特発性血小板減少性紫斑病
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特発性血小板減少性紫斑病(とくはつせいけっしょうばんげんしょうせいしはんびょう、英語名Idiopathic Thrombocytopenic Purpura, ITP)は、膠原病、薬剤、再生不良性貧血などの血小板減少を来たす疾患が除外された血小板減少症の一群を指す。以下ITPと略称する。なお、「特発性」(Idiopathic)とは原因がわからないという意味だが、2005年現在では以下に述べるような自己免疫が原因とされており、それに合わせてImmune Thrombocytopenic Purpura(略称はITPのまま)と呼ぶ研究者も多い。日本語訳は定着していないが、「免疫性血小板減少性紫斑病」と訳せる。
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[編集] 病態
ITPは自己の血小板に対する自己抗体(IIb/IIIaなど)で感作された血小板が、脾臓・肝臓などで破壊されて血小板減少症をきたす疾患である。血小板破壊が亢進しているため、骨髄での血小板産生は盛んになっている。
[編集] 分類
急性型(多くは6ヶ月以内に自然軽快し、小児に多い)と成人に多い慢性型に分けられる。本邦ではヘリコバクター・ピロリ(H.pylori、ピロリ菌)との関連も示唆されている。
[編集] 急性特発性血小板減少性紫斑病
- 原因
- 麻疹、風疹、水痘ウイルス感染による。
[編集] 慢性特発性血小板減少性紫斑病
ITPが慢性化したもの、あるいは慢性に進行するITPである。
ITPは多くの場合小児に発症し、急性の経過を辿って半年程度で治癒する。しかし、一割程度の割合で、慢性の経過を辿る場合がある。また、成人がITPを発症した場合慢性化することが多い。ITPが6ヶ月以上遷延化した場合、慢性特発性血小板減少性紫斑病の診断が下される(小児にあっては、ウイルス感染が先行し発症が急激ならば、急性ITPと考えて良い)。
急性のITPと異なり、大出血を起こすことは比較的少ないが、若年女性に多いため、月経、妊娠、出産において問題になる。
[編集] 症状
青あざ(紫斑)、点状出血、粘膜出血など。関節内での出血は少ない。
血小板数が3000/μlをきるような症例では、頭蓋内出血の危険があり早急に治療が必要である。
[編集] 診断基準
厚生労働省の診断基準
血小板結合IgG(PAIgG)の増加はITPに特異的ではないが、PAIgGが正常の場合はITPを除外するのに役立つ。
[編集] 診断のための検査
他の出血、血小板減少を来たす疾病の除外が必要である。鑑別されるべき疾患の例としては、白血病、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、播種性血管内凝固、血球貪食症候群などがある。
[編集] 血液
白血球数正常で、貧血も通常伴わない(慢性に多量に出血している場合には伴う)。白血球分画にも異常はみられない。
[編集] 血液凝固系
プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)などの血液凝固系に異常はみられない。既に出血症状が著しいときには、フィブリノーゲンの異常(増加も減少もあり)やFDPの上昇を来すことがある。
[編集] 骨髄検査
ITPの診断に骨髄穿刺は必須ではない。ただし、ステロイドは白血病に対しても有効であるため、ステロイド投与を行う際には骨髄穿刺を行って白血病を確実に否定する必要がある。
骨髄所見は、骨髄球系、赤芽球系は正常に存在し、巨核球系は正常ないしやや増加している。
[編集] 治療
初回治療での第一選択はステロイド療法であるが、不応例や副作用が強い場合にはH.pyloriの除菌、摘脾術(脾臓摘出術)が施行される。また手術、出産などの緊急時には免疫グロブリン大量療法や血小板輸血も施行される。
ステロイド投与の際には白血病を否定する必要があるため、小児などの急性ITPと考えられる例では免疫グロブリン大量療法が優先される場合もある。
難治例では免疫抑制剤、ビタミンC大量療法、ダナゾール、ビンクリスチン緩速静注療などがあるが、効果は一定でない。
特定疾患として認定された、国指定難病医療費等助成対象疾病である。