猫後天性免疫不全症候群
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猫後天性免疫不全症候群(ねここうてんせいめんえきふぜんしょうこうぐん)とは、FIV(Feline immunodeficiency virus = ネコ免疫不全ウイルス)により、ネコおよびネコ科の哺乳類(トラなど)に引き起こされる諸症状のこと。俗にネコエイズとも。
FIVウイルスの主な感染経路は、交尾・ケンカによる体液の接触感染であり、出産時の母子感染も確認されている。HIVと同じレトロウイルス科レンチウイルス属に分類されるが、ネコおよびネコ属に特異的なウイルスであり、犬や人に感染することは無い。
感染するだけですぐに発病するわけではない。潜伏期はさまざまであるが、飢餓、栄養失調、寒冷などの身体的・精神的ストレス、妊娠、手術などがきっかけとなって発症することが多い。
ウイルスの潜伏場は白血球のT細胞であり、採血できれば、簡易検査キットにより簡単に動物病院等で検査が可能である。この検査キットではウイルス抗原を検出するため、正確に感染の有無を判定できる。
発症後の症状はさまざまで、最初に多く見られる症状は歯肉炎・口内炎であり、これらの症状によりFIVの感染が疑われ、発見される場合が多い。進行すると、ダニや真菌といった日和見感染症による皮膚炎や、食欲減退、脱水、削痩といった症状を経て死にいたる。しかし、これらの症状は適切な対症療法によって進行を遅らせることができるので、飼育を放棄する理由にはならない。
疫学的には、野良猫におけるFIVの保有率は7割以上であり、多くのネコが実際に発症して他の要因と併せて死の一因となっている。家庭では、子猫のうちにウイルス検査を行い(潜伏期があるため、最後に他のネコと接触してから数か月おいて検査すると確実)、陰性であれば不妊・去勢手術を行い他のネコとの交尾・ケンカの機会を減らすことでほぼ確実に予防できる。陽性の場合も、室内で穏やかに安楽な生涯を送れば発症を遅らせることができるので、感染が明らかになったことを理由に飼育を放棄するべきではない。陽性であっても、発症せずに天寿を全うする例もある。