首飾り事件
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首飾り事件(くびかざりじけん)は、1780年代、フランス革命前夜のフランスで起きた詐欺事件。ヴァロア朝の血を引くと称するジャンヌ・ド・ラ・モット伯爵夫人が、王室御用達の宝石商ベーマーから160万リーブル(1リーブル≒12000円といわれる)の首飾りを騙し取った。
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[編集] 背景
ラ・モット伯爵夫人は、王妃マリー・アントワネットの親しい友人だと吹聴してルイ・ド・ロアン大司教に取り入り、王妃の名を騙り金銭を騙し取っていた。
宮廷司祭長の地位にあったロアン大司教は、ストラスブールの名家出身の聖職者でありながら、一方では大変な放蕩ぶりでも知られていたため、マリー・アントワネットに嫌われていた。だが大司教は諦めることなく、いつか王妃に取り入って宰相に出世する事を望んでいた。
宝石商シャルル・ベーマーとそのパートナーであるポール・バッサンジュは、1778年に先王ルイ15世の注文を受け、大小600個のダイヤモンドからなる160万リーブル相当の首飾りを作製していた。これはルイ15世の愛人デュ・バリー夫人のために注文されたものだったが、ルイ15世の急逝により契約が立ち消えになってしまった。高額な商品を抱えて困ったベーマーはこれをマリー・アントワネットに売りつけようとするが、あまりに高額で、また敵対していたデュ・バリー夫人のために作られたものであることから、王妃は購入を躊躇した。そこでベーマーは、王妃と親しいと吹聴していたラ・モット伯爵夫人に仲介を依頼した。
[編集] 事件
ラ・モット伯爵夫人は一計を思いつく。1785年1月、ラ・モット伯爵夫人は、ロアン大司教にマリー・アントワネットの要望として、この首飾りの代理購入を持ちかけた。伯爵夫人は、娼婦マリー・ニコル・ルゲイ・デシニー(後に偽名「ニコル・ド・オリヴァ男爵夫人」を称する)を王妃の替え玉に仕立て、ロアン大司教と面会させることで、この首飾り購入話が真実であるかに見せかけた。ロアン大司教は騙されて首飾りを代理購入し、ラ・モット伯爵夫人に首飾りを渡してしまう。
その後、首飾りの代金が支払われないことに業を煮やしたベーマーが、王妃の側近に面会して問い質した事により、事件が発覚。同年8月、ロアン大司教とラ・モット伯爵夫人、ニコル・ド・オリヴァは逮捕される。ラ・モット伯爵夫人はこの時、事件とは無関係とされるロアン大司教と懇意であった医師(詐欺師)カリオストロ伯爵を、事件の首謀者として告発し、カリオストロ伯爵夫妻も逮捕される。
事件に激昂したマリー・アントワネットはパリ高等法院(裁判所)で身の潔白を証明しようと試みた。しかし政治的に宮廷と対立していた高等法院は、王妃にとって都合の悪い判決を下した。1786年3月に下された判決は、ロアン大司教、カリオストロ伯爵夫妻、ニコル・ド・オリヴァは無罪、ラ・モット伯爵夫人は有罪と言うものであった。
[編集] 社会的影響
首飾り事件についてフランスの巷では王妃の陰謀説が噂になり、マリー・アントワネットを嫌う世論が強まった。そのことから、首飾り事件をフランス革命の一因とする見方がある。
ナポレオン・ボナパルトも、首飾り事件をフランス革命の原因の一つに数えている。
[編集] フィクションへの影響
[編集] 文芸作品
この事件を題材にした作品「王妃の首飾り」をアレクサンドル・デュマが書いている。そこでは王妃の陰謀説が取られている。
またゲーテもこの事件を題材に喜劇戯曲「大コフタ」を書いた。ここではカリオストロをモデルとする「ロストロ伯爵」を事件の黒幕として描いている。この作品は初演時には、ゲーテの著作としては低い評価しか得られなかったが、この戯曲の一部にヴォルフが曲をつけた「コフタの歌」は現代でも好評を得ている。
モーリス・ルブランの「アルセーヌ・ルパン」シリーズ第1作「怪盗紳士ルパン」の中の1編「女王の首飾り」でもこの首飾り事件が扱われている。幼き日のアルセーヌ・ルパン最初の犯行対象が、この首飾りである。
日本では、遠藤周作が『王妃マリー・アントワネット』の中のエピソードとして、この事件について書いている。
[編集] 映画
この事件を題材にした映画に「マリー・アントワネットの首飾り」がある。(監督:チャールズ・シャイア、主演:ヒラリー・スワンク、エイドリアン・ブロディ、サイモン・ベイカー、ジョエリー・リチャードソン。クリストファー・ウォーケンなど)
アルセーヌ・ルパン生誕100周年を記念した映画「ルパン」でも、この首飾りが重要なアイテムとして登場する。カルティエが全面協力した逸品。
[編集] 漫画
池田理代子の「ベルサイユのばら」作中の主要エピソードの1つとして用いられている。また、ラ・モット伯爵夫人(ジャンヌ・バロア)の異母妹(架空の人物)は、作中を通じて登場する主要人物として設定されており、「栄光のナポレオン-エロイカ」にも登場する。