経済地理学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
経済地理学(けいざいちりがく, economic geography)は、「ところ変われば品変わる」という諺が示す、特定の場所における製造業・商業等経済活動の分布状況や空間的差異を記述する人文地理学の一分野である。経済学と人文地理学の両方からのアプローチがなされている。 近代科学の登場とともに、記述から説明が学問の主要な原理に取って代わると、このような経済現象の空間的差異を、経済学の論理を用いて説明する試みが行われはじめた。 19世紀に、ドイツのチューネンは、中心に1点の需要地がある以外に全く均質な農業生産空間を前提し、そこに、距離という空間の要素をとりいれたとき、いかなる土地利用の不均質性ができるか説明する論理を構築することに成功した。20世紀に入り、やはりドイツのクリスタラーは、均質に分布する基礎的集落網からなる需要空間を前提して、財の到達範囲と呼ぶ消費者行動の距離的限界から、大都市~小都市に至る都市の階層体系が成立することを論証した。 これらの、今日では古典となっている立地論研究により、当初前提された均質な空間のうえに経済活動によって不均質な空間が成立することを説明する、という斯学の課題が明確になり、経済地理学は経済学の一分野としての地位を確立した。 近年、米国の経済学者クルーグマンらが、収穫逓増を前提し、数理的な手法で集積を説く「新経済地理学」と呼ばれるものを創始した。だがここでは、上記の経済地理学の課題が必ずしも明確に意識されておらず、不均等な空間を当初から前提し、それが変容するダイナミズムを説明する論理に大部分とどまっている。 また海外の地理学界では、経済地理学の中に文化的要素を取り入れて「経済地理学の文化論的転回」を図り、批判地理学や社会学のカルチュラルスタディーズと連携する流れも大きくなってきた。
[編集] 日本での研究潮流
日本の大学では、経済学部と、理学部・文学部等の地理学教室において研究されてきた。現在、東京大学,一橋大学,京都大学,中央大学,明治大学,東京学芸大学,立命館大学,大阪市立大学,広島大学などで、経済地理学研究が盛んである。 京都大では、クルーグマンの共同研究者である経済学者を中心に、「新経済地理学」の研究が進んできた。現在、応用地域学会に主たる基盤を置いて、さらに研究がすすんでいる。。 小中高の地理教育のメッカ東京学芸大に本部をおく経済地理学会は、ほとんど地理学者によって運営されている。この学会の核となる人々が唱える「地域構造論」は、産業や流通の地域的まとまり・分布を具体的に記述する。しかし、理論的体系性には乏しく、上記にいう近代科学以前に行われていた地理学の一分野としての経済地理学となっている。 一橋大では、「経済・社会への空間の包摂」という独自の理論構成によって、均質な原初的空間を前提し、それが有界化・空間統合されることによって空間の不均質性が生まれる過程を弁証法的に説く空間理論が研究されている。これは、大阪市立大の地理学教室が編集する雑誌「空間・社会・地理思想」などと連携し、日本での批判地理学研究の一環を構成している。