサー・ナンバーは6x2)も発表された。
- ラインナップ(括弧内はプロセッサー・ナンバー)
- 3GHz(630)、3.2GHz(640)、3.4GHz(650)、3.6GHz(660)(662)、3.8GHz(670)(672)
[編集] Tejas(テハス、テジャス)
当初第五世代Pentium 4として開発されていたが、NetBurstアーキテクチャの消費電力の増大の問題が解決できず、開発中止になった。
[編集] CedarMill(シーダーミル)
2006年1月5日にリリースされた第五世代Pentium 4。Tejasの製造プロセスを微細化したものとして計画されていたが、Tejasが開発中止となったため、CedarMillはPrescott-2Mをそのまま65nmプロセスに微細化したものに変更された。内容的にはPrescott-2Mと同一で、プロセッサナンバも同じく600番台。
- ラインナップ(括弧内はプロセッサー・ナンバー)
- 3GHz(631)、3.2GHz(641)、3.4GHz(651)、3.6GHz(661)
[編集] 関連項目
- Intel 64 (EM64T)
- ハイパー・スレッディング (HT) テクノロジ(同時マルチスレッディング)
- エグゼキュート・ディスエーブル・ビット(NXビット)
- Intel SpeedStep テクノロジ
- プロセッサー・ナンバー
- Athlon / Athlon 64
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