投票行動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
投票行動(とうひょうこうどう)とは、選挙における有権者の行動を指す。また選挙において有権者がどのように行動するのか、すなわち投票を行うのかを分析する政治学の一分野である。
目次 |
[編集] 合理的選択理論における投票行動理論
有権者の合理性を仮定したうえでどのような場合に有権者が投票を行うのかについてのモデルを構築し、実際の投票行動を分析する手法は最も一般的である。このような合理的選択理論に基づくモデルには、主に次の二つのものがある。
これらの理論においては、基本的に投票にかかるコストよりも投票から得られる利益が大きい場合有権者は投票を行うとされる。
[編集] 期待効用モデル
このような合理的選択理論による投票行動研究の先駆は、アンソニー・ダウンズによるものである。ダウンズによれば人々が投票に参加するか否かを決定する要因は、次の四つである。
- 自分の投票の重要性
- 政党間の期待効用差
- 長期的利益
- 投票コスト
このうち1.は、自分の参加によりどれほど結果に影響を与えるかということに関する主観的予測を意味する。また2.は複数の政党及び候補者の掲げる政策に対して、有権者がどの程度それらの政策から得られる効用の違いを認識するかということを示している。3.は、有権者の投票によりデモクラシーのシステムが維持されることから得られる利益を示す。これは、有権者の投票参加がデモクラシーのシステムの維持に寄与するという考えに基づく。1.2.3.の要素が4.の要素を上回るとき、人々は投票に参加する。
このダウンズのモデルを数式を用いるなどして発展・精緻化させたのが、ウィリアム・ライカーとピーター・オードシュックが構築したモデルである。
式は以下のとおりである。
ここで有権者が投票することによって得られる利益をR、投票参加が結果に与える影響についての主観的確率を |
P、政党(候補者)間の期待効用差をB、投票コストをC、投票によってもたらされる長期的利益をDとすると |
|
改めてそれぞれの文字を詳しく説明すると
・P Pはpossibility=可能性である。具体的には或る人の投票参加が結果にもたらす影響についての主観的確率である。たとえば、或る人が投票に行きA政党に投票したとする。自分の投票がその政党Aが政権が取れるかどうかにかかわる、可能性の事を指している。候補者の場合は、その候補者が当選するのに自分の一票が影響を与えるかどうかの 可能性をしめしている。この可能性は有権者が主観的に見積もったものである。
・B Bはbenefit=便益・効用であり、簡単に言えばその政党が政権を取った時にその政党又は候補者が当選したときの効用を指し示すものである。より厳密に説明しよう。政党(候補者)がn人いるものとする。この時それぞれの候補者が当選するn通りの場合がある。それぞれの場合について各々異なる効用が有権者にはもたらされる。このような状況において、それぞれの場合に生ずる効用には必ず差が存在する。つまり仮に効用を数値化できるとして、候補者Xが当選した場合の効用は100、候補者Yが当選した場合の効用は50、この時の効用差は50である。この効用差がBにあたる。この時の効用は必ず期待効用(効用の期待値)である。
・C Cはcost=費用であり、投票に行く行為をするまでの労力(政策を調べたり、選挙所が遠い、時間がかかるなど。)そのようなものも含まれる。
・D Dはduty=義務感であり、選挙に参加することでの満足感を指し示している。しかし一般にDは長期的利益をあらわすとされている。ライカーとオードシュックは、ダウンズの長期的利益の概念を明確化した。それはすなわち次の五つの満足感である。(1)投票をすることにより有権者としての義務を果たしたとの満足感。(2)政治システムへの忠誠を果たす満足感。(3)最も好む政策に支持を与える満足感。(4)投票意思を決定したり、決定のための情報を収集する満足感。(5)政治システムにおける有権者の能力を確認したことによる満足感。がそれにあたる。
このようにして、トータルされたものが利益Rとして出てくるわけだが、必ずしも数値化はされない。 このときR>0であれば、人々は選挙に行くと考えられ、逆にマイナスであれば、選挙には有権者は行かないという 分析ができる。
上の一般的公式R=P×B-C+Dは次のような含意を持つ。すなわち上の公式を使うことで、投票率を下げている要因や、逆にあげるためにどのような方策をすればいいかを考えることができる。 たとえば、下げている要因はBに着目してみれば、効用が少ないとあげられるし、Cを考えるとマニフェストが入手しにくいなど、いろいろ考えられるわけである。 このようにして、選挙の上げるための方策は何かないかと考えることもできるのだ。