司法修習
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司法修習(しほうしゅうしゅう)は、司法試験合格後に法曹資格を得るために必要な裁判所法に定められた研修。日本における法曹養成システムの一つの核を成すものである。司法修習を行っているものを司法修習生と呼ぶ。
司法試験合格者は、最高裁判所に司法修習生として採用され、公務員に準じた身分の下で司法修習を行う。司法修習は裁判官・検察官・弁護士のいずれを志望する場合であっても原則同一のカリキュラムに沿って司法修習を行い、修習終了後、裁判官であれば判事補として任官、検察官であれば検事として任官、弁護士であれば弁護士会への登録を行い、法曹として活躍することとなる。
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[編集] 修習期間
近年の司法制度改革で司法試験合格者が増加したのに伴い、修習期間は下記のように短縮されている。また、法科大学院においては、従来の前期修習程度までの教育を施すものとされているため、法科大学院修了者を対象にした新司法試験の合格者については、修習期間がさらに短縮されている。
[編集] 司法修習のカリキュラム
新司法試験と旧司法試験が並存しているため、2006年から司法修習もそれぞれの合格者ごとに別に行われている。
[編集] 旧司法試験合格者対象の司法修習
旧司法試験合格者の場合、司法研修所等において少なくとも1年4か月の間の司法修習を受ける。カリキュラムは前期修習、実務修習、後期修習に区分される。
最初の2ヶ月の前期修習と最後の2ヶ月の後期修習は、埼玉県和光市の司法研修所における集合修習であり、民事裁判・刑事裁判・検察・民事弁護・刑事弁護の5科目ほかからなる座学・起案作成等からなる。司法修習生を担当する第二部教官は、その担当する科目について実務の経験の深い裁判官・検察官・弁護士がこれに充てられる。司法修習生の修習指導に関する必要な事項は司法研修所長が定めるが、そのうち修習の企画その他の重要な事項を定めるには、所長を議長とする第二部の教官会議の議を経る。その実施についての具体的細目は、各科目の教官がそれぞれ協議の上定める。
中間の1年間の実務修習は、民事裁判修習・刑事裁判修習・検察修習・弁護修習をそれぞれ3ヶ月ずつ行う。司法修習生は全国50か所の地裁本庁所在地(各都道府県庁所在地+函館・旭川・釧路)に配属され(61期は13箇所のみ)、仕事ぶりに実際に立ち会ったり、裁判手続や書面作成などのレクチャーを受けたりしながら、実際の事件を題材として、実務家の指導の下、実務家法曹としての基礎を学ぶことになる。
[編集] 新司法試験合格者対象の司法修習
新司法試験合格者の場合は、法科大学院において実務教育がなされていることに鑑み、修習期間は1年とされている。カリキュラムは、10か月の実務修習と、司法研修所における2か月の集合修習に分かれる。なお、当分の間は、実務修習の前に1か月程度の導入修習が司法研修所にて行われる。
実務修習では、全国の地方裁判所本庁所在地に配属され、刑事裁判・民事裁判・弁護・検察・選択修習をそれぞれ2か月ずつ研修する。選択修習では、各人の関心に従い、専門性を深めることが期待されている。
[編集] 2回試験と修習終了
いずれの修習の場合も、司法修習の最後に国家試験である司法修習生考試が行われる。同試験は、司法試験以来二回目の試験ということから内部的には「二回試験」という通称で呼ばれる。司法修習生考試は研修所からは独立した司法修習生考試委員会によって行われ、筆記考試及び口述考試からなる。この試験に合格したときは、修習修了となり、判事補・2級検事への任用資格及び弁護士登録資格を得る。同試験に合格できなかった場合には、合格留保ないしは不合格とされる。
[編集] 特徴
日本の司法修習のカリキュラムの特徴は、その内容がほぼ裁判実務に特化されている点が挙げられる。民・刑事の裁判における事実認定が基本とされ、検察・刑事弁護・民事弁護に関するカリキュラムも裁判における事実認定を前提としての研修となっている。また、民事裁判における立証責任の所在(要件事実論)が重視されている点も指摘することができる。統一的な司法修習を行っていることから、古典的な法曹の平均像を対象としたカリキュラムとなっており、裁判外の法律問題や近時の弁護士の職域拡大などに対応した高度な予防法務や企業法務実務などには、ほとんど対応できていない。さらに、修習期間の絶対的な短縮が行われているため、その内容の拡充は限界があり、法科大学院教育や実務に携わりながらのトレーニングに委ねざるを得ない面がある。
修習期間短縮と人数増加の結果、実務修習におけるこれまでのような個別指導は困難になるものと予想され、法曹の質の低下が懸念されている。
[編集] 司法修習生
司法修習生(しほうしゅうしゅうせい)は、司法試験合格後に、最高裁判所に任用されて、司法研修所などで法律実務を修習中の者をいう。
[編集] 身分
司法修習生は、司法試験に合格した者の中から、最高裁判所がこれを命ずるとされている(裁判所法66条1項)。身分は、公務員ではないが国家公務員に準じた地位を有する。そのため、守秘義務・修習専念義務を負い、副業・アルバイトなどは許されない。また、行状がその品位を辱めるものと認めるときその他最高裁判所の定める事由があると認めるときは、罷免されることがある(裁判所法68条)。
身分証明徽章(バッジ)は、筆記体大文字の「J」を図案化した物(“jurist ”から)で、ラインが全て繋がるように描かれ、それぞれの囲みが検察官・裁判官・弁護士を表す赤・青・白の3色で塗り潰されている。
[編集] 給与制度
司法修習生には、国家公務員と同じく国家から給与を支給される(裁判所法67条2項)。具体的には、国家公務員一種で採用された者と同等の額が支払われている。
しかし、司法制度改革で司法修習生が増加することが予定されているが国家の財政状況が厳しいことや、税金を給与として支給することに批判があったことから、法改正により2010年から給与の支給は廃止され、最高裁判所が申請をした修習生に無利息で修習資金を貸与し修習後に分割返済する制度に変更されることが決まっている。
[編集] 裁判の傍聴
司法修習生は、身分証明徽章を佩用している場合は全国どこの裁判所にも立入り、あらゆる公判を傍聴する事が許される。
さらに、合議体でする裁判の合議を、許可されたとき傍聴することが出来る。実際には、裁判修習中の司法修習生は裁判官室に席を与えられるため、逐一許可がされるわけではなく、原則と例外が逆転している。また、裁判の合議はもちろん、裁判官と書記官の会話や裁判官相互の会話も含めて聞くことができる。