ポジトロン断層法
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ポジトロン断層法(-だんそうほう, Positron emission tomography;PET)とは陽電子検出を利用したコンピューター断層撮影技術である。CTやMRIが主に組織の形態を観察するための検査法であるのに対し、PETはSPECTなど他の核医学検査と同様、生体の機能を観察することに特化した検査法である。 主に中枢神経系の代謝レベルを観察するのに用いられてきたが、近年、腫瘍組織における糖代謝レベルの上昇を検出することにより癌の診断に利用されるようになった。
蛇足であるが、CTは外部からX線を照射して全体像を観察しているのに対して、PETなどの核医学検査では生体内部の放射性トレーサーを追跡している点に留意いただきたい。なお、両者の利点を合わせ持つ、PETとCTを一体化した装置PET/CTも開発されている。
具体的な話を原理面と応用面に分けて以下で説明する。
[編集] 原理
陽電子(positron)崩壊する核種で標識された化合物を放射性トレーサーとして用いる。そのような核種の半減期は一般に短く(15O: 2分、13N: 10分、11C: 20分、18F: 110分など)、自然界にはまず存在しない。そのため、投与直前にサイクロトロン等を用いて製造する必要がある。
人体に投与されたトレーサー中の陽電子放出核種は、体内で崩壊して1個の陽電子を放出する。放出された陽電子は近傍の原子の(生体の70%は水で構成されているので、おそらくは水分子の)電子と対消滅し、電子の静止質量に等しいエネルギー(511keV)の光子(γ線)が、通常2個放出される(消滅放射線)。おのおのの光子は元の電子と陽電子の運動量を保存する為に、正反対の運動量をもつ。すなわち、反対方向へ対で放出される。
PET装置は、人体の周囲を取り巻くように配列された多数のγ線検出器からなる。 これらの検出器のうちいずれか2つが同時にγ線を検出したとき、その2つの検出器を結ぶ直線上のどこかで対消滅が起きたと考えられる。 そこで、この情報を集めてCTと同様のコンピューター画像処理を施すことにより、トレーサーの分布を示す三次元画像を生成する。
[編集] 応用
脳内での神経活動が高まるとその部位で代謝量や血液流量が増大するので、 捉えたい指標に合わせて上に述べたトレーサーを選んでやれば、間接的に脳内で 活動が活発になっている部位を特定することができる。
- グルコース代謝量を測定したいときにはトレーサーとして18F-fluorodeoxy glucose(FDG)を主に用いる。
- 脳血流量を測定したいときにはトレーサーとして、15Oでラベルした15O2やH215O を主に用いる。