国際原子時
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国際原子時(こくさいげんしじ、Temps Atomique International, International Atomic Time, TAI)は原子時計によって定義される非常に高精度で安定した時刻系である。TAI は世界50ヵ国以上に設置されている約300個の原子時計(セシウム原子時計を数多く含む)によって維持されている時刻の加重平均である。TAI は1955年に運用が始まり、第14回国際度量衡総会 (CGPM) の決定によって1972年1月1日からは UTC の基礎となる国際標準となった。現在は国際度量衡局が TAI の運用・管理を行なっている。
TAI の時刻を最も高精度に実現することは、時間を遡ってしか行なえない。TAI の時間間隔は TAI に参加している原子時計同士を定期的に比較することで定義されているからである。しかし、こういった較正は通常はナノ秒スケールの精度が求められる用途でしか必要ではない。ほとんどの時刻サービス利用者は複数台の原子時計で較正された時間間隔を過去に参照した原子時計から供給される TAI のリアルタイム評価値を利用している。GPS は TAI に裏付けられたリアルタイムの時刻源として広く使われている。
協定世界時 (UTC) は世界中の法的な時刻の基礎であり、常に TAI と整数秒の差を持つ。2006年1月現在、UTC は TAI から33秒遅れている。この差は閏秒によって生じたものである。閏秒は地球の自転速度にわずかな不規則性があるために UTC に定期的に挿入される補正である。TAI が連続的で安定した時間尺度であるのに対して、UTC は地球回転で定義された時間尺度である UT1 との差を 0.9 秒以内に保つためにわざと不連続になっている。大ざっぱに言うと、閏秒の補正をしなければ太陽時の正午(太陽がちょうど頭上最も高くなる時刻)が12時0分0秒からずれていってしまうことになる。UT1 は国際地球回転観測事業 (IERS) によって計算されている。TAI の原点は 1958年1月1日0時0分0秒 UT2 = 1958年1月1日0時0分0秒 TAI と定義された。
UTC は不連続な時間尺度であるため、2つの UTC の時刻間の正確な時間間隔を計算することは、その時間間隔の間に閏秒が何回挿入されたかを示す表を参照しない限り不可能である。そのため、複数年にわたる長い時間を正確に測定することが求められるような科学的用途の多くには、UTC に代わって TAI が用いられる。TAI は閏秒を扱えないようなシステムでも広く使われている。