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M1ガーランド

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

M1ガーランドえむわん - )は、アメリカ合衆国スプリングフィールド国営造兵廠が開発した自動小銃

M1ガーランドという名称はいわゆる「愛称」であり、正式な名称は「U.S.Rifle Cal.30.M(MODEL)1」という。この愛称は、本銃設計者の「ジョン・ガーランド」からとったものである(直訳すると「花輪」であるが、全く関係ない)。

当時のスプリングフィールド国営造兵廠と、現在、M1ガーランド、M1Aなどを製造するスプリングフィールド・アーモリー社は法人的に全く無関係である。

M1 Garand
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M1 Garand
M1C Garand(M84 スコープ付き)
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M1C Garand(M84 スコープ付き)

目次

[編集] 解説

M1ガーランドは、第二次世界大戦で米軍の歩兵用主力ライフルとして活躍した、世界で初めての主力軍用セミオートマチックライフル(半自動小銃)である。採用自体は1936年に制式採用されていたが、それまでの歩兵用小銃と全く異なる構造のため、生産インフラが整わず、米軍兵士に有効戦力として配備されたのは1941年後半頃といわれている。そして、米軍兵士のすべてが本銃を装備し、戦闘を行ったとされているのは、1942年ガダルカナル島の戦いであるとされている。

本銃の最も特筆すべきところは、その存在そのものである。すなわち一国の軍隊の主力装備としての歩兵用自動装填式ライフルである点に他ならない。

当時、第一次世界大戦から第二次世界大戦終戦まで、枢軸軍、米国を除く連合軍を問わず、歩兵が常時携帯する小銃は、九九式短小銃にみられるような装弾数5発~10発のボルトアクションライフルという手動遊底装弾式小銃であった。このボルトアクションライフルは、装弾から排莢の連続性を人間の力に頼らなければならない。実際の戦闘において、当時はこのような銃を使う小銃戦であったために、現代の軍隊が行うような機動戦術は行使されず、もっぱら「一撃必殺」を主眼とした狙撃戦や、待ち伏せ、集団戦法に置ける一斉掃射で面的制圧を行うのが常であった。ボルトアクションライフルは、コストが安く、部品点数も極めて少なく、構造が単純で射程と命中精度に極めて優れるため、歩兵用の小銃としてはうってつけであったわけであるが、最大の弱点は速射性に乏しいことであった。つまり、兵士が目標をとらえ、第一弾を発射し目標をハズした場合、ボルトを引いて再装填→照準→発射という一連の行動を行うわけであるが、再装填の際に照準器から視線をはずさないと、再装填できないという弱点があった(ボルトアクションライフルでも、視線をはずさずにボルト操作を行うことは可能は可能であるが、それを行うには相当の練度を要する)。ボルトアクションライフルを使用する兵士は、常時狙撃状態にあるという現在の小銃戦から見ると、おかしな状況が続いてしまうわけである。

このような当時の主力小銃では「走りながら撃ちまくる」や機関銃や自動拳銃、ダブルアクションリボルバーなどでは可能な「狙ったところに当たりをつけ、数発連射して当てる」などという行為はとても不可能であった。

当然各国軍部もこのことは良く理解しており、歩兵用の自動小銃の開発を鋭意進めていた。しかし、歩兵用の自動小銃を作る際、どうしてもネックとなるのが「コスト」と「技術」であった。一国の軍隊の兵士すべてに自動小銃を配備するというのは、実は当時では途方もない事であり、また小銃弾という威力の高い弾薬を歩兵用の可搬性の高い小銃クラスで自動発射させるとなると技術的にも非常に高い物が要求されるという点で、ほとんどの国では、試作品や少数の量産品が配備されるという例外を除いては、主力自動小銃というものは皆無であった(1940年代までは、アメリカ軍でさえ「M1903スプリングフィールド」というボルトアクションライフルが主力であった)。すなわち、このM1ガーランドは、「持てる国」「資本主義の合理性」「大量生産大国」「銃器大国」というアメリカ合衆国ならではの自動小銃であったといえる。

ガダルカナルの戦いでは、米軍は本銃を全部隊に配備し日本軍と戦闘を行った。その結果は歴然で、セミオートながら装弾時間にロスがなく、ボルトアクションライフル並の命中率を誇る本銃と弾薬も豊富な米軍を前に、手動式ボルトアクションライフル(装填音から別名ガチャリンコ)が主力であった日本軍は圧倒された。ある意味、日本軍はこの「M1ガーランド」に敗北した戦闘であったという見方をしても決して過言ではない。

[編集] 特徴

M1ガーランドは、デビュー当時は世界に類を見ない画期的なメカニズムをもった銃であり、またその画期的さが故に、現在の銃器技術から見ると特徴的な欠陥を抱えた銃でもあった。多くの銃器がそうであるように、この銃で発明された技術が持つ機能が現在の銃器にも受け継がれると同時に、その後一切日の目を見ることのない技術を同時に抱えた銃であった。

[編集] 長所

本銃の長所は、先にも記述したとおり、発射時のガス圧を利用した自動装填にある。ロータリーボルトロッキングというボルトアクションライフルの手動発射過程を自動化したような機構を使用しているのも、当時の発明品らしい自動小銃であることが伺える。この機構のおかげで、本銃は自動小銃としてはボルトアクションライフルに匹敵する極めて高い薬室の閉鎖性とそれに伴う高い命中率を完成させている。

更に、ローディングクリップ装弾方式という今の銃から見れば少々変わった装弾方式をとっているのも特徴である。これは8発で1クリップになった弾丸の束を銃のボルトを引いて上部からクリップごと差し込み装弾する方法である。発射し終わると、最終弾の排莢と同時にクリップも排出され(特徴的な金属音がする:下項参照)撃ち尽くしたことを射手にアナウンスし、また次の弾薬クリップを差し込むことが可能となる。撃ち尽くした際、銃の弾倉には何も残っていないため、何も考えず、即座に次々と弾薬クリップを差し込む事が可能で、銃自体の装弾数は8発と少ないものの、多弾倉マガジンを持つ銃に匹敵する装弾性能を持つシステムであった。

更に、本銃では、同じ銃の間での部品交換が確実に可能であったことも長所としてあげることが出来る。これは意外に思われるかもしれないが、同製品間での「規格」の概念、つまり「品質管理」が確立したのは、第2次世界大戦中の米国である。米国資本主義の「合理性」の概念と「大量生産体制」の確立。そして「製品保証」の考え方が、このような銃器にも反映されている。

旧日本軍の三八式歩兵銃などではよく聞かれる話であるが、複数の職人が同時に同じ銃を完成させた場合、当時の日本工業製品には「規格」の概念が存在しなかったため銃職人がその場で部品のサイズなどを微妙に調整してしまい、同じ設計で同じ製品であるにもかかわらず、同機種の銃器の部品相互互換性がまったくないという現象が頻繁に起きていた。これは日本に限らず、当時の諸外国では程度の差はあれ、実情はこのような物で、兵器・武器の部品の互換性は大きな問題点として各国も認めていた。それを世界で最初に解消したのは米国であり、小銃ではこのM1ガーランドが最初といわれている。

[編集] 短所

上記のように素晴らしい長所を持つ本銃ではあるが、本銃特有の欠陥も持ち合わせていた。これは設計ミスによる不良という意味ではなく、現場で戦う兵士から疎まれた機能といっても良いだろう。

本銃を使用した兵士が、100人いれば100人が語る本銃の欠陥とは、上記で記述した長所でもある「装弾クリップ」のシステムである。このシステムは、確かに連続的な射撃を行う際には非常に有利ではあるが、その構造上「追加装弾」を行うことが出来ないのである。例えば、8発の弾丸の内、6発を発射したとする。そこで何らかの事由により、銃に6発を追加して、弾倉を8発に満たしておくといった行為が、M1ガーランドでは不可能なのである。

通常のボルトアクションライフルの場合、ボルトを引いて、追加したい弾を上から1発ずつ押し込めば済む話であるし、マガジン式小銃の場合でも、マガジンを引き抜き、その上から弾を装填すれば良いだけのことである。 しかし、M1ガーランドの装弾クリップの場合、8発1セットのクリップごと弾倉に押し込む必要がある。そしてクリップ自体が単発の弾を追加装填できる構造になっていないため、一度押し込んだ8発をすべて撃ち尽くさない限り次の8発を装填できない仕組みになっている。むろん弾倉に残った残弾を排出する仕組みはあるにはあるが、例えば3発残った弾を一度に排出した場合、一端排出すると、クリップからその3発がばらけてしまい、再度使用するためには、あと5発をクリップに加えて8発にしなければ、クリップと弾が銃で使用できないという極めて煩雑な欠陥があった。

この欠陥のために、戦場では、弾倉に残った弾を適当に撃つ「ムダ弾撃ち」が頻繁に発生した。この欠陥は、ガーランドの改良新型であるM14(M1A)が登場するまで、残ることになる。

そしてもう一つ。本銃が全弾撃ち尽くした際、上記にもある通り、最後の弾の排莢と同時にクリップも排出されるわけであるが、その排出されたクリップが落下した際に、構造上「チーン」という甲高い金属音を発する。これはすなわち、敵に「私は弾を撃ち尽くしました」と宣言しているようなもので、兵士の間では極めて不評であった。実際に戦った兵士の話でも、「このクリップが飛ぶたびに、敵の一斉射撃がやってくる」という話がよく聞かれ、第2次大戦を扱った映画などでも、この機能を揶揄した演出がよく見られる。また、前線ではこの欠点を利用し、「クリップを投げて、弾切れに見せかける」という技を使う者も現れた。

このクリップ排出音の話は、かなり脚色された面もあり、実際の大規模混戦状態でこの音が聞こえるかと言えばかなり無理がある話ではあるものの、南方へ進出した日本兵の話などでは、静まりかえった南方のジャングルなどでは自分の呼吸も木霊して聞こえるというほどの静けさで、実際ガーランドのクリップ排出音は聞こえるといった証言もある。従って、この話は偵察時の突発的な戦闘などで起こる小規模戦闘時の体験談が元になっていると考えられる。

このように長短併せ持つ名銃M1ガーランドではあるが、その長所短所も突き詰めれば極めて「アメリカ的」といえるのも確かである。すなわち「持てる国の贅沢な銃」という点である。上記欠点にしても他の国であれば、上層部の激怒を買いそうな欠点であるが、掃いて捨てるほどの豊富な補給物資に恵まれたアメリカ軍であるからこそ、この欠点ですら戦場で大きな問題にはならないというアメリカ合衆国という国家自体の異様な力と大国の余裕を垣間見ることが出来る銃なのである。

[編集] バリエーション

M1ガーランドはその優秀性が故に、第2次大戦後も使用され続け、初期の自衛隊の主力小銃として、また現在でも発展途上国などにおいて現役で活躍している。そして現在の米軍や自衛隊などでもそのデザインの美しさから、式典などの儀仗銃として容易に見ることが出来る。米国では、スプリングフィールド社で2006年現在も製造販売が続けられているほか、その後も改良派生型が登場している。

[編集] ガーランド・タンカースモデル

M1ガーランドの戦車兵用カービンモデル。前部ハンドガードを3分の1ほどの長さまで短縮したモデル。

[編集] M14(M1A)・M21

M1ガーランドの改良型アサルトライフル。多弾倉ボックスマガジンを採用し、フルオート射撃が可能になった。民生用に「M1A」、狙撃型で「M21」などのバリエーションが存在する。ベトナム戦争時の銃であるが、一端退役後、近年再採用された。詳細はスプリングフィールドM14の項を参照の事。

[編集] 四式自動小銃(一説では五式)

旧日本軍も、空挺隊などで利用するための自動小銃の必要性を感じていたが、そのノウハウがなく開発に苦慮していた。それまでに数種の自動小銃を試作してはいたのであるが、制式には至っていない。

太平洋戦争後期までその状態が続くが、軍部が目を付けたのが、米軍が実用化に成功し、当時最も完成した自動小銃のM1ガーランドである。鹵獲したM1ガーランドを海軍主導で徹底的に解析し、九九式小銃弾を使用できるよう改設計し、使用するつもりでいた。その際、外装部品も、今までの日本軍の規格に準ずる形で造られることになった。

そして出来上がった四式自動小銃は、口径を当時主力であった九九式短小銃に合わせた7.7ミリとし、弾倉を二発増しの10発固定マガジン式に変更。さらには軽量化を図り、リアサイトは照尺式となった。これが帝国軍版M1ガーランドともいうべき自動小銃である。この銃は、試験不足が祟り満足に作動する物は存在しなかったとの証言もある。大戦末期に横須賀工廠で100丁強が、ワシオ精機で100挺が生産されたとも言うが正確な生産数は依然不明である。なお横須賀工廠生産分には「四式」の刻印があった。

また四式=五式との説が根強いが、一方でそれらは形状こそ似ているが製造元が異なる別銃ではないかという見方もある(五式が九九式小銃用の7.7mm実包仕様で、四式は海軍の留式機銃用の7.7mm実包・0.303ブリティッシュ仕様だったという文献記録もある)。これが事実であれば、帝国軍内で並行してガーランドの模倣計画が進行していたことになろう。

一般には実戦で使用されることはなかったとされるが、沖縄戦など島嶼戦で使用された可能性は拭いきれない。主に米国内であるが戦場で鹵獲されたと思しき日本製ガーランドコピーが流通している事実がそれを物語っている。 終戦時に資料が散逸しており、名称からその生産実態、使用記録までもが判然としないミステリアスな銃であるため、根拠が曖昧な諸説が飛び交っている現実がある。本銃の考察にはその点を踏まえる必要がある。

[編集] データ

  • 使用弾:7.62mm×63(30-06弾)
  • 全長:1,108㎜
  • 全重量:約4.3㎏
  • 装弾数:8発
  • ライフリング:4条右転
  • 初速:848m/s

[編集] 登場するメディア作品

上記他、第二次大戦や朝鮮戦争を扱った作品全般

[編集] 主力装備として採用された主な国、組織

  • アメリカ合衆国(軍)
  • 日本国(警察予備隊~自衛隊)
  • 大韓民国(軍)
  • ソビエト連邦(軍、但し第2次世界大戦中の米軍による武器供与にて)

[編集] 本項で紹介した銃器の写真リンク

  • M1ガーランド[1]
  • M14(M1A)[2]
  • M21[3]
  • 四式(五式)小銃[4]

[編集] 関連項目

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