比較優位
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比較優位(ひかくゆうい)とは自由貿易に関して生まれた考え方で、経済学者デヴィッド・リカードが提唱した。
国際分業の利益を説明する理論。
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[編集] 概要
たとえ、外国に対して低い生産性しか実現できなかったとしても、貿易においては優位に立っていると言う考え方。
たとえば、ワインと毛織物という商品があったとして、小国と大国がそれぞれどちらの商品も生産していたとする。
小国は労働者一人当たりでワイン2単位、毛織物4単位生産できるとする。
大国は労働者一人当たりでワイン10単位、毛織物30単位生産できるとする。
小国はどちらの商品生産においても大国より生産性が低いということになる。
では小国は大国に対してどちらも競争力がないのであろうか。答えはノーである。小国はワイン生産において比較優位なのである。ちなみに、大国は小国よりもワインの生産性が高いため絶対優位となる。
なぜかというと、小国ではワイン1単位と毛織物2単位が等価、大国はワイン1単位と毛織物3単位が等価であるからだ。つまり、小国のほうがワインを割安に作れるのである。
等価とはどういうことか?
もし、どちらの国も労働力をフル活用している状態(生産可能性辺境線)にある場合、ワインを多く作るためには毛織物の生産を減らさなくてはならない、
その時に、小国では毛織物生産を2減らさなければワインを1作ることが出来ない。大国は毛織物を3減らさなければワインを1作ることが出来ない。これが、等価という状態で、小国は交換比率の上で優位である。
逆に、小国ではワインを1減らしても毛織物が2しか増えないのに対して、大国はワインを1減らすことで毛織物を3増やすことが出来る。 つまり、小国は毛織物生産において比較劣位である。
ここで関税がない場合の貿易を考える。
小国では今、100人の労働者がおり、50人がワインを、50人が毛織物を生産しているとする。つまり小国の生産状態は(ワイン:100 毛織物:200)である。ここで、小国が比較優位なワイン産業に特化すると生産状態は(ワイン:200 毛織物:0)となる。さらに、小国はこのうち増産したワイン100単位を大国へ輸出し、毛織物300単位と等価交換する(この交換の割合は前述のとおり)。毛織物300単位は小国に輸入し消費される。すると、小国は特化によって消費状態が(ワイン:100 毛織物:300)となり、鎖国状態よりも改善された。輸出の割合を変えれば、(ワイン:120 毛織物:240)などと、両商品ともに消費を増やすことも出来る。また、この取引により大国も消費が改善されている。
このように、自由貿易の利益を得る上で特化すべき産業が、比較優位な産業である。
この考え方は、国内での分業や、労働者間での分業にも応用される。例えば、有能な政治家と秘書で例えると、政治家は政治活動も秘書業務もどちらも、秘書より早く出来るとする。しかし、政治家は政治活動に専念すべきである。政治家が、秘書業務を秘書に任せることで、全体的なアウトプットの改善が図られるからである。
[編集] 特化のプロセス
現在の世界の国々は、地球規模の貿易ネットワークに大なり小なりつながっている。そしてそれぞれの国に輸出品と輸入品がある。輸出している商品は国内需要よりも多く生産しているということだから特化が進んでいることになる。
特化が自然に進むプロセスはいくつかある。
[編集] 固定相場制(または共通通貨制)下での特化
大国の通貨と固定相場制をとる小国を考える。小国には複数の産業があり、それぞれが大国へ輸出を試みたとしよう。より高値で販売できる順に序列ができる。輸出で利益を得た産業は生産を拡大し、より多くの利益を得ようとする。この際に、最も高い利益を得た産業が、より多くの資源(設備や労働力)の購買力を持つ。そうして高い利益を得る産業が資源を需要するため、各資源の価格は次第に上昇する。資源価格の上昇により、輸出競争力の低い産業は収益が悪化し、解散するなどして資源を解放することになる。
この結果、輸出競争力のある産業(比較優位な産業)へ資源が集中し特化が進む。
[編集] 変動相場制下での特化
大国の通貨と変動相場制をとる小国を考える。小国には複数の産業があり、それぞれが大国へ輸出を試みたとしよう。より高値で販売できる順に序列ができる。輸出で得た外貨は、小国の通貨へ為替されることになる。このとき、より高い利益を得た産業がより多くの自国通貨を得ることになる。こうして、輸出競争力が高い産業はより高い利益を得る。輸出で利益を得た産業は生産を拡大し、より多くの利益を得ようとする。この際に、輸出拡張で自国通貨高が進む。輸出競争力の低い産業は自国通貨高により、輸出縮小により収益が悪化し、解散するなどして資源を解放することになる。
この結果、輸出競争力のある産業(比較優位な産業)へ資源が集中し特化が進む。