天目一箇神
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
天目一箇神(あめのまひとつのかみ)は、日本神話に登場する製鉄・鍛冶の神である。『古語拾遺』、『日本書紀』、『播磨国風土記』に登場する。別名は天之麻比止都禰命(あめのまひとつねのみこと)、天久斯麻比止都命(あめのくしまひとつのみこと)。
古語拾遺によれば、天目一箇神は天津彦根命の子である。岩戸隠れの際に刀斧・鉄鐸を造った(この刀が天叢雲剣であるとする説もある)。大物主を祀るときに作金者(かなだくみ、鍛冶)として料物を造った。また、崇神天皇のときに天目一箇神の子孫とイシコリドメの子孫が神鏡を再鋳造したとある。日本書紀の国譲りの段の第二の一書で、高皇産霊尊により天目一箇神が出雲の神々を祀るための作金者に指名されたとの記述がある。古語拾遺では、筑紫国・伊勢国の忌部氏の祖としており、フトダマとの関連も見られる。
鍛冶の神であり、古事記の岩戸隠れの段で鍛冶をしていると見られる天津麻羅と同神とも考えられる。神名の「目一箇」(まひとつ)は「一つ目」(片目)の意味であり、鍛冶が鉄の色でその温度をみるのに片目をつぶっていたことから、または片目を失明する鍛冶の職業病があったことからとされている。これは、天津麻羅の「マラ」が、片目を意味する「目占(めうら)」に由来することと共通している。ギリシア神話のキュクロプスを始めとして、鍛冶の神は世界共通して一つ目(片目)の神となっていることが多い。
天目一箇神は播磨国風土記の託賀郡(多可郡)の条に天目一命の名で登場する。土地の女神・道主日女命(みちぬしひめのみこと)が父のわからない子を産んだが、子に盟酒(うけいざけ)をつぐ相手を諸神から選ばせたところ、天目一命についだことから天目一命が子の父であるとわかったというもので、この神話は農耕民と製銅者集団の融合を表していると考えられている。天目一箇神を祀る天目一神社(兵庫県西脇市大木町(旧多可郡日野村大木)現在のものは再興。)では製鉄の神として信仰されていた。
『和漢三才図会』には、伊勢・尾張・美濃・飛騨の諸国では、暴風のことを「一目連(ひとつめのむらじ)」と言い神風とされている、との記述がある。確かに暴風雨をもたらす台風は一つ目である。多度大社(三重県桑名市多度町)の併社の一目連神社は、この「一目連大神」を祀ったものであるが、社伝では天津彦根命の子(すなわち天目一箇神)であるとしている。
一つ目であるとされることから、ダイダラボッチとの関連も指摘されている。