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宿澤広朗

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

宿澤 広朗(しゅくざわ ひろあき、1950年9月1日 - 2006年6月17日)は、東京都生まれの元ラグビー選手、ラグビー日本代表監督。その一方で三井住友銀行取締役専務執行役員コーポレートアドバイザリー本部長を務めて金融界においても実績を残した。

目次

[編集] 略歴

埼玉県立熊谷高等学校でラグビーをはじめ(全国大会~花園~出場歴はなし)、早稲田大学政治経済学部に入学。2年生でラグビー日本代表に選ばれる。日本代表キャップ3。ポジションはSH。 1973年住友銀行に(現・三井住友銀行)に入行。新橋支店に配属される。1977年末より7年半ロンドン支店に駐在。その後、主に為替ディーリング畑を渡り歩く。経験した役職は、資金為替部上席部長代理→法人部次長→大塚駅前支店長→執行役員市場営業第2部長→同市場営業統括部長→市場部門統括副責任役員→常務執行役員大阪本店営業本部長→同西日本地区法人営業推進統括責任者→取締役専務執行役員コーポレートアドバイザリー本部長。大阪駐在時代には、関西経済同友会の副会長に就任、財界活動にも進出した。

銀行業の傍らラグビーには指導者としてかかわり、1989年から1991年まではラグビー日本代表の監督を務める。 第2回ラグビーワールドカップ(1991年)で監督として日本代表の今までの唯一の勝利を得た。(日本は1987年の第1回大会以来、毎回、つまり5回、ラグビーワールドカップに参加しているが、今までの業績は1勝15敗という残念な記録を残している) その後も早稲田大学の監督、日本ラグビー協会の強化委員長を歴任した。また、強化委員長時代に従前の関東と関西に分かれていた二つのリーグを統一した「トップリーグ」を創設。なお、日本代表監督の人選が特定の学閥に偏っている(早大か同志社出身者)事に、嫌悪感を示しており、強化委員長時代に向井昭吾(東海大学卒)の就任を発表した。宿沢が、日本代表の監督を務めてワールドカップに出場したときも、メンバーに自身の後輩(早大関係者)はわずかに二人、コーチには1人であった。

2006年6月17日、登山中に心筋梗塞を発症、55歳の若さで急逝。

[編集] 逸話

  • 宿澤は、アマチュア・ラグビー界では文武両道の「模範生」と言われた。
    優等生だった彼は、本当は東京大学への進学を考えていたが、東大紛争で入試が中止されたので、やむなく早大へ進学した。
    ラグビーの用事は、基本的に土日祝日・有給休暇しか使わない。1994年に早大の監督を勤めた時も、毎週水曜日だけは定時に退社してグランドに駆けつけ、後は土日祝日を利用していたという。前早大監督の清宮克幸は、この「サラリーマン監督」の考えには否定的であり、フルタイムでないと監督を引き受けないと明言していた。また、現在の監督である中竹竜二もフルタイム監督であり、最近の大学ラグビーの監督は関東学院大の春口廣、慶大の松永のように監督専任が主流となりつつある。
    日本ラグビー協会の強化委員長に就任していた際も、前述のように大阪転勤が決まったたため、ラグビー関係の役職から全て退く意向を示して辞任している。
    ロンドン駐在時代に、NHKニュースのコメンテーターとして出演しており、ラグビーのテレビ解説者としてもNHKに頻繁に登場していた。
    金融界でその実力を知られるようになったのは、2001年からの市場営業統括部長時代。金利低下局面の追い風も受けながら、同部門は金利関連の取引によって年間で4000億円もの業務純益を出したこともある。当時、三井住友銀の業務純益の4割に当たる規模。泥沼化する不良債権処理のため、利益が底なしに食いつぶされていく中で「市場営業部門の収益が大きな支えになった」(三井住友銀幹部)ともいい、同行を支えた立役者でもある。
  • 講演会などで「戦略は大胆に、戦術は緻密に」「リーダーは選ぶものではではなく、育てるもの」と自身の信条をよく述べていた。
  • 「ノーギャラで良いからディーラーをやりたい」と述べており、銀行マンとしての仕事も両立するという信条を崩していなかった。
  • 告別式の際、当時の頭取で旧住友出身の奥正之が弔辞の中で、「君の人生が不規則バウンドして、ノーサイドを迎えたことが悔しい」と述べている。銀行マンであると同時にラガーマンとしての実績をもっと遺憾なく発揮してほしいということを代弁していたと云われている。

[編集] 日本代表監督としての成績

ラグビーワールドカップで日本対ジンバブエ、52-8の圧勝。その前秩父宮ラグビー場で、1989年5月28日IRBフル・メンバーでスコットランドに、28-24で勝った。これは日本代表の対IRBフル・メンバー戦初勝利である。この試合の前日、秩父宮ラグビー場で行われたスコットランドの非公開練習に、宿澤はラグビー場を見渡す事のできる伊藤忠商事ビルの12階から、双眼鏡で偵察した事がある。その理由が、「見るなと言われると、余計に見たくなるのが人情」であった。

[編集] 著書(共著・講演会の収録含む)

『Test match』(講談社)

『日本ラグビー復興計画』(阪急コミュニケーションズ)

『リーダーの研究』(日本経済新聞)

『キリカエ力は、指導力 常識も理屈も吹っ飛ぶコーチング』(梧桐書院)

[編集] 宿澤の発言

「ラグビーは非日常」

「誰かの真似ではなくて、オリジナルの戦略である事も大切。大胆に決めるという事は、一方では何かを捨てなくてはいけない。あれもこれもと求めないで、一方を思い切って捨てるくらい大胆でないと戦えない。それが本当の戦略」

「いつも背伸びして、手を目いっぱい挙げ、その指先が届くかどうかのレベルにチャレンジする事だ。辛いいけど、そうすれば自身が磨かれる、成長できる」。

「オリジナリティーとトレード・オフはスポーツの戦略決定にとどまらず、ビジネスプランや自分の進路を考える際にも重要なファクターである」

「英国の4カ国、それから仏、NZ、豪、南ア、この8カ国だけがIRB(ラグビーの国際統轄機関)の正メンバー国。その8カ国 に勝つのが日本の夢だった。どれだけ価値があるかというと、本場の名門の国に勝ったという事。今はもうそういうの、少し薄 れてきちゃったけれども、当時としては歴史的な事だったのは確か」

「3割あったら『これ、勝てる』それを5割以上に引き上げていけばいいんだから。あの時、じゃあ、オールブラックス

(NZ代表)とやるといったら、勝てるとは絶対言わない。だって(勝てる確率は)ゼロなんだから。0%の確率を50%に持っ ていく、これは無理。3割ぐらいの確率がある試合を、5割以上に持っていくことはできる」

 「色々な課題も出たけど、通用した部分も確かにあった。今回(第2回ワールドカップ)はパワーの部分で負けたからと言って、これまでの方針を変える必要は全くないし、このチームをベースに、少しずつ足りない部分を補っていけば、ベスト8も決して夢ではないと思う」

「僕のところにもヘッドハンティングが来る。一度、どんな条件を提示されるのか聞いてみたいと思って会ったけど、年収が4倍に増え、ラグビーに対する活動も全面的に保証してくれるんだって」

「そのボールを取る人間が、良いタイミングで走り、良いポジションに位置する事は、誰にでも出来る事ではなく、それは練習によってのみ、なし遂げられるである。たったあの一度の場面のために、1年間練習したと言っても決して過言ではあるまい」

「私が実際に早稲田でキャプテンをやった経験から言えば、ラグビーのキャプテンは、プレーが続く80分間はとにかく決断の連続である。途切れることなく決断しつづけなくてはいけない。判断し決断することの繰り返し」

「どれだけ組織が大きくなっても、内部に競争がなければ外部のライバルに勝てない」

「決断の正しさを求められるのは当たり前の話で、要は正しい決断をいかに速く行動に移せるかである。決断の正しさと同じぐらいスピードは重要。数年前に「選択と集中」が流行ったが、他社と同じ事をやっているのでは本当の戦略とはいえない。他人と違うオリジナルのアイデアを大胆に実行するのが戦略である」

「親の仕事での地位というのも相当意識していて、社会的に有用な事をしているんじゃないかと子供が感じると、親を一目置いて見るようになる。そうなると子供は、『こういう事は違うんじゃないか』という事を余りやらなくなるのでは」

「家族でも夫婦でも職場でもそうなんですが、ユーモアのセンスを共有できることはとても大切だと思う。偉そうな事を言うよりも、ユーモアを交わせる方がうまくやれる。仕事でも、信頼できる人とはユーモアのセンスを共有できるし、そういうセンスが合えば大事な仕事もうまくいく」

「スポーツでも、音楽でも、美術でもいい。その子によって興味を示すものがある。親がこれをやれって決めちゃうのはいけない。色々な事をやらせてみて、本人がこれをやりたいっていうのが出てくればいいのではないか」

「学生は勉強が日常的な事で、それ以外のスポーツなり、芸術なりの非日常的なものを小さい頃からずっと持っている、それが重要なことだと思う」

「取材で『善戦したい』という発言をすると、選手は『善戦程度か』と思ってしまう。だから『絶対勝つ』と言うが、それにはリスクもある。でも『善戦したい』では絶対勝てない。勝つためにどうしたらいいかを考え、そういう監督を信用してくれる選手達も勝つつもりでやる訳である。だから、自分がやると決めたらやる、というのは選手や子供達に対するメッセージである」

「なんでストレスがあるかというと、負けてしまうから、仕事がうまくいかないからである。で、勝つためには、相当緻密に考えて、情報を集めて、戦略を伝達して実行させる必要が出てくる」

「大体欠点の方に目が向いてしまいがちだが、それを直そうとするのは相当なエネルギーがいる割に、余り成果がない。いい所を伸ばしてやった方が、総体的に良くなる」

「監督をやった頃は、銀行の了解を得なければならなかった。2年なり3年なりやらせてくれと。今は役員だから、仕事に影響がなければ報告をしておけばいい。銀行が必要ないと言えば、ラグビーに賭ける覚悟はある。ただ、両方やっていないと、価値がないんじゃないかと思う」

「データには必ず誤差がある。いくら試合のビデオをみても、日本人とやったらどうなるかは分からない。できるだけ自分の目で確かめるべき」

「会社員にとって『自分がやりたい事』と『人事や周囲の人たちがやらせたい事』は往々にして違う。仮に違っても、それはそれでチャンスだと思う」

「ロンドン駐在時代に強く意識したのはチェース・マンハッタンなどだし、初めて支店長になった時は他の都銀だった。いつもライバルに勝つために全力を注いだ」

 「私が入行した当時、何でもこなせる人材が有能とされたが、経営を取り巻く環境が変わった。いまは専門性を持つ人材が重要になった。社員も『これをやりたい』と主張するより『これで専門性を高めたい』という意識改革が必要だ」

「けれども、スペシャリストも基本的な知識は不可欠。銀行業務に関する基礎知識があって初めて、ディーラーの専門性が生かせる」

 「ディーラーに求められる資質は果敢かつ慎重である事。慎重さは経験で学べるが、果敢さの基である『強気』は、元来弱気な人が取得するのは大変難しい。リスクをとれる強気な人材は数十人に1人ぐらい。その強気な人材を発掘することが私の部長としての仕事だ」

 「重要なポイントは決して部下と競わない事。どの組織にも自分より優秀な人材はいる。彼らと張り合っては駄目だ。だが、これは案外難しい。私は優秀な人材が能力を発揮できる環境づくりに専念している」

「日本人は組織で動いたほうが、社員の力を発揮できるのではないか」

「私たちの取引は住友銀行の格付けや設備、信用があって初めて成立する」

「高給が欲しい人は辞めてもらって構わない。穴を埋める人材は組織の中でもどんどん育つ。痛くはない」

「英国のラグビー界では才能のある選手に10歳ぐらいから目を付けて英才教育を施し、育った人材は年齢に関係なく最初からリーダーとして抜てきする」

「能力さえ示せばリーダーシップを発揮できる仕組みは、高い報酬以上のインセンティブになる」

「『私はサラリーマンが嫌だ』という人は多い。その理由は疲れる割に自分の存在感が薄いことだろう。サラリーマンの醍醐味は『組織の長として自分の思うように組織を動かせる』事に尽きる。それを経験せずにサラリーマンを論ずることはできない」

「仕事とラグビーはオンとオフの関係。ラグビーから学んだのは情報、戦略、戦術の重要性だ」。

ラグビー日本代表監督
1989年-1991年
先代:
日比野弘
次代:
小藪修


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