原子核融合
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原子核融合(げんしかくゆうごう、nuclear fusion)とは、軽い核種同士が融合してより重い核種になる反応である。一般には単に核融合と呼ぶ。
原子核同士がある程度接近すると、原子核同士が引き合う力(核力)が反発する力(クーロン力)を超え、2つの原子が融合することになる。
融合のタイプによっては融合の結果放出されるエネルギー量が多いことから水素爆弾などの大量破壊兵器に用いられる。
目次 |
[編集] 核融合の種類
- 熱核融合 - 超高温により起こる核融合。本項で詳説する。
- 衝突核融合 - 原子核を直接に衝突させて起こす核融合。原子核の研究目的。
- ミューオン触媒核融合
[編集] 恒星での反応
恒星などの生み出すエネルギーも、基本的には核融合によるものである。
[編集] D-D反応
- D + D → T + p
- D + D → 3He + n
収縮しつつある原始星の中心温度が約250万 Kを超えると、初めて核融合が起こる。最初に起こるのは、比較的起こりやすい、2つの重水素(D) が反応する重水素核融合(工学ではD-D反応と呼ぶことも多い)である。重水素核融合を起こした天体を褐色矮星と呼ぶ。
中心の温度が約1000万 Kを超えると(ちなみに太陽の中心は1500万 K)、以下に述べるような水素核融合を起こし、恒星と呼ばれる。
[編集] 陽子-陽子連鎖反応
次の、水素(陽子、p)どうしが直接反応する水素核融合を、陽子-陽子連鎖反応、p-pチェインなどと呼ぶ。太陽で主に起こっている核融合反応である。
(1) p + p → 2H + e+ + νe
2つの陽子が融合して、重水素となり陽電子とニュートリノが放出される。
(2) 2H + p → 3He + γ
重水素と陽子が融合してヘリウム3が生成され、ガンマ線としてエネルギーが放出される
(3) 3He + 3He → 4He + p + p
ヘリウム3とヘリウム3が融合してヘリウム4が生成され、陽子が放出される。
[編集] CNOサイクル
次の、炭素(C)・窒素(N)・酸素(O) を触媒とした水素核融合を、CNOサイクルと呼ぶ。星の中心温度が約2000万 Kを超えると、p-pチェインよりCNOサイクルのほうが優勢になる。
(a-1) 12C+4p → 12C+α
(b-1) 12C+p → 13N
(b-2) 13N+3p → 12C+α
(c-1) 12C+p → 13N
(c-2) 13N+p → 14O
(c-3) 14O+2p → 12C+α
系の温度が高いとa->b->cの順に反応経路が変化し、反応速度が速まるが、基本的には炭素1つ+陽子4つが炭素1つとアルファ線になる反応である。
また、b,cでは13Nや14Oがそれぞれβ崩壊、γ崩壊する前に次のステップに進む。
[編集] ヘリウム燃焼
恒星の中心核に充分な量のヘリウムが蓄積された場合に起こる反応。水素原子核の核融合の後に残ったヘリウムは恒星の中心に沈殿し、重力により収縮して中心核の温度が上がる。約1億K程度になると3つのヘリウム原子核がトリプルアルファ反応を起こし、炭素が生成され始める。
- 3 4He → C
ヘリウム中心核からの熱により核の周辺部では水素の核融合が継続する。
[編集] 炭素燃焼
中心温度が15億 Kを超えると、炭素も核融合を始める。徐々に重い核種が作られ、25億 Kを超えると、最も安定した鉄56が作られ、中心での核融合反応は終了する。星は内側から、鉄の核、ケイ素の球殻、…、ヘリウムの球殻、水素の最外層からなる、タマネギ状の構造になり、中心以外の各層で核融合が進行する。
[編集] 超新星爆発
中心温度が100億 Kを超えると、吸熱反応である鉄の分解が起こる。それにより恒星は重力崩壊し、超新星爆発を起こす。鉄より重い元素は、超新星爆発のときの核融合で作られる。
[編集] 核融合炉
現在ある核分裂エネルギーを利用する原子力発電に替えて、核融合エネルギーを用いた発電が注目されている。
原子番号28ぐらいまでの軽い元素では、核子一個あたりの結合エネルギーが比較的小さいので、原子核融合によって余分なエネルギーが放出される可能性がある。しかし、原子核の電荷が互いに反発して反応を阻害するため、実際にエネルギーを取り出して利用できるような形で反応を起こすことが可能なのは、電荷がごく小さい水素やリチウムなどに限られると見られている。実際に核融合反応で発電するためには、原子核が毎秒1000km以上の速度でぶつかりあう必要がある。この速度の実現には、「発電炉内でプラズマ温度1億度C以上、密度1立方センチメートルあたり100兆個とし、さらに1秒間以上閉じ込めることが条件」と、いうことになる。現在(2006年9月)の到達レベルは密度は500兆個と大幅に条件をクリアしているが、依然として温度条件等の壁は高く、挑戦がつづいている。
利点としては、
- 原子力発電で問題となる高レベル放射性廃棄物が生じないこと
- 原子力発電と同様、温室効果の原因となる二酸化炭素の放出が少ないこと
- 水素など、普遍的に存在し、かつ安価な資源を利用できること
- 海水中の無尽蔵の重水素やリチウムを活用していく構想があること
- 核分裂反応のような連鎖反応がなく、暴走が原理的に生じないこと
などが挙げられる。
技術的困難としては、1億度程度の高温でなければ十分な反応が起こらず、そのような高温状態では物質はプラズマ状態となり、通常の容器に安定して収納することができず、そもそもこのような高温に耐えられる融合炉の材料が無い点等にある。そのため磁力線を利用してプラズマを保持する磁気閉じ込め方式などが開発された。
現在最も研究が進んでいるのは、磁気閉じ込め方式の一種であるトカマク型であり、現在計画中のITER(国際熱核融合実験炉)もこの方式を用いている。しかし、このトカマク型にも弱点がある。核融合のさい電気的に中性の性質を持つ中性子が飛散し、炉を傷つけるために、炉の耐久力が問題となる。とりわけITERでは前述のD-D反応よりも反応断面積が約10倍大きいD-T反応を用いる計画であるが、D−T反応では
D + T → He + n (14MeV)
と高速中性子が発生する。この高速中性子により炉の構成材内部では多数の原子が弾き飛ばされ(カスケード)、材料内部に欠陥が生じ原子レベルで空洞が生じる。これが結果として材料の膨張(スウェリング)につながり、この状態ではもはや十分な耐久性を維持出来ない。また、脆化以外にも高速中性子により炉を構成する原子が核変換してしまい、材料が放射化することから、高レベル廃棄物が生成する問題も挙げられている。
その他、各種の閉じ込め方式があり、それぞれ各国で研究が進められている。日本では、核融合研究の中心は日本原子力研究所のJT-60(トカマク型)、核融合科学研究所などで進めているヘリカル型と、大阪大学で研究が進んでいるレーザー核融合である。
圧力の低いプラズマを保持することは比較的容易であるが、エネルギーとして利用可能な程度の圧力のプラズマを保持するのは難しく、前述のJT-60で、高圧力プラズマの保持時間は30秒程度である。(この30秒という時間は加熱装置である高周波装置と中性粒子ビーム装置の稼働時間の上限で決まっているようである。現在ITERのために1000秒以上稼働できる装置を開発中である。)また、保持のために投入するエネルギーに比較して反応により得られるエネルギーはまだ小さく(Q値~1.25)、世界の各種装置で核融合利得1を若干超える程度である。これらの課題については、ITERで研究が進められる予定である。(ITERの目標値はQ値~10)
近年、常温核融合の発見が世間を賑わせたが、その後の追試験で測定に問題があるとの認識が高まり、現在では研究も下火になっている。
[編集] 核融合炉の種類
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
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