大島本
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大島本(おおしまぼん)は、『源氏物語』の古写本の1つである。現存する『源氏物語』の写本のうち、ほぼ全巻が揃い、「青表紙本」系統の本文を持つものとしては最良の写本であると考えられており、現在出版されている『源氏物語』の学術的な校訂本の多くはこの大島本を底本にしている。佐渡の旧家から昭和4年(1929年)ころ大島雅太郎が買い取って世に出たためこの大島本という名がついた。大島雅太郎はさまざまな書物の古写本を収集したため、「大島本」の名で呼ばれる古写本は多くあるが通常「大島本」という時はこの写本を指す。
『源氏物語』の写本としては、紫式部の自筆本は現存せず、また平安時代のものと認められる写本も存在しない状況で、藤原定家が校訂したいわゆる「青表紙本」が最も原文に近いと考えられている。現在ある青表紙本系統の写本の中では定家自筆本や明融臨模本を除けばこの大島本が定家が校訂した本文を最もよく保存していると考えられている。
[編集] 写本の状況
奥書によれば飛鳥井雅康が守護大名大内氏の求めに応じて文明13年(1481年)に作成したものである。
浮舟帖を欠いており全54帖中53帖が現存している。初音帖は別本系統の本文である。桐壺・夢浮橋の2帖は別人(桐壺は道増、夢浮橋は道澄)による補写である。これについて、元々揃っていたのだがあるとき欠けてしまい、別人の手になる巻で補ったとする考え方と最初に作られた時から別人の手になる写本とセットになっていたとする考え方とがある。
ほぼ全帖にわたって墨筆・朱筆・貼り紙による訂正・見せ消ちなどの多数の書き入れがある。書き入れは河内本系統の本文に基づくと見られるものが多い。 最近の研究によれば別本系統の本文である初音帖を除いて書き入れを除いた元々の本文は大体において良質の青表紙本系統の本文ではあるが、定家自筆本と完全に一致するわけではなく、他の青表紙系統の写本に見られない独自の本文をとっていることもあり、その性格は再検討を要すると言われている。
この写本は昭和43年(1968年)に古代学協会蔵となった。昭和33年(1958年)に重要文化財に指定されている。
[編集] 各種校訂本での大島本の採用状況
現代の学術的な校訂本での大島本の採用状況を示す。
- 源氏物語大成 中央公論社 池田亀鑑編
- 浮舟を除く53帖
- 浮舟は池田本
- 新編日本古典文学全集 小学館
- 下記を除く41帖
- 花散里、行幸、柏木、早蕨は定家自筆本
- 桐壺、帚木、花宴、若菜上下、橋姫、浮舟は明融本
- 初音、夢浮橋は池田本
- 完訳日本の古典 小学館
- 下記を除く42帖
- 花散里、行幸、柏木、早蕨は定家自筆本
- 桐壺、帚木、花宴、若菜上下、浮舟は明融本
- 初音、夢浮橋は池田本
- 日本古典文学全集 小学館
- 下記を除く51帖
- 桐壺、浮舟は明融本
- 初音は陽明文庫本
- 新日本古典文学大系 岩波書店 佐竹昭広編
- 浮舟を除く53帖
- 浮舟は明融本
[編集] 影印本
- 『大島本 源氏物語』全十巻 財団法人古代学協会・古代学研究所編 角田文衛・室伏信助監修 1996年 角川書店