ヨシ
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ヨシ | ||||||||||||||
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冬に穂をつけるヨシ |
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分類 | ||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||
Phragmites australis (Cav.) Trin. ex Steud. |
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和名 | ||||||||||||||
ヨシ/アシ(葦、芦、蘆、葭) |
ヨシまたはアシ(葦、芦、蘆、葭)は、温帯から熱帯にかけての湿地帯に分布する背の高いイネ科の草の一種である。
「ヨシ」という名は「アシ」が「悪し」に通じるのを忌んで、逆の意味の「良し」と言い替えたのが定着したものである。3~4の種に分ける場合があるが、一般的にはヨシ属に属する唯一の種とみなされている。よく似た姿のイネ科にも流用され、クサヨシ、アイアシなど和名にも使われている。
日本ではセイコノヨシ(P. karka (Retz.) Trin.)およびツルヨシ(P.japonika Steud.)を別種とする扱いが主流である。
目次 |
[編集] 形態
条件さえよければ地下茎は一年に5m伸び、適当な間隔で根を下ろす。垂直になった茎は2~6mの高さになり、暑い夏ほどよく生長する。葉は茎から直接伸びており長さ20~50cm、幅2~3cmで細長い。花は暗紫の長さ20~50cmの円錐花序に密集している。
[編集] 生育環境
主として河川の下流域から汽水域上部、あるいは干潟の陸側に広大な茂み(ヨシ原)を作り、場合によってはそれは最高100ヘクタールに及ぶ。根本は水につかるが、水から出ることもあり、特に干潟では干潮時には干上がる。水流の少ないところに育ち、多数の茎が水中に並び立つことから、その根本には泥が溜まりやすい。このように多くの泥が集まり、蓄積する区域は、その分解が多く行われる場所でもある。
他方で、その茎は多くの動物の住みかや隠れ場としても利用される。ヨーロッパとアジアでは特に、ヒゲガラ、ヨシキリ、サンカノゴイといった鳥類と関わりが深い。泥の表面には巻き貝やカニなどが多数生息する。アシハラガニはこの環境からその名をもらっている。
このように、多くの分解が行われ、多くの動物のよりどころとなる芦原は、自然の浄化作用の上で重要な場所であり、野生動物と環境保護に重要な植物であると言える。
[編集] 帰化の問題
北米ではヨシはヨーロッパからの帰化種だという俗信が広がっている。しかし、ヨーロッパ人の移民以前に北米大陸にヨシがあったという証拠が存在している。しかしながら、遺伝子を見る以外ではほとんど見分けが付かないヨーロッパ型は、北米在来型よりもよく育つため北米でヨシが増加している。これが固有種を含む他の湿地帯の植物に深刻な問題を引きおこしている。
最近の研究により移入型と在来型の形態の違いが明らかになった。ユーラシア遺伝子型は北米遺伝子型に較べて短い葉舌(1.0mm未満)、短い穎(約3.2mm以下)を持ち、茎の特徴で区別される。近年、北米型はPhragmites australis subsp. americanus Saltonstall, Peterson, and Sorengという亜種に分類され、ユーラシア型はPhragmites australis subsp. australisと呼ばれている。
学名としてArundo phragmites L. (基礎異名), Phragmites altissimus, P. berlandieri, P. communis, P. dioicus, P. maximus, P. vulgarisとも呼ばれていた。
[編集] 人間とのかかわり
まっすぐに伸びる茎は木化し、竹ほどではないにせよ材として活用できる。古くから様々な形で利用され、親しまれた。日本では稲刈りの後に「芦刈(あしかり)」が行われ、各地の風物詩となっていた。軽くて丈夫な棒としてさまざまに用いられ、特に芦の茎で作ったすだれは葦簀(よしず)と呼ばれる。また、屋根材としても最適で茅葺民家の葺き替えに現在でも使われている。
芦の茎は竹同様に中空なので、笛として加工するにもよく、芦笛というのがある。西洋のパンフルートは、長さの異なる芦笛を並べたものである。また、クラリネットやサクソフォンを始めとした木管楽器のリードとして活用されることもある。
近年は浅い水辺は埋め立てや河川改修などにより失われることが多くなり、そのために芦原は非常にその面積を減らした。その自然浄化作用や多くの生物のよりどころとなっていることが再評価を受けて、芦原復元の事業が行われている地域もある。
[編集] 文学
葦に関して最も有名なヨーロッパ文学での言葉はブレーズ・パスカルによる「人間は考える葦(roseau pensant)である」以外にないだろう。ジャン・ド・ラ・フォンテーヌの寓話「オークと葦」(Le chêne et le roseau)では傲慢なオークが倒れてしまったのに対し、葦は倒れないように自分から折れた。
日本の古名を豊葦原瑞穂の国という。
ことわざ「難波の葦(アシ)は伊勢の浜荻(ハマオギ)」は、物の名前が地方によって様々に異なることをいう。
[編集] 外部リンク
葦の花(フランス) |