秘傳千羽鶴折形
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秘傳千羽鶴折形(ひでんせんばづるおりかた)とは、1797年(寛政9年)初版の、連鶴49種を集めた書のことである。連鶴の作者は、伊勢国桑名の長円寺11世住職・魯縞庵義道一円(1762年-1834年)であり、編者は「東海道名所図会」などで知られる秋里籬島、絵師は竹原春泉斎。木版一色刷りで、現代の文庫本とほぼ同サイズの和綴じ本である。これは、現存する世界で最も古い遊戯折り紙の本と言われている。また、この折り方は「桑名の千羽鶴」として桑名市の無形文化財に指定されている。
それぞれの完成形には、銘と、その銘にちなんだ狂歌が添えられている。
[編集] 構成
- 千羽鶴折形序
- 鶴の宝長(挿絵と狂歌)
- 林和仙人(挿絵と狂歌)
- 一羽鶴の展開図
- 千羽鶴折形目録
- 鶴の折りよう
- 作品紹介
[編集] 収録作品と狂歌
- 蓬莱(ほうらい) 嶋臺ハ蓬莱山をうつしけり 尉と姥との相惚そよき
- 花見車(はなみぐるま) 志賀寺の上人さへも其むかし 花見車の内に恋草
- 拾餌(えひろい) 餌をひろふやうに 恋路の粟畠人がくるやら引枝の音する
- 稲妻(いなづま) いなづまや きのふハひがしけふハ西 祇園朱雀の色にうかれて
- 妹背山(いもせやま) 結びてハいもせの山の中に折れるよしのゝ紙のよしやはなれぬ
- 蕣(あさがお) 朝かほや 釣瓶とられてもらひ水 ついでに千代と目でしらす暮
- 八橋(やつはし) むらさきの野郎ほうしのやつ橋や 七十過てふり袖の役
- 昔男(むかしおとこ) 業平をむかしおとこといふならば むかし女は小町なるべし
- 楽々波(さざなみ) 唐崎の松は花よりおほろにて はれぬ思ひのこころさゝなミ
- 迦陵頻(がりょうびん) 恋風や みすのひまより迦陵頻 五ツかさねのきぬかちらかちら
- 巣籠(すごもり) 襟もとへ顔をすこもりはづかしや けふ水あけと祝ひ初てき
- 芙蓉(ふよう) 楊貴妃ハ芙蓉の花に似たるとて 抱てねたれば露にぬれつゝ
- 熊谷(くまがい) 軍門に入ッて夜ととも熊谷のほろをミださぬ恋もするかな
- 村雲(むらくも) しのび路の恋を見つけて むら雲の中からバアと月の顔出す
- 呉竹(くれたけ) 今若や乙若つれてくれ竹のふしミの里にちぎる常磐木
- 夢の通ひ路(ゆめのかよいじ) 有明の月もるねやをこそこそとゆめのかよいち一間こゆらん
- 九万里(くまんり) 九万里に羽をのす鳥のおもひにて人目の関をこへてしのばん
- 布晒(ぬのさらし) 顔見せや顔をさらして布さらし 人もきぬたのいつも大入
- 四ツの袖(よつのそで) 夜桜や匂ひ餘りて初夜もすぎ 四ッの袖かれ恋風そ吹
- つく羽根(つくばね) つくはねの娘もついに嫁となり恋そつもりて子持とぞなる
- 澤瀉(おもだか) 初恋ハうれしきものと思ハるゝおもたかおもたかとよみあくる文
- 葭原雀(よしわらすずめ) 暮をまつ吉原すゞめぎゃうぎゃうし 太夫格子にさんちゃよび出し
- 瓢箪町(ひょうたんまち) 金銀や桂馬にのりて九軒飛び瓢箪町へ駒をはやめる
- 鶺鴒(せきれい) 鶺鴒の尾のひこひこを見ならいて 大キな國をたれるほど産
- 春の曙(はるのあけぼの) みづゝけにせんくまんこの玉や一 力みの見えし春のあけぼの
- 雛遊び(ひなあそび) 見わたせばげい子白人こきまぜて柳桜のひなあそびなり
- 鼎(かなえ) やすやすと鼎を揚るちからあり 恋のおも荷をこれにくらべて
- 寄木(やどりぎ) ゆふたちにつゐやとり木か二世のゑん 空だきならぬ匂ひとゝめて
- 花橘(はなたちばな) まちわびて君をつらしとおもふなり はら立花に夜を明しつつ
- 鳴子(なるこ) 秋風ハふけどもあかぬしのび路にくるをしらする鳴子からから
- 横雲(よこぐも) 横雲のたな引くころによバひ星またるゝ閨に蟹の横這
- 三巴(みつどもえ) 悋気から輪廻のめぐる三ッともゑ われを祭らん宇治の橋姫
- 花菱(はなびし) 花ひしや桔梗や桐の紋づくし けはひ道具を送る嫁入荷
- 早乙女(そうとめ) 花よめも娘も出て早乙女や おいどならべて田植する也
- 三が一(みつがいち) ひかひかと光る源氏の顔かたち おもひハ三ツが一の筆なり
- 風車(かざぐるま) 一ふての恋風車吹よせて かくした文の袖のおもたさ
- 荘子(そうじ) かいま見やたハむれてゐる蝶二ツ かたい荘子も恋をめさるゝ
- 妙妙(みょうみょう) 目くばせてさとらすもありさとるあり 弥陀も法華もちきる妙妙
- 比翼(ひよく) 天にあらばひよくのちぎりたのしまん かすミの蒲團 雲どりの夜着
- 相生(あいおい) 年よらず若い女夫でいつまでも金たくさんに相をひの松
- 風蘭(ふうらん) 嶋原のもとりハ風蘭ふらふらと またわすられぬ袖のうつり香
- 青海波(せいがいは) 恋風に帆をあけてゆく玉つさはせいかいなみのうへをゆらゆら
- 龍膽車(りんどうぐるま) しのふてふりんたう車くるくると ねやのあたりを行つもとりつ
- 蟻の塔(ありのとう) 恋しさハおなしこゝろにあらさらん ありの塔つむ文のかすかす
- 野干平(やかんべい) やかん平つれてきつねの嫁入かな しくれもしたり日もてりにけり
- 杜若(かきつばた) そひぶしにはらミし花のかきつはた みなむらさきのゆかり美し
- 瓜の蔓(うりのつる) しのぶれとおなかの中の瓜のつる ものやあらふと人のとふまで
- 釣ふね(つりふね) 妓王妓女佛ももとハ凡夫なり 妻こふ鹿も尼をつりふね
- 百鶴(ひゃっかく) 百鶴の折形 朝比奈の紋を十ヅゝ十よせて百人力の鶴の紋なり