違法収集証拠排除法則
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違法収集証拠排除法則(いほうしゅうしゅうしょうこはいじょほうそく)とは、証拠の収集手続が違法であったとき、公判手続上の事実認定においてその証拠能力を否定する刑事訴訟上の法理である。排除法則とも呼ばれる(以下、排除法則と表す)。 非供述証拠に関しては、明文規定はなく、判例によって採用された原則とされている。供述証拠に関しては違法に採取された自白の証拠能力を否定する規定(憲法38条2項 、刑事訴訟法319条1項)があり、排除法則に対する特別規定となる。
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[編集] 根拠
非供述証拠の排除法則は、前述したように明文規定はないものの、憲法31条、35条や刑事訴訟法218条1項 の趣旨に由来するものであるといえる。憲法31条は適正手続の保障を定めている。これは同時に、人身の自由についての基本原則とされ、公権力を手続的に拘束し、人権を手続的に保障することを目的とした条文であるとされている。35条は令状主義をその趣旨とし、裁判官による令状がなければ、住居、書類および所持品について侵入、捜索および押収を受けることはない旨を保障している。すなわち、言い換えるならば、排除法則は憲法の定める適正手続と令状主義の要請といえる。 また、学説上は排除法則の根拠としてはこれまで主として規範説、司法の廉潔性説、抑止効説の3つの説が唱えられてきた。
- 規範説は、憲法保障説ともよばれ、違法収集証拠の利用は憲法の定める適正手続に反するとする。なお、これに対しては憲法を守るために犯人を釈放するのは筋違いであるなどの批判がある。
- 司法の廉潔性説は、違法収集証拠の裁判手続での利用は司法に対する国民の信頼を裏切るとする説である。この説に対しては、犯人を逃すことの方が司法に対する国民の信頼を裏切ることとなるなどの批判がある。
- 抑止効説は、将来の違法捜査の抑止のためには違法収集証拠を排除することが最善の方法であるとするものである。これに対しては、違法収集証拠の排除が将来の違法捜査の抑止となる効果が実証されていないという批判がある。
このようにそれぞれ批判はあるものの、今日では、抑止効説を主流としながら、これら3つの説が総合的に排除法則の根拠をなしていると考えられている。
[編集] 適用基準
違法収集証拠の排除の基準には絶対的排除説と相対的排除説の二つの考えがある。
(1) 絶対的排除説 絶対的排除説は、証拠収集手続の違法の有無を証拠能力否定の基準とするものである。この説は、排除法則の根拠に関する規範説に親しむ基準といえる。これに対しては、些細な違法があったにすぎない場合にも一律に証拠能力を否定することは、真実発見を困難にし、現実的でないとする批判や、裁判所が証拠収集の違法認定に対して慎重になりやすくなるとの批判などがある。
(2) 相対的排除説 相対的排除説は、証拠収集手続に憲法違反があった場合は絶対的に証拠を排除するが、それ以外の場合には司法の廉潔性や将来の違法捜査の抑止の観点から、諸般の事情を利益衡量して排除を決定すべき、とする。すなわち、手続違反の程度、捜査官の有意性、証拠の重要性、手続違反と証拠の因果関係、事件の重大性などを総合的に考慮した上で、証拠能力を判断すべきであるとしている。これに対しては、事件の重大性や証拠の重大性を考慮すれば、処罰の必要を重視することになり、証拠が排除されないことになるとの批判や、柔軟な排除基準を採ることは、かえって司法に対する国民の信頼を損なうとする批判などがある。 しかし、排除法則の根拠も総合的に考慮すべきであるから、その基準も利益衡量とならざるをえない点、および裁判所による捜査手続の違法認定は、仮に証拠の排除がなされなかったとしても、判例による捜査法の形成という一定の効果をもたらしうるので、違法宣言の出しやすい基準が望ましい点などから相対的排除基準がより妥当と考えられる。
最高裁判例が示した基準は「令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定される」というものであり、相対排除説の立場をとっているといえる。
[編集] 判例
排除法則が、日本の最高裁判例 で採用されたのは昭和53年からのことである。それまでの判例は「押収物は押収手続が違法であったとしても物自体の性質、形状に変異を来す筈がないから其形状等に関する証拠たる価値に変わりはない」としてきた (最判昭和24・12・13[1])。しかし、学説上は、アメリカ法の影響を受け、少なくとも収集手続に重大な違法がある証拠の証拠能力は否定すべきとする見解が有力になっていた。また、最高裁昭和36年6月7日大法廷判決では15人中6名の裁判官が反対意見として、理論的に違法収集証拠排除法則を認めた。下級審においても、違法収集証拠排除法則を肯定する裁判例が増えてきていた。このような状況の下、最高裁は昭和53年9月7日第一小法廷判決において、排除法則を理論的に認めた。
(1)最高裁昭和53年9月7日第一小法廷判決 論理としての排除法則を初めて採用した最高裁判決。
(2)最高裁平成15年2月14日第二小法廷判決 実際に排除法則を適用した初めての最高裁判決。