DEC Alpha
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DEC AlphaはAlpha AXPとしても知られ、ディジタル・イクイップメント・コーポレーション (DEC)(現ヒューレット・パッカード)によって開発された64ビットRISCマイクロプロセッサである。AlphaはDECのワークステーションやサーバに使用された。AlphaはVAXシリーズのコンピュータの後継として設計され、オペレーティング・システムとしてはDEC版UNIX (Tru64 UNIX) やVMSをサポートした。後に、Linuxや一部のBSDようなオープンソースのオペレーティング・システムもAlpha上で動作するようになった。マイクロソフトもWindows NT 4.0 SP6までAlphaをサポートしたが、Windows 2000 beta 3以降、サポートは打ち切られた。
[編集] 歴史
Alphaは、それ自体以前の複数のプロジェクトの最終生成物である、PRISMという初期のRISCプロジェクトで生まれた。DECはワークステーションの設計のためにMIPSチップセットに関わっており、当然PRISMも多くの特徴をMIPSと共有していた。しかし、Epicodeとして知られるユーザープログラム可能なマイクロコードのサポートについてはMIPSとは異なっていた。
Alphaは、VMSとUNIXという複数のオペレーティングシステム (OS) をサポートするため、PAL CODE という仕組みをサポートしていた。 PAL CODEは、表面的にはマイクロコードそのものであるが、実体は「割り込み不可能なサブルーチン」であり、特権モードの生成などに使われた。VMSはCPUの動作モードとしてカーネル、エグゼクティブ、スーパバイザ、ユーザーの4種類を必要とするが、UNIXはカーネルとユーザーの2つでよい。モード切り替えの機能をPAL CODEとして分離することで、RISCの単純さを保ちつつ、アーキテクチャの異なるOSのサポートを可能にしたのである。
PRISMは「ネイティブ」なプログラムをフルスピードで実行し、かつ既存のVMSのプログラムも多少の変換によってサポートするEmeraldとして知られる新しいオペレーティング・システムとともにリリースされることを意図して設計されていた。しかし、DECの経営陣は既存の稼ぎ頭を新しいマシンで置き換える必要性を理解せず、結局1988年にプロジェクトは中止された。
しかし、中止の時点でより新しいSPARCやMIPSといった第2世代のRISCチップはすでにVAXシリーズよりずっと良い価格性能比を誇っていた。第3世代のチップは価格だけでなく、全ての面においてVAXを完全に上回るであろうことは明らかだった。そのため、VMSオペレーティング・システムを直接サポートする新しいRISCアーキテクチャが可能かどうかを調べる別の研究が始まった。新しいデザインはほとんどのPRISMの基本コンセプトを踏襲したが、VMSとVMSのプログラムを適度なスピードで全く変換せずに実行できるように、方針が転換された。主なRISCベンダと同様に、PRISMの32ビットから完全な64ビットの実装に設計を変更する決定もなされた。結果として、新しいアーキテクチャがAlphaとなった。
Alphaのマイクロプロセッサ業界への主な貢献と、その優秀な性能の主な理由は、アーキテクチャというよりはむしろ優れた実装によるものである。当時(現在も同じだが)、マイクロチップ産業は自動化された設計およびレイアウトツールが中心となっていた。DECのチップ設計陣は過度に複雑なVAXアーキテクチャを扱うために、人手による洗練された回路設計を追求し続けた。シンプルでクリーンなアーキテクチャに適用された人手による回路設計は、自動化された設計システムによるものよりもずっと高い動作周波数を可能にするということを、Alphaチップは示した。これらのチップは、マイクロプロセッサ設計コミュニティにカスタム回路設計というルネッサンスをもたらした。
Alphaチップの最初の頃の世代のものは、当時もっとも革新的なものであった。最初のバージョンである21064 (EV4)は、より高性能なECLミニコンピュータやメインフレームに匹敵する動作周波数を誇る最初のCMOSマイクロプロセッサである。2代目の21164(EV5)は、大容量の2次キャッシュをチップの中に持つ最初のマイクロプロセッサであった。3代目の21264(EV6)は、高い動作周波数とより複雑なアウト・オブ・オーダー実行を組み合わせた最初のマイクロプロセッサであった。
Alphaのコード名はEVAX(Extended VAX)であったが、実際の製品名の決定は難航した。最後に「ARA (Advance RISC Architecture)」が残ったが、一部の国で「不適切な言葉」とされたため白紙に戻った。最終的に「Alpha」という名前が決まってからも、商標上の問題からAlpha AXPとなった。実際には、この追加は必要なかったようで、最終的にAlphaに戻ったようである。AXPの意味には諸説あるが、真相は商標コンサルティング会社が考えたもので意味はないそうである。DEC社内に流れた文書によると「覚えやすい3文字」「Xを含むと先進的なイメージがある」「他社の商標権を侵害しない」ということで決まったということだ。DEC社内では "Acronym eXpert is Paid too much" (略語の専門家に多額の金が払われた) の略というジョークがささやかれていた。
[編集] バージョン
最初のバージョンであるAlpha 21064は1992年に導入され、200MHzで動作した。64ビットプロセッサであるAlphaは、他のRISC設計と同様にスーパーパイプライン化されスーパースカラーであったが、にもかかわらずそれらの性能を凌駕し、DECは世界最速のプロセッサと喧伝した。Hudson設計チームのお家芸である回路設計へのこだわりにより、他のRISCチップとよく似たマイクロアーキテクチャであったにもかかわらず、Alphaはより高速で動作することができた。比較すると、次の春に発売されたインテルPentiumは66MHzで動作した。
Alpha 21164は333MHzで1995年に市販された。1996年7月には500MHzに引き上げられ、1998年3月には666MHz、2000年5月には731MHzで21264がリリースされた。1GHz以上のものが2001年に発表され(21364, EV7)、2003年からは1.1GHz以上のものが市販されている。2000年末までに500,000台以上のAlphaベースのシステムが販売された。
Alphaチップの生産はサムスン電子にライセンスされた。コンパックによるDECの買収により、Alphaの資産の大部分はサムスンとコンパックが出資したAPI NetWorks, Inc. (以前はAlpha Processor Inc.)に移管された。
2001年、コンパックはインテルItaniumに移行するため2004年までにAlphaチップの開発を終了すると発表した。コンパックを買収したヒューレット・パッカード (HP) は、Alphaシリーズのサポートは数年間継続し、EV7zチップをリリースする(EV79とEV8は中止)が、これが最後のAlphaシリーズになることを発表した。HPはTru64のメンテナンスと販売を2006年まで継続し、サポートは2011年まで延長された。
皮肉にも、Alphaがフェイズアウトする間際の2003年中盤に、米国で1番と2番に速いコンピューターは共にAlphaプロセッサを使用していた。前者は4096個のAlphaプロセッサのクラスタである。
2004年8月16日に、HPは1.3GHzのEV7zのリリースを発表し、これが生産される最後のAlphaモデルとなった。