モクズガニ
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モクズガニ | ||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||
Eriocheir japonicus | ||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||
Mitten crab |
モクズガニ(藻屑蟹、英名 Japanese Mitten crab、学名Eriocheir japonicus)は、エビ目カニ下目イワガニ科に分類されるカニ。食用として有名な「上海蟹」(チュウゴクモクズガニ)の同属異種であり、日本各地で食用にされているが、産地を離れて流通する事はまれである。
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[編集] 特徴
甲幅は7-8cmほどになる大型のカニである。はさみに長い毛がはえているのが大きな特徴で、"Mitten crab(手袋ガニ)"という英名もこの長い毛に由来している。この毛はふつう黒褐色をしているが、脱皮直後は白色で白髪のようにみえる。体つきはがっちりしており、甲羅の前から横にかけてノコギリの歯のようなとげが3対ある。体色は全身が黒褐色をしている。
日本全国、沿海州、朝鮮半島、台湾、中国東部までの川に広く生息しているが、水田や用水路、河口、海岸などでも見られる。同じく川にすむサワガニよりは下流域にすみ、またアカテガニのように乾いた陸上にあがることは少ない。昼間は川の石の下などにひそみ、夜になると動きだす。食性はカワニナなどの貝類、ミミズ、小魚、水生昆虫などを好んで摂食することからおもに肉食性と考えられていたが、野生個体の胃内容を調べると通常枯死植物由来の有機物砕片(デトリタス)が胃を満たしており、肉食は機会的なものと考えられる。こうした底質からの摂食に適応して、はさみの先端には掻きとる動作に適した黒い蹄状の爪がついている。この爪は多くのイワガニ科に共通する特徴でもある。
春から夏は川に生息するが、秋から冬にかけてはオスメスとも産卵のために海へ下る。そのため秋から冬にかけて、河口や海岸で大きな個体を見かけることがある。
[編集] 別名
モクゾウガニ(千葉県習志野市)、ズガニ、ツガニ、ツガネ(長崎県)、ヤマタロウ、カワガニ、ケガニ、ヒゲガニ(徳島県貞光町)、ガンチ(徳島県阿南市)など
[編集] 食用
日本各地で「ツガネ」「ツガニ」(津蟹)、「ヤマタロウ」(山太郎)などという方言でよばれ、古来から食用にされてきた。漁はふつう秋から冬にかけて産卵のために川を下るモクズガニを狙い、梁のような仕切りを併用した籠漁などがおこなわれる。
料理は塩茹でやがん汁などがあり、郷土料理として供する所も多い。取れる量が限られるので、大都市への出荷などは稀である。
サワガニと同じく肺気腫や気胸を引き起こす肺臓ジストマの一種、ベルツ肺吸虫Paragonimus pulmonalis (Baelz, 1880)中間宿主なので、料理の際にはよく火を通さなければならない。
[編集] 伝承など
食用のみならず、モクズガニにまつわる伝承や地名などは各地にあり、なじみ深い動物だったことがうかがえる。たとえば長崎県西海市大瀬戸町雪浦川には「つがね落としの滝」(つがねの滝)という美しい滝があるが、これは産卵のため川を往来するモクズガニが滝から落ちる様から名づけられたものと思われる。
また、さるかに合戦の別伝で、カニがサルから奪ったカキを持って巣穴に逃げ込む話がある。サルが怒って「それでは巣穴に糞をひり込んでやる」と言って尻を向けたので、蟹がサルの尻の毛を鋏でむしった。それ以来、サルの尻から毛がなくなり、蟹の鋏には毛が生えるようになったという。
[編集] 生活環
川に生息するモクズガニだが、幼生は海でないと成長できない。秋になると成体はオスメスとも川を下り、海岸部で交尾をおこなう。交尾の後にメスは産卵し、1mm足らずの小さな卵を腹脚にたくさん抱え、ふ化するまで保護する。ふ化した幼生を海に放出した成体は一冬に2-3回ほど交尾と産卵を繰り返したあと、春にふたたび川をさかのぼる。
ふ化したゾエア幼生は2mmたらずで、小さなエビのような形をしている。ゾエア幼生はプランクトン生活を送るが、この間に魚などに捕食されるので、生き残るのはごくわずかである。
ゾエア幼生は1ヶ月ほどかかって4回の脱皮をし、メガロパ幼生へと変態する。脚が長くなってカニらしくなったメガロパ幼生は水底を歩くことができ、沿岸部の河口をめざす。河口へたどりついたメガロパ幼生は小さなカニへ変態し、親ガニの後を追うように川を遡る。寿命は数年から十数年ほどとみられる。
[編集] 近縁種
食用として有名な「シャンハイガニ」は学名Eriocheir sinensis、和名チュウゴクモクズガニである。複眼の間の突起がモクズガニよりも鋭くとがる。また、甲羅の横のとげも4対あり、モクズガニより1対多い。
日本国内でも食用として生きた個体が流通しているが、日本のモクズガニよりも水質汚染に強く成長も早いため、日本国内に逃げ出して繁殖を始めると生態系撹乱のおそれがあり、2005年12月に外来生物法に基づく特定外来種に指定された。2006年2月1日の施行後は無許可での輸入、飼育、放流など禁止となる。既に2004年11月には東京都港区お台場の海岸で生きた個体が発見されており、繁殖防止の徹底が求められる。
ヨーロッパやアメリカへはすでに定着実績があり、環境や生態系への被害が報告されている。
[編集] 外部リンク
- 小林博士のモクズガニ生態図鑑 - モクズガニを総合的に研究している生態学者、小林哲氏のページ