水銀整流器
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
水銀整流器(すいぎんせいりゅうき)とは、ガラス管または鉄製容器の中に封入した水銀と炭素電極間のアーク放電で整流を行なう整流器である。1つの陰極に対し1~6N個の陽極を封入して(複数陽極では)多相半波整流を行う。
ゲート電極付きのものは位相制御による電圧調整や、逆接続で回生電力を交流側に送り返すことができる。ガラス封止の多陽極式水銀整流器はその形状から「タコ」と呼ばれた。
単極水銀整流器には陰極の形成方法によりイグナイトロンとエキサイトロンがあり、前者は水銀プール内に浸したイグナイタと呼ばれる受電体により機械的に陰極を形成させるのに対し、後者は陰極を電気的に常置形成させる。
整流回路としては、1陰極多陽極構造なので多相半波整流方式となり、3相交流の整流では各相のセンタータップ式両波整流に相間リアクトルを付して電流の流通角を増やしトランスの容量低下を抑える実質6相式の相間リアクトル付2重星形結線が標準となった。更に大電力用としては3相Y結線とΔ結線の30度の位相差を利用してYΔそれぞれで相間リアクトル付2重星形結線による整流を行い、それを直列、或いは並列に重畳してリップルの周波数を2倍に、脈動電圧を4半分以下にする12相式整流回路を採用している。電気鉄道では脈動分で通信障害を起こすためフィルターを設けて障害低減を図っている。
1970年代まで、主に大電力用(電気鉄道の直流変電所、交流電気機関車等)に使用されてきた。運転管理と保守に難があるため、大電力用シリコンダイオードなどの半導体素子が開発されて切り替えられ、商用レベルでは使われなくなったが、ゲート制御機能に拠りインバータ動作も可能であるなどの利点があり、実験装置としては今日でも小規模ながら需要がある。
なお、日本電池(現GSユアサ)は現在でもGSが水銀灯などの放電ランプを開発、製造しているのは昔、島津製作所のレントゲン装置向けに直流電源装置を納入していたことが関係する。初期は回転式整流器という同期電動機で接点を回転切替する構造の物を納めていたが水銀整流器を生産開始したためこちらに切り替わったことが技術的基盤となっている。