蕁麻疹
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蕁麻疹(じんましん)は、急性皮膚病の一つ。 I型アレルギーが関与していると考えられている。蕁麻疹は湿疹とともに経過を表す言葉であるが、湿疹のひとつである接触性皮膚炎などはIV型アレルギーが関与していると考えられ、両者は区別されている。経過の多様性がないことも湿疹との差異である。発疹の出没が1ヶ月以内のものを「急性蕁麻疹」、1ヶ月以上のものを「慢性蕁麻疹」と分類することがあるが、分類する意義がないという意見もある。
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[編集] 症状
- 皮膚の灼熱感・かゆみを伴う発疹が生じる。数分~数時間で消退するが、発作的に反復して発疹が起こる。
- 発疹の特徴として、軽度の膨らみをもった「みみず腫れ」を特徴とし、医学用語では膨疹(ぼうしん)と表現する。
- 真皮深層や皮下組織など深いところで炎症を起こし、一過性限局性の浮腫が生じることがあり、「血管浮腫」と言われる。特に口唇やまぶたに生じるのが典型的。蕁麻疹とは異なり、掻痒はなく、出現すると3~4日続くのが特徴。まれに、腸管にも浮腫を生じることがあり、その場合、消化器症状を伴う。
- 気道内にも浮腫を生じることがあり、この場合、呼吸困難を併発し、死ぬこともある。
- アナフィラキシーショックの一症状である。
[編集] 原因
- 食物性蕁麻疹 原因食物を摂取してから30分以内に起こるのが通常である。サバなどの生魚が多いが、古くなるとすぐ醗酵してヒスタミン性の物質を作るためとされている。また、その食物そのものに対してアレルギー反応がないが、消化器官で代謝された代謝産物に対してアレルギー反応をもっている場合も多い。
- 物理性蕁麻疹 機械刺激・温度・圧迫・汗・運動などで誘発される場合がある。
- 薬剤性蕁麻疹 薬剤によるアレルギーである。薬剤摂取後30分以内に起こるのが通常。抗生剤・NSAIDの頻度が高い。
- コリン性蕁麻疹 発汗刺激により生じる。膨疹とその周囲に紅斑を伴うという特徴的な発疹を生じる。一過性であり、汗をかくたびに生じる。神経伝達物質であるアセチルコリンに対する過敏と考えられている。
- 血管浮腫は、降圧剤のACE阻害薬が原因のことがある。ACE阻害薬によりブラジキニンの産生が生じ、それが血管透過性の亢進を招くのが原因である。また、近年、アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬でも生じる例も多く、注目されている。その他、遺伝性もあり、HANE(遺伝性血管神経浮腫)と呼ばれる。補体第一成分阻害因子(C1-INH)の先天的欠損である。
- ラテックスアレルギー(Latex allergy)と呼ばれ、医療用の手袋に使われている天然ゴムの成分によってアレルギー反応を起こす病態がある。天然ゴムの原料となるゴムの木は、そのほとんどがHevea brasiliensisという種類であり、東南アジア地域に集中して栽培されている。ラテックスは、成長したゴムの木の幹に傷をつけそこから得られた白い樹液であり、多くの蛋白質が含まれている。ゴム手袋など最終製品にもこの蛋白質が残留しておりアレルギー反応を起こすものと考えられる。また、メロン・桃・栗などのフルーツに含まれる成分と交叉反応を起こすことがあり、フルーツアレルギーを合併するため、ラテックス・フルーツ症候群と呼ばれることがある。当然、患者のほとんどは、医師・看護師をはじめとした医療従事者である。二分脊椎症の人にも多い。主要アレルゲンは、Hevea brasiliensis proteins(b1~b10)まで同定されている。
- 食物依存性運動誘発性アレルギー(FDEIA food-dependent exercise-induced anaphylaxis)と呼ばれる病態がある。アスピリン薬剤・食物・運動の複合要因でアレルギー反応を起こすものである。原因食物として小麦・果物・エビが多い。特定食物摂取後、2~3時間後に運動するなどで生じ、アスピリン製剤の使用により誘発されやすくなるという。「学校教育において午後に体育の時間をなるべく設定しないように。」と、専門家が呼びかけている。小、中、高校生の1万人に1人程度の割合で発生しているとのこと(2006年調査)で、頻度は低くない。小麦の原因抗原はw-5グリアジン・高分子量グルテニンであることが分かっており、特異的IgEの検査が行える。
- 口腔アレルギー症候群(OAS oral allergy syndrome)という病態がある。果物や野菜などの植物性食品が、口腔粘膜へ接触することよりアレルギー反応を起こすものである。リンゴ・サクランボ・桃・キウイの頻度が高く、シラカンバ花粉症を合併していることが多い。また、ラテックスアレルギーに関連したものもある。なお、スギ花粉との関連性についても研究中であるが、今のところ関連性は低いようである。
- 2・3年以上続く場合、膠原病や内臓疾患を合併していることがある。
[編集] 検査
[編集] 蕁麻疹と診断するための検査
- 赤色皮膚描記症という症状があり、皮膚を擦過すると赤く膨隆する。アトピー性皮膚炎では白色になる(白色皮膚描記症)ので対照的である。
- 湿疹との鑑別は経過から明らかであるが、形態学からも鑑別ができる。湿疹は湿疹の三角形で示されたとおり多様な形態をとりうるがその中に膨疹は含まれていない。よって膨疹を見つけることで湿疹を除外できる。しかし膨疹がない蕁麻疹もありえるので注意が必要である。
[編集] 蕁麻疹の原因を調べるための検査
- 血液検査で特異的IgEを調べる。RAST法とも呼ばれる。(それに対して、総IgEはRIST法と呼ばれる。)
- ヒスタミン遊離試験が血液検査で調べられる。血液に原因と思われる物質を注入し、アレルギーの原因となるヒスタミンが増加するかを見る検査である。費用がかかる。今のところ、薬剤性のものしかできないらしい。
- 皮内テスト、プリックテストなどがある。原因と思われる物質を皮内・皮下等に注入してアレルギー反応が誘発するか、を調べる試験である。しかし、それが原因でショックになることもあり、施行には入院が必要。
[編集] 治療
(急性期)
- 抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬を使用するのが一般的。
- 外用剤は、抗ヒスタミン製剤のレスタミン軟膏や、ステロイド外用剤が使用される。
- 発疹が強い場合、強力ネオミノファーゲンシーが奏功することがある。一般に「キョウミノ」と略され頻繁に使われる。
- 発疹が長時間断続的に次から次に出現する場合や症状がひどい場合、ステロイド剤を使用する。
- 血管浮腫に対しては、キニンの産生を抑制するためトラキネサム酸を使用することがある。
- 血圧低下などのショック症状があれば、エピネフリンの注射が奏功する。
- 呼吸困難を合併していれば、気管挿管などの気道確保が必要である。
(慢性期)
- 抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬を使用するのが一般的。
- 外用剤は、抗ヒスタミン製剤のレスタミン軟膏や、ステロイド外用剤が使用される。
- 難治性の場合、胃薬で使用されるH2ブロッカーが、抗ヒスタミン作用にも働き効果があることがある。
- 抗生剤や漢方薬などが使われることもある。医師・医療機関によって処方のされ方が異なるが、一定の効果を得ている場合もある。
- 慢性胃炎合併の場合ヘリコバクター除菌療法、慢性扁桃炎合併の場合扁桃摘手術を施行すると、蕁麻疹も治癒することがあり、行われることもある。
[編集] 頻度
一般に人口の15%~20%が一生のうちで一度は経験することがある。ただし、慢性蕁麻疹の頻度は非常に少ない。