判例
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判例(はんれい)とは、特定の裁判において裁判所が示した法律的判断である。
講学上は最高裁判所によってなされたもののみを判例とよび、下級裁判所によるものは裁判例として区別することもある。
厳密な意味では、裁判所が示した判断の全てを判例と呼ぶわけではない。一定の法律に関する解釈であり、他の事件への適用の可能性のあるもののみを判例と呼ぶ。判決の一部を取り出して、先例としての価値(レイシオ・デシデンダイ (ratio decidendi))のある部分のみが「判例」であるとする考え方もある。この場合、拘束力をもたない部分を「傍論」(オビタ・ディクタム)という。
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[編集] 判例の意義
判例は上級裁判所による判決に対して、先例としての重み付けがなされ、以降の判決にも影響を及ぼす(拘束力)ことを意味するが、その根拠としては法の公平性維持が挙げられよう。同類、同系統の訴訟、事件に対して、裁判官によって全く異なった判決が下されることは公平性に欠けるという考えである。特に同じような事例に対して同様の判決が繰り返されると、その後の裁判に対する拘束力は一層強まり、不文法の一種である判例法を形成すると考えられている。
英米法の国にあっては判例は重要な法源である。判例は法的な拘束力を持ち (doctrine of stare decisis)、成文立法が全く、あるいは殆ど無いにもかかわらず、判例のみで一つの法分野をなすことさえある。なお、英米法系の国においても制定法もまた法源である。
大陸法の国にあっては、判例は法源ではなく、これほどの拘束力は有していない。法律、命令、条例などの制定法のみが法源である。しかし、最上級の裁判所の判例は下級の裁判所にとって拘束力を有している。
大陸法系の訴訟手続をとる日本国においては、判例には法的な拘束力は認められていない。唯一の立法機関である国会の定める法規(あるいはより下位の存在である条例)のみが法源として採用されることが原則である。ただ、紛争の解決に実効性を持たせるために、同一の事件について上級の裁判所が下した判断は当該事件限りにおいて下級の裁判所を拘束する(裁判所法4条)。また、最高裁判所の判例や戦前の大審院の判例に反する判決であることは、刑事訴訟では上告理由となり(刑事訴訟法405条2号3号)、民事訴訟では上告受理申立理由となる(民事訴訟法318条1項)。また最高裁において従来の判例を変更する場合は大法廷を開くことが定められている(裁判所法10条3号)。これらのことから、本邦においても判例には事実上の拘束力があるとされる。
[編集] 参考文献
- 中野次雄編『判例の読み方(改訂版)』(有斐閣、2002年4月)ISBN 4641027730