新字体
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新字体(しんじたい)とは、日本における当用漢字(1946年)制定以後、現在まで日本で使用されている漢字の字体。新字体はもともと1949年の『当用漢字字体表』で提示された標準字体に対する呼称であり、印刷字体と筆写字体をできるだけ一致させることをたてまえとし、活字のもととなる形で示されていた。一方、『常用漢字表』では主として印刷文字の面から検討され、明朝体活字の一種を用いて字体例を示し、これを「現代の通用字体」と呼んでいる。
画数の多い複雑な旧字体の中から、旁の部分を同音の画数の少ない文字に差し替える、複雑な部分を省略化した記号に置き換えるなどの手法で、全体の画数を減らして簡略化したものを指す。
実際には、1950年代以後に切り替えられていった。
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[編集] 例
- 鐵→鉄
- 與→与
- 學→学
- 體→体
- 臺→台
- 國→国
- 關→関
- 遙→遥
これらの字体は戦後の文字改革によって誕生したものだが、このときに全く新しく考案された字体ではなく、戦前から広く手書きの際には普及していた略字である。漢字は字形が繁雑なため、筆記時には多くの略字が通用していたが、それを正式な字に昇格させた。「門」「第」などもよく略字「门」「㐧」で書かれるが、これらと同様である。本来は当用漢字(現在の常用漢字)に指定された漢字のみに適用され、表外字(常用漢字でない漢字)では今も旧字体が正式である。たとえば、「擧」という字は「挙」に簡略化されたが、「欅」は同じ「擧」の部分を含んでいながらも常用漢字外であるため簡略化されない。しかし、JIS漢字では表外字も広く常用漢字に倣って簡略化され、「﨔」という字体もある。また朝日新聞では表外字の簡略化も徹底しており、「痙攣」なども【經→経】【戀→恋】に倣った字体になる(これはかつて活版印刷技術がさほど進歩していなかった時代、繁雑な文字は鮮明に印刷できないために考案されたと言われる。朝日文字参照)。
略し方には数通りある。
[編集] 草書の楷書化
漢字の草書体を新字体にしたもの。圖→図、觀→観、示(しめすへん)→ネ、晝→昼など。
「門」の略字(「门」の点の位置が違うもの=冂の上部中央に短い縦棒)も書き順は違うが草書起源である。中国大陸の簡体字では上述の略字を採用しているが、日本では活字として使用されることはきわめて稀である。
[編集] 字体の統一
2通り以上の字体が使われていた漢字を、簡易な方に統一した字。「島」の字は「嶋」、「嶌」という書体でも書かれていたが「島」に統一された。また「道」などのしんにょうは活字では点が2つ、筆記では1つで書かれていたため、1つに統一。青は月の部分が活字では円、筆記では月と書かれていたため、月に統一。半、尊、平などは「ソ」の部分が活字では逆の「八」となっていたが「ソ」に統一された。「絆」「鮃」などは現在も旧タイプのままだが、戦前も筆記では新字体の形で書かれていた以上、筆記時には旧タイプの形で書く必要は無いと思われる。
[編集] 音符の交換
漢字には部首と音符がある。青、清、晴、静、精、蜻、睛というふうに意味や形は違っていてもみなセイの音をもつ。これはこれら全ての漢字の音符が「青」であるためで、「清」の場合さんずい(部首)が意味を、「青」が音を表している。
このタイプは、繁雑な音符をもつ漢字を、同じ音を持つ別の音符に変えてしまうものである。たとえば「囲」という漢字はもともと「圍」という書体であったが「韋」も「井」も同じイと読む(ただし「井」は訓)ため簡単な井に変更された。竊→窃、廰→庁、擔→担、證→証などもこのタイプ。また「魔」や「摩」を「广+マ」、「慶」を「广+K」、「藤」をくさかんむりにト、「機」を「木キ」と書く人がいるが、それもこれを応用した略字といえよう。
[編集] 繁雑部位の削除
漢字の一部分を削除してしまうものである。「応」は「應」と書いたが「イ隹」を削除、「芸」は「藝」であったが中間にある「埶」部分を削除、「県」は「縣」から「系」を削除、「糸」は「絲」であったのをひとつにし、「虫」は「蟲」をひとつにした。
『蟲師』など怪奇系の漫画ではよく蟲の字が使われ、虫は普通の虫、蟲は不気味な虫、グロテスクな虫を表すと勘違いしている人がいるが、本来、前者は爬虫類を後者は昆虫などの小さな虫を表した。(元来、蟲と虫は別の字であったのを蟲の略体に虫を用いたため、虫の字は本来の意味と蟲の字の意味を両方持っていることになる。芸(後述)、証なども同様)
[編集] 筆画の増加
中には筆画が増加されたものがある。「歩」がそうであり、旧字では「步」であった。このため「頻」や「涉」といった字も「頻」「渉」というように1画増やされている。「卑」や「免」「致」「雅」「緯」なども増加している。
[編集] 既存の字との衝突
主に上記のように簡略化されたが、一部の字は簡略化した字が、既にある別の字と重なってしまうこともある。
[編集] 藝と芸
「藝」は新字体の採用により「芸」になったが、以前から「芸」(ウン)という漢字が存在していた。そのためこの漢字は意味、音も異なるのだが形が一致してしまっている。多くの場合、一致してしまう既存の漢字はほとんど使われない死字で支障はないのだが、芸の場合、奈良時代末期に石上宅嗣が設けた公開図書館に芸亭(うんてい)がある。日本史や図書館学の教科書などでは芸亭の芸のくさかんむり「⺾」を4画のくさかんむり「⺿(++)」にして区別をすることが多い。ただし、これは漢字本来の区別ではなく、「芸」(ゲイ)と「芸」(ウン)の字体は本来全く同じで区別されない。なお、芸(ウン)は「書物の防虫に使用される薬草」を意味し、転じて中国では「文学、教養」をイメージさせる文字として人名などに使用される。簡体字では、上述の音符の交換の方法により、北京語で「藝」と同音の「乙」をくさかんむりの下に置き「艺」と略す。