緑内障
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緑内障(りょくないしょう、あおそこひ;glaucoma)は、目の病気の一つ。
眼球内部で産出された液体「房水(ぼうすい)」がなんらかの理由で外部に排出されにくくなり、 眼球内の圧力(眼圧)が上がることにより視神経が損傷し、これにより視野狭窄をきたす病気。または眼圧は正常であるにもかかわらず、視神経が損傷し、視野に欠損がみられる病気。
一度喪失した視野は二度と回復することがないため、失明の原因となる。日本では、糖尿病性網膜症に次いで2番目の失明の原因となっている。視野狭窄は自覚されないうちに末期症状に至ることも多く、発見には定期的な健康診断が必須である。
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[編集] 原因
緑内障の定義は、「何らかの原因で視神経が損傷し、それにより視野に欠損が生じた状態」である。視神経損傷の原因は、眼圧が通常よりも上昇することにより視神経乳頭が陥没し、それにより視神経への血液の運搬が物理的に圧迫阻害され、神経細胞が死滅することによるとされる。 しかし、正常な眼圧であっても視野に欠損がみられる場合があり、これは正常眼圧緑内障という。この場合も視神経乳頭に陥没がみられる。正常眼圧緑内障の発症者は、全緑内障発症者のなかでもかなり多くを占めることが明らかになった(2000年)。
[編集] 正常眼圧緑内障とは
正常とされる眼圧の値は10 - 21 mmHgであり、この眼圧の範囲内にあって視野に欠損がある人を正常眼圧緑内障と診断する。正常眼圧の範囲でも視神経乳頭に陥没がみられることが多いことから、眼圧の高さが神経を損傷する原因になっていることは他の緑内障と同じである。また正常眼圧の定義は、西洋人を対象に決められたものであるため、日本人にはやや高い設定になっているために日本での診断数が多くなっている、という見方もある。
また、一方で21 mmHg以上の高眼圧でも発症しない例もあり、これは高眼圧症と診断される。
これらのことから、眼圧だけでなく視神経の強さが緑内障の発症に関わっていることが指摘されている。このような視神経の頑強さの違いを生みだす原因は明らかになってはいない。
[編集] 疫学
日本では、以前は40歳以上の人の30人に1人が罹患しているといわれていたが(1988、89年)、2000年の疫学的調査からは40歳以上の17人に1人が罹患しているという結果が報告されている(日本緑内障学会 2000年)。 日本国内で治療中の患者は約30万人(厚生省患者調査2002年)。潜在患者数は400万人ともいわれる(2000年)。
緑内障は感染症ではない。発症者の傾向としては、以下の人が罹患しやすいといわれる。
[編集] 症状
分類の項を参照。
[編集] 分類
緑内障は構造によって3つのタイプに分けられる。または、閉塞隅角緑内障と開放隅角緑内障の2つに分けることも多い。
また発症の誘因からも3つのタイプに分けられる。
診断名には、構造による分類と誘因による分類の2つを組み合わせて、「原発開放隅角緑内障」などと使う。
[編集] 構造からの分類
- 急性型閉塞隅角緑内障
- 房水排出部である隅角が比較的短期間にふさがり、房水の排出能が急激に低下することにより眼圧が急激に上昇することで発生する。突如激しい頭痛、目の痛み、腹痛、嘔吐などの症状が出る。対処が遅れると一晩でも失明の危険がある。激しい頭痛などによる症状から脳疾患などと疑われやすく、診断が遅れることが多い。緊急の場合には、外科的手術を必要とすることもある。
- 中年以降の遠視の女性に多く発症する。
- 慢性型閉塞隅角緑内障
- 房水排出部である隅角が部分的にふさがっている。
- 自覚症状に乏しく、徐々に視野狭窄の症状がおきる。
- 開放隅角緑内障
- 隅角は開いている。
- 房水排出部が詰まって流れが悪くなり、発生する。
- 緑内障に一番多いタイプで、約90 %を占める。
- 症状は慢性型閉塞隅角緑内障と同じで、自覚症状に乏しく、徐々に視野が減少する。
- 眼圧は正常であるが、視野に欠損がみられる正常眼圧緑内障も同じ症状を示す。このタイプの1つとされている。
[編集] 誘因からの分類
- 原発緑内障
- 起因する原因が不明なもの。
- 続発緑内障
- 他の病気等が理由のもの。眼炎症に伴うもの 、ステロイドによる緑内障などがある。
- 先天緑内障
- 先天性のもの。発達性という言い方をする場合もある。「牛眼」などとよばれる。
[編集] 検査
検査は眼圧検査、眼底検査、視野検査などが行われる。
[編集] 眼圧検査
[編集] 眼底検査
[編集] 視野検査
緑内障を発症すると、視野に異常が見られる。視野の異常には自覚症状が無い場合が多く、視野検査を行うことにより発症が確認される。
- ゴールドマン視野計 (GP)
- 動的視野の計測を行う。180度の視野角の検査にも用いられる。
- ハンフリー視野計 (HFA)
- 静的視野の計測を行う。30度の狭視野の検査にも用いられる。
[編集] 治療
治療は眼圧を下げるための点眼薬、内服薬、レーザー手術、外科手術によって行われる。
[編集] 薬による治療
- 点眼薬を優先するが、眼圧降下が十分ではない場合には内服薬を併用する。どちらの場合にも人によっては副作用のみられることがある。
- 治療薬は、症状の進行を抑えるために使用するが、完全に治癒することはない。
視野欠損の程度の少ない発症初期には点眼薬により様子を見るが、視野欠損の進行具合と視神経の障害の程度から判断して、外科的手術をすることも少なくない。
[編集] 外科手術
- 外科手術には主なものに、線維柱帯切開術(トラベクロトミー)、線維柱帯切除術(トラベクレクトミー、濾過手術ともいわれる)の2つがある。前者は、眼圧降下作用が少なく、時間が経つと効果が減少することが多いが、術後の経過が比較的よく、切開の痕跡もわりと小さく押さえられる。後者は、虹彩に小さく開口部を作るとともに後房と前房の間に房水のバイパスを形成し、房水を強膜へ排出させる。眼圧降下作用が大きく、効果の長期的な持続が見込める。若年期における発症者には、線維柱帯切開術を生涯に複数回適用することにより、長期にわたり眼圧を低く保つように極力努め、濾過手術は後年の手段として選択される。
[編集] レーザー手術
- レーザー手術には主なものに、レーザー虹彩切開術、レーザー線維柱帯形成術などがある。レーザー虹彩切開術は、急性閉塞隅角緑内障を発症した場合に優先して選択される。また後者は、患者への負担が小さいため、高齢患者に適用されることが多い。しかし、眼圧降下作用が小さい、手術によって安定しない、または他の濾過手術などの外科手術との併用が難しい、などの欠点からレーザー虹彩切開術以外に関しては外科手術に代わるものではない。