反物質
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反物質(はんぶっしつ)は、質量とスピンが全く同じで、構成する素粒子の電荷などが全く逆の性質を持つ反粒子によって組成される物質。 例えば電子はマイナスの電荷を持つが反電子(陽電子)はプラスの電荷を持つ。中性子と反中性子は電荷を持たないが、中性子はクォーク、反中性子は反クォークから構成されている。
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[編集] 発見・生成の歴史
- 1930年 物理学者のポール・ディラックが反粒子の存在を提唱。
- 1932年 宇宙線の研究をしていた物理学者のアンダーソンにより正の電荷を持つ電子、陽電子が発見される。
- 1955年 物理学者のセグレとチェンバレンにより、前年に建設された粒子加速器ベヴァトロンを用いて反陽子を発見。この実験では反中性子も発見されている。
- 1995年 欧州原子核研究機構(CERN)とドイツの研究チームにおいて、陽電子と反陽子からなる反水素が生成された事が判り、翌年1月に発表。
- 2002年 欧州原子核研究機構と日本を含む国際共同研究チームにおいて、反水素の5万個ほどの大量生成に成功。
[編集] 性質
物質と反物質が衝突すると対消滅を起こし、質量がエネルギーとなって放出される。これは反応前の物質・反物質そのものが完全になくなってしまい、消滅したそれらの質量に相当するエネルギーがそこに残るということである 。1gの質量は約 9×1013(90兆)ジュール のエネルギーに相当する。ただし 発生するニュートリノが一部のエネルギーを持ち去るため、実際に反物質の対消滅で発生するエネルギーは、これより少なくなると言われる。
反物質は自然界には殆ど存在しないので、人工的に作らねば得ることが難しい。非常に高いエネルギーを持つ粒子どうしを衝突させると多くの粒子が新たに生成されることは既に知られていて、これは粒子が衝突前に持っていたエネルギーがそれに相当する質量に変わるためであり、物質と反物質の衝突とは逆の事が起きているのだが、これによって生成される粒子の中に反物質(正しくは反粒子・これが集まって結合して反物質ができる)が実際に含まれている。だから現在では、人工的に高エネルギーの粒子を、粒子加速器という非常に巨大な装置を使って作り出し、それらを衝突させて反粒子を作りだし捕獲することで反粒子を得ている。
我々の宇宙における反物質の存在度が物質の存在度よりも圧倒的に小さいという非対称性の起源は、現代物理学の未解決問題のひとつである。
[編集] 利用
反物質は、石油やウランなどと異なり自然には殆ど存在せず、そのため反物質を得るには1から生成する必要がある。反物質を作るのに必要なエネルギーは、反物質によって得られるエネルギーよりも遥かに大きいため、新たに得た反物質を用いてエネルギーを作っても、結果として得られるエネルギーは反物質生成にかけたエネルギーより少なくなってしまう。通常のエネルギー資源のように利用はできない。また、物質に触れると対消滅を起こすので、貯蔵にも工夫が必要になる。
しかし反応の利点は、先の性質で述べたエネルギー生産効率の良さにある。化学反応や核反応、核融合等によって得られるものと同じエネルギーを、遥かに小さい質量で得ることができることだ。このため質量の制限が厳しい宇宙船等への利用が考えられる。ただしこれは反物質を安価に大量に製造する技術、安全に貯蔵する技術等が確立される事が前提になる。
この発生するエネルギーを光子の運動に変換すれば、光子ロケットにより亜光速に到達する事が可能であるとされ、光速で星々を旅する宇宙船である所の恒星船には必要不可欠な動力源になると考える科学者も多い。また光子ロケット以外の推進システムにしても、反応熱が核融合の比では無いだけに、動力源として安定させられれば、究極のエネルギーとして利用可能であると考えられている。
粒子加速器を使う核融合実験の際に、微量ずつ発生しては、発生の次の瞬間には対消滅で消え去って居る事が観測データから確認されており、これを宇宙空間の太陽光発電衛星に粒子加速器を付けた「反物質製造プラント」によって、量産可能にできれば、他のエネルギー源の顔色無さしめるには十分過ぎる程の「エネルギー貯蔵方法」になるという考えもあり、宇宙文明の究極の発展形として挙げられているダイソン球は、この反物質製造プラントとしては、理想的な物と考える事も可能だ。
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