歯科医官
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歯科医官(しかいかん)とは、歯科医師の資格を有する幹部自衛官のこと。
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[編集] 採用
自衛隊の医官を養成する中で大きな役割を果たしているのは防衛医科大学校であるが、同校は歯科医官の養成は行っておらず、歯科医官は全て国公立私立の歯科大学・歯学部出身者の中から試験により採用される。
歯科幹部候補生に採用されると、医官(防衛医大卒業生など)と同じく、陸海空の幹部候補生学校で教育が行われる。陸・空ではMD区隊、海では医科歯科分隊と称する。
[編集] 歯科医官としての勤務
初任歯科医官実務研修は2年間で、陸では自衛隊中央病院の歯科、海では横須賀病院歯科、空では岐阜病院歯科を1年間研修する。その後、防衛医大の歯科口腔外科に3カ月、防衛医大麻酔科に3カ月、残り半年を、また中央病院、横須賀病院、岐阜病院で研修する。歯科医官には部隊健診の実習は無い。
2年の初任歯科医官実務研修が終了すると、日本各地の部隊に配置される。配属直後、陸自衛生学校でBOC(幹部基礎過程)に入校が命じられる。海では横須賀病院教育部・空では岐阜病院教育部に似たような基礎教育課程があり、それぞれ1カ月ほどの教育である。ここで、かつて幹部候補生学校で同じ釜の飯を食った防衛医大卒業生と再会する。
部隊では、最大限週に2日の研修日が認められているのは、医官と同じである。しかし歯科医官の場合、医官のような専門研修医官(専修医)という教育課程が無いので、それ以後の教育は陸のAOC FOCなどを除いて存在しない。ただ年に数人の割りで、部外研修という形で内地留学が認められる。研修期間は2年、研修先は歯科大学や歯学部などが多い。ちなみに防衛医大研究科は、歯科医官においても受験資格はあるが、いまだに合格者は出ていない。
[編集] 昇進
歯科医官の最高ポストは、自衛隊中央病院第一歯科部長で、陸将補。ついで第二歯科部長が1等陸佐。第一、第二部長ともに陸自のポストである。第三歯科部長は1等海佐ポスト。三幕の首席衛生官付歯科担当は2佐ポスト。海の病院にのみ存在する歯科診療部長は1佐ポスト。稀ではあるが、1佐古参の歯科診療部長が病院副長を兼務する事もある。空でも、歯科医官が岐阜病院副院長に上番した事もある。
陸自においてもごく稀ではあるが、歯科医官から医務官や、後方支援連隊衛生隊長に補職される者も存在する。
[編集] 歯科医官の活躍
- 1992年(平成4年)に史上初となる自衛隊のPKO参加であるカンボジア派遣施設大隊には歯科医官1名が加わっていた。
- 2005年3月28日のスマトラ島沖地震後には、現地での遺体鑑定及び邦人被害者の身元確認の支援のため、外務省からの派遣依頼に基き、防衛庁が歯科医官2名(陸上自衛官1名、航空自衛官1名)を2005年(平成17年)1月27日から同年2月28までの間、派遣した。この際の歯科医官の身分は外務事務官兼任とされた。
[編集] 現状
平成の初年までは衛生貸費学生という制度があり、歯科大学や歯学部に在学中の学生の中から、将来、自衛隊に勤務を希望する者に対して奨学金を支給し、卒業後は自衛隊に入隊し、幹部候補生学校に入学させていた。
昭和60年ごろまで自衛隊の歯科医官の不足は深刻で、定員数の3割にも満たなかった。そのため、歯科雑誌などに自衛隊歯科医官募集の広告が絶えることなく、歯科界においては自衛隊は「行き場の無い無能な歯医者の捨て所」と軽蔑視されていた。平成3年ごろから歯科医師の過剰が深刻化し、自衛隊の歯科医官志望者が急増する。それに伴って優秀な人材も、次々に確保されてゆく。また、かつては大半を占めていた中途採用者も減少し、採用される者の大部分が新卒者に移行した。
歯科医師の過剰問題が深刻化するに連れて、自衛隊の歯科医官の階級ピラミッド構造が崩れつつある。いまや自衛隊の歯科医官の半数以上が2佐以上という歪な物になり、定員の関係から若い歯科医官の採用はきわめて少ない。そのためか、近年採用される歯科医官の多くは独身の女性で、当局は結婚、出産により早期に退職してくれる事を期待しているものと思われる。
今や、自衛隊歯科医官の採用競争率は20倍に近く、そのために、ここ5年ほどは私立の歯科大学・歯学部出身者は一人も採用されていない。もともと、日本の歯学は私立学校から始まったのであり、多様な人材を活用してゆくためにも、国公立出身者にのみ偏在した採用人事には疑問を感じるものである。