種類株式
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株式会社が、権利の内容が異なる二種類以上の株式を発行した場合、その株式を種類株式と呼ぶ。ちなみに会社法の条文上で、「種類株式」という用語を単独で用いている例は見当たらず、発行可能種類株式総数や種類株式発行会社、種類株主総会というように他の用語中で使われるのが原則のようである。
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[編集] 実務上の種類株式の呼称例
以下は実務で使われる種類株式の呼称例である。しかし会社法の制定に伴い、法律上はそのような呼称がなくなったものもある。
[編集] 優先株式
剰余金及び残余財産の配当(配分)に関する地位が他の株式よりも優越する株式のこと。実務上での詳細は優先株式の項を参照。会社法上の規制等については、下記の剰余金の配当及び残余財産の分配の規定参照。
[編集] 劣後株式
後配株式とも呼ばれる。剰余金及び残余財産の配当(配分)に関する地位が他の株式よりも劣る株式のこと。実務上での詳細は優先株式の項を参照。会社法上の規制等については、下記の剰余金の配当及び残余財産の分配の規定参照。
[編集] 普通株式
剰余金及び残余財産の配当(配分)に関して標準的な地位が与えられた株式。実務上での詳細は優先株式の項を参照。会社法上の規制等については、下記の剰余金の配当及び残余財産の分配の規定参照。
[編集] 混合株式
剰余金の配当に関しては優先株式であるが、残余財産の分配で(劣後)後配株式であるような、ある規定に対しては他の株式よりも優越し、別の規定に関しては他の株式よりも劣後するような株式を混合株式と呼ぶ。旧商法下と同様に,法定の手続を踏む事で発行する事ができる。
[編集] 譲渡制限株式
下記の譲渡制限規定の見出しを参照。
[編集] 償還株式
旧商法下で用いられていた分類で、会社の請求や株主の請求など特定の事由が起こる事を条件に会社が株式と現金を交換する旨の規定のある株式。会社法では取得条項及び取得請求権規定に吸収。会社法での解釈では、償還株式は「取得請求権付株式または取得条項付株式で定款で取得対価を現金に定めたもの」となる。
[編集] 転換予約権付株式
旧商法下にあった分類で、株主の請求で、当該株式を会社の発行する別種の株式と交換できる旨の規定がある株式。会社法で取得請求権の規定に吸収された。会社法での解釈では、転換予約権付株式は「取得請求権付株式で定款で取得事由を株主の取得対価を当該会社の発行する他の種類株式に定めたもの」となる。
[編集] 強制転換条項付株式
会社法では取得条項の規定に吸収
[編集] 無議決権株式
会社法では議決権制限株式の規定に吸収。
[編集] 黄金株
拒否権付株式。下記の拒否権規定を参照。
[編集] 種類株式の内容の具体例
株式にくっつける事の出来る権利の内容は、会社法108条1項各号に掲げる事項で法律によって限定的に定められているが、会社法108条1項各号に掲げる事項を自由に組み合わせて、その会社独自の種類株式を発行する事が出来る。しかし、108条1項9号、いわゆる役員選任権規定だけは、取締役会設置会社及び公開会社はその株式に付す事が出来ない様になっている。以下の見出しは108条1項各号の条文の順に記載している。
[編集] 剰余金の配当規定
株式に付される規定の一種で剰余金の配当に関する地位の優劣を定めたもの。詳しくは優先株式の項を参照。この規定により、配当において他の株式より優越的な地位が認められる株式が、いわゆる優先株式と呼ばれる。ちなみに、標準的な地位に置かれるものが普通株式、劣後的な地位に置かれるものを劣後(後配)株式と呼ばれる。
[編集] 残余財産の分配規定
株式に付される規定の一種で、会社の清算をした後、残った残余財産の分配に関する地位の優劣を定めたもの。これに関しても、優先株式や劣後株式と呼ばれる為、何に対して優先又は劣後なのか注意が必要である。
[編集] 議決権制限規定
株式に付される規定の一種で株主総会での議決権の、全部又は一部を制限する事を内容とするもの。無議決権株式も可能であるが、その場合でも、その株主は種類株主総会では議決権を行使する事が出来ると解されている。通常は、配当に対して優先株式である事の代償として、議決権制限がつけられる。こうする事で、株式の流通性を高めると同時に、買収防衛策にもなるからである。ちなみに公開会社においては議決権制限株式が発行済株式総数の二分の一を超えたときは直ちに発行済株式総数の二分の一以下にする措置を取らなければならないとされている。しかし非公開会社においては、旧有限会社と同一視する傾向から、このような規制はなされていない。
[編集] 譲渡制限規定
譲渡に関してその会社の承認が必要である旨を一部の株式について定める規定。会社法制定以前までは株式の種類とは位置づけられていなかったが、会社法から種類の株式と位置づけられた。今まで、種類の株式に譲渡制限をつける事ができるか否かは疑義があったがこれにより、株式の一部に譲渡制限をつける事ができる事が明らかとなった。なお、非公開会社では元々強固な信頼関係で株主同士が結び付いているものとされる為、議決権制限株式の発行枠は撤廃された。これは、旧有限会社と非公開会社が実質は同じものである事から、有限会社制度の廃止に伴って有限会社に認められていた制度が、非公開会社に引き継がれたものであると解される。
[編集] 取得請求権規定
全部の株式の内容について付す事の出来る取得請求権とほぼ同じであるが、取得対価として、その会社の別の種類株式を設定できるという部分が異なる。これが全部の株式において出来ないのは、取得対価としての別の種類株式が存在しないからである。ちなみに、取得対価として設定できるものに制限は無いものと解されており、現金、新株予約権、社債等様々なものを設定する事が可能である。この規定を株式発行後に設定する場合、定款変更である事から特別決議を要する事になる。また、新株予約権等と異なり、取得請求権のみを他人に譲渡することはできない事とされている。なお、平成17年商法改正以前の転換予約権付株式や株主の請求で行える償還株式は、取得請求権付株式の一種と言うになる。
[編集] 取得条項規定
全部の株式の内容について付す事の出来る取得条項とほぼ同じであるが、取得対価として、その会社の別の種類株式を設定できるという部分が異なる。理由は上記の取得請求権と同様である。取得請求権は、取得に関してアクションを起こすのが「株主」であるのに対し、取得条項は、取得についてアクションを起こすのが「会社」である事に注意が必要である。また、前節でも述べた通り、対価の柔軟性が図られている為従来の原則であった金銭以外に、他の株式、社債、新株予約権等も取得対価として交付が可能である。詳述は取得条項の項を参照。
[編集] 全部取得条項規定
[編集] 拒否権規定
この規定も上記の譲渡制限と同じく従来(会社法以前)は株式の種類とは位置づけられてなかったが、会社法から種類株式の一種とされた。
[編集] 役員選任権規定
[編集] 種類株式の設定
定款に定めないとその効力を有しないため、定款変更が必要となり株主総会で特別決議が必要となる。しかし、種類株式発行会社が任意の発行済種類株式に新たに別の権利内容の規定を設ける場合は、当該種類株主による種類株主総会特別決議を要し、設定する規定によっては、種類株主総会の特殊決議や該当する種類株主全員の同意が必要になる場合もある。
[編集] 条文
- 会社法108条 異なる種類の株式
- 1項 株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる2以上の種類の株式を発行する事が出来る。但し、委員会設置会社及び公開会社は、第9号に掲げる事項についての定めがある種類の株式を発行する事が出来ない。
- 1号 剰余金の配当
- 2号 残余財産の分配
- 3号 株主総会において議決権を行使する事が出来る事項
- 4号 譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する事
- 5号 当該種類の株式について、株主が当該会社に対してその取得を請求する事ができる事
- 6号 当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じた事を条件としてこれを取得する事が出来る事
- 7号 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得する事
- 8号 株主総会において決議すべき事項のうち、当該決議の他、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がある事を必要とするもの
- 9号 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること
- 2項 株式会社は、次の各号に掲げる事項について内容の異なる二以上の種類の株式を発行する場合には、当該各号に定める事項及び発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。
- 1号 剰余金の配当 当該種類の株主に交付する配当財産の価額の決定の方法、剰余金の配当をする条件その他剰余金の配当に関する取扱いの内容
- 2号 残余財産の分配 当該種類の株主に交付する残余財産の価額の決定の方法、当該残余財産の種類その他残余財産の分配に関する取扱いの内容
- 3号 株主総会において議決権を行使することができる事項 次に掲げる事項
- イ 株主総会において議決権を行使することができる事項
- ロ 当該種類の株式につき議決権の行使の条件を定めるときは、その条件
- 4号 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 当該種類の株式についての前条第二項第一号に定める事項
- 5号 当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること 次に掲げる事項
- イ 当該種類の株式についての前条第二項第二号に定める事項
- ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
- 6号 当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること 次に掲げる事項
- イ 当該種類の株式についての前条第二項第三号に定める事項
- ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
- 7号 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること 次に掲げる事項
- イ 第百七十一条第一項第一号に規定する取得対価の価額の決定の方法
- ロ 当該株主総会の決議をすることができるか否かについての条件を定めるときは、その条件
- 8号 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの 次に掲げる事項
- イ 当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項
- ロ 当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件
- 9号 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること 次に掲げる事項
- イ 当該種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること及び選任する取締役又は監査役の数
- ロ イの定めにより選任することができる取締役又は監査役の全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する取締役又は監査役の数
- ハ イ又はロに掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後のイ又はロに掲げる事項
- ニ イからハまでに掲げるもののほか、法務省令で定める事項
- 3項 前項の規定にかかわらず、同項各号に定める事項(剰余金の配当について内容の異なる種類の種類株主が配当を受けることができる額その他法務省令で定める事項に限る。)の全部又は一部については、当該種類の株式を初めて発行する時までに、株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)の決議によって定める旨を定款で定めることができる。この場合においては、その内容の要綱を定款で定めなければならない。
- 条文上では漢字になっている箇所あり。8号の括弧書きは省略。