汎用機
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汎用機(はんようき)は、一般には『メインフレーム(mainframe)』と呼ばれることが多い。『大型汎用コンピュータ』と呼ばれることもある。
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[編集] 現在の用途
登場以来、業務システムや構造計算、解析など科学計算の用途に幅広く利用されていたが、オフコンやワークステーション、パソコンといった小型コンピュータの出現、および処理能力の向上により、一時、小型コンピュータへの移行が進んだ(いわゆる「ダウンサイジング」)と思われたが、データ量の増大とネットワークの高速化に伴いデーター集計の中核を担う事が多くなった。
現在の主な用途としては、企業の基幹業務システム、コンビニエンスストアなどのオンライン業務、銀行など金融機関の勘定系システム(預金の入出金、振込みなど)、交通機関の座席予約システム(例・JRのみどりの窓口)のような、主に大量のトランザクションを高速に処理するシステムに使用されている。
[編集] 低価格コンピュータによる代替
コンピュータの価格が下がって来た結果、クライアントサーバ (C/S) という下記思想のコンピュータのシステム構成を取れるようになった。
- 計算処理をサービス単位に分割して、サービス毎にコンピュータを用意する
- クライアントコンピュータにも必要な計算処理を分担させる
さらにコンピュータの性能向上により計算能力に余力のあるコンピュータが多くなってきた結果、計算処理をどのコンピュータでも処理できる形式とし、コンピュータ間の依頼/応答を定義した分散コンピューティングが生まれた。
[編集] 呼称と定義
[編集] 『汎用機』という呼称
現在のパソコンは汎用的な利用途を持つが、汎用機と呼ばれることは無い。あくまでIBMの「システム/360」の入出力に互換するか、それに準ずるインターフェースを備えた大型機(この範疇内で大型・中型・小型の分類こそあるものの)のみを汎用機と呼称する。汎用機は、文字表示以上のグラフィックを扱う仕組みを標準で内部的に有しないなど、逆に現在のパソコンが備える汎用性さえ具備していないことから、凡用機(ぼんようき)と揶揄されたりもする。
『汎用機』ではなく、『汎用コンピュータ』という表記をした場合は、目的、用途を選ばず、プログラムの入れ替えにより、事務計算、科学計算のどちらにも利用できるような汎用性のあるコンピュータを指す場合が多い。スーパーコンピュータ等、特定用途向けのコンピュータを表す『専用コンピュータ』の対義語にあたる。
[編集] 『メインフレーム』という呼称
メインフレーム(M/F)という名前については、由来が諸説ある。一説には、汎用機が計算処理を全ておこなうメインコンピュータと表示だけを担当するフレームコンピュータとで構成されていたことからであると言われている。他の説では、システムの中核をなすことが多いためであるとも言われる。
本来、黎明期のコンピュータはほとんど全てが「メインフレーム」であり、単に「コンピュータ」と呼ばれていた。それを特に「メインフレーム」と呼んで区別する必要が生じたのは、PDP-8などに始まるミニコンピュータの登場からである。
[編集] 『汎用機』の要件
巷で『汎用機』、『メインフレーム』という言葉をもって指し示されるコンピュータの要件を挙げる。正式な定義では決してないが、以下の全ての要件を満たしていない場合は、一般的に汎用機として認知されない。
- そのマシン専用に作られたベンダ独自のCPU&OSを備えている。(近年の汎用機では、CPUを外部調達しているものや、内部で仮想的にオープン系のOSを利用する機能を備えたものが登場している)
- 耐障害性や、ネットワーク端末集中管理機能、マシンの仮想化など、大規模システムを可能にする(その当時において発展的な)仕掛けを備えている。
- メーカーが「これはメインフレームである」と宣言して販売している。
- 演算ユニット本体が冷蔵庫大以上の大きさである。
富士通のPRIMEQUESTシリーズは「メインフレーム級」の触れ込みで発売されたが、これは汎用機ではない。PRIMEQUESTはIA-64サーバーであり、非独自アーキテクチャということになるからである。 それに対し、富士通が「グローバルサーバ」と称しているGS21、PRIMEFORCEシリーズは独自OS、AFII(OSIV/MSP)、AFII(OSIV/XSP)を備えているので汎用機である。
[編集] 汎用機のあゆみ
いくつものメーカーが1950年代から1970年代にかけて大型コンピュータを製造していた。その「栄光の日々」には、彼らを「IBMと七人の小人たち」と呼んだ。その七人とは、バローズ、CDC(コントロール・データ・コーポレーション)、ゼネラル・エレクトリック、ハネウェル、NCR、RCA、UNIVACである。
そんな中、1964年にIBMが発売した「システム/360」が、初めての真の汎用機といわれている。IBMの独占はここから始まった。その後何社かから汎用機が発売されたが、IBM製品は常にこの分野を独占していた。その基本アーキテクチャはその後も維持/成長し、現在のzSeries/z9に受け継がれている。国策として汎用機を作っていた日本だけが、最後までIBMが汎用機を独占できなかった国である。日本以外では、zSeries以外の汎用機は存在しないと言っても過言ではない。
実際、24ビットのSystem/360のコード動作させることが出来るものの、64ビットのzSeriesやSystem z9 CMOSサーバは昔のシステムと物理的には全く共通点は無い。「七人の小人」からゼネラル・エレクトリックとRCAが脱落すると、"The BUNCH"と呼ばれるようになった(Burroughs、UNIVAC、NCR、CDC、Honeywell)。
アメリカ合衆国以外で特筆すべき製造業者としては、ドイツのSiemensとTelefunken、イギリスのICL (現・Fujitsu Services Holdings PLC) がある。
日本では1973年に米国からの圧力などでコンピュータの輸入自由化が決定された。通商産業省は、当時の国内コンピュータメーカーの体力ではIBMを初めとする海外メーカーに日本市場を席巻され打撃を受けるとして、当時6社あったコンピュータ業界の再編に乗り出した。
富士通と日立製作所、三菱電機と沖電気、それに東芝とNECの3グループにまとめ、技術研究組合を作らせて5年間にわたって補助金を支給し、各社に「IBM対抗機」の開発に当たらせた。富士通と日立が担当したのが、IBMのシステム/360系の互換機であり、2000年までMVS系OSの動作を保証していた。
需要の低下と競争の激化に伴って1980年代初頭から市場の再編成が始まった。RCAはUNIVACに売却され、GEは撤退、ハネウェルはBullに売却された。1986年、UNIVACはバローズと合併してUnisys Corporationとなった。1991年、AT&TはNCRを実質的に所有することとなった。日本では、三菱電機、沖電気、東芝が撤退した。
その後、汎用機の市場はインテル製マイクロプロセッサ搭載のサーバなどに侵食され年々縮小していった。
[編集] 再活性化の兆しを見せる汎用機市場
1990年代後半に入って汎用機の新たな利用法が発見された。それは多くのWebサーバをひとつの汎用機上で動作させることにより、性能を維持しつつ管理コストを抑えるというものである。また、インターネットの商業利用が進展するに伴い、汎用機で行うバックエンドのデータベーストランザクション処理も多くなっている。2004年、IBMの汎用機の売り上げは値下げにも関わらず上昇してきている。
2005年、個人情報の盗難が話題となった。たとえば、アメリカ合衆国のカード処理会社CardSystemsでは多数のクレジットカード情報がハッカーの手に落ちた。これはMicrosoft Windowsサーバがワームに感染したためと思われるが、実際どうだったのかは定かではない。汎用機を使っている金融機関ではこのようなセキュリティ問題が発生したことはない(ATMからのカード情報盗難は別問題)。このため、多くの企業がデータの取り扱いを見直し始めており、より信頼できるシステムにデータを移行することを検討している。もうひとつの例はComAirの乗組員スケジュールシステムである。これは汎用機ではないサーバ上にあり、2004年の忙しいクリスマス時期に動作しなくなった。ComAirの取締役会はCEOを解雇した。このようなことから汎用機の信頼性とセキュリティが見直されている。また、z/OSは2007年から64ビットシステムのみをサポートすることになっているため、2006年は古い31ビットシステムの買い替えのピークと考えられている。Linuxも汎用機の復権に寄与している。今や多くの汎用機でLinuxが動作できるようになった。
[編集] 汎用機のデータ交換(変換)
汎用機⇔別ベンダの汎用機、汎用機⇔オープン系コンピュータ(Windows、Unix等)のデータ交換は、困難が多い。以下に理由を挙げる。
- 富士通ならJEF、NECならJIPSというように漢字コードが独自であり、これらベンダ独自の漢字コードについては細部の仕様について非公開部分が多く、その仕様を調査すること自体がかなり大変である。
- 汎用機のファイルシステムは原始的でWindowsやUNIXと互換性が無い上、汎用機間での互換も無い。
- 汎用機に搭載されたアプリケーションは大抵の場合COBOLアプリケーションであり、CSVが扱えない。
以上のようにデータ交換については困難が多いが、ともあれ、かつてからよく使われて来たデータ交換の方法の一つが、『IBM形式フロッピーディスク』と呼ばれるフロッピーディスクである。他ベンダシステムとのデータ交換が非常に苦手な汎用機において、ほぼ唯一、他ベンダ間のデータ交換が可能な方法であった。現在では、オープン系のシステムとの連携のためもあり、FTPを使うことが多くなった。同一ベンダの汎用機間のデータ交換メディアとしては、CMT/CGMTやMTが使われることも多い。
[編集] 開発言語
汎用機上で使われているプログラミング言語は以下のとおりである(統計年度不明)。
Javaは急速に増加している。汎用機向けCOBOLは最近ではXMLの構文解析などのWeb用機能を取り入れている。
[編集] 汎用機のスピードと性能
汎用機の性能は従来MIPS (million instructions per second) で計測されてきた。MIPSは汎用機の性能を簡単に比較する尺度として使われてきた。IBMの汎用機zSeriesの性能は約26MIPS (z890 Model 110) から20000MIPS以上 (z9-109 Model S54) とされている。
しかし、MIPSは誤解を与える指標である。プロセッサのアーキテクチャの変遷に伴って、MIPSが本来持っていた実行命令数という意味は失われている(命令そのものの粒度が異なるため)。MIPSは技術的には意味はなく、単に昔のマシンとの性能比較の目安となっているにすぎない。このためIBMは汎用機に数種類の負荷をかけて計測するLSPR (Large System Performance Reference) レシオを公表している。
同様のことがUNIXサーバでも見受けられる。顧客は用途に合ったタイプのベンチマークで性能を比較するようになってきた。例えばSPECintやTPC-Cなどである。もっとも、それらのベンチマークも全く問題がないわけではない。困ったことに、顧客が自分のシステムにどういったタイプの負荷がかかるのかを分析することは非常に難しく、結果として単にLSPRの値などを使ってしまうのである。そういった意味でMIPSの使い道は残り、IBMや他のコンサルタントはMIPSを公表し続けるのである。