フィリブス・ウニティス級戦艦
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フィリブス・ウニティス級戦艦はオーストリア・ハンガリー海軍の戦艦。
本級は オーストリア・ハンガリー帝国海軍が第一次世界大戦前に竣工させた最初で最後の弩級戦艦の艦級である。当初は準弩級戦艦の予定であったが、イタリア海軍が弩級戦艦「ダンテ・アリギエーリ」を着工すると、直ちに計画を弩級戦艦に変更して1910年に着工した。狭いアドリア海のみで制海権を保つためにドイツに設計を依頼した艦。同型艦4隻で1912年から1915年に竣工した。4番艦シュツェント・イストファンは1918年6月10日、アドリア海でイタリアの魚雷艇の雷撃により沈没。1番艦フィリブス・ウニティスは1918年10月31日、ポーラでイタリア軍の人間魚雷により仕掛けられた爆薬の爆発により沈没した。
なお、フィリブス・ウニティス(Viribus Unitis)とはラテン語で「力を合わせて」の意味。
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[編集] 艦形について
工業デザインの重厚さでは定評のある当時のドイツの流れを汲む堅実な設計らしく、低く まとめられている。船体は前弩級戦艦以来伝統の平甲板型である。艦首から新設計の 「1910年型30.5cm(45口径)砲」を三連装砲塔形式で背負い式で2基、司令塔を組み込ん だ操舵艦橋と単棒檣、二本煙突のうち後部煙突にはデリック付き、中央部司令塔、後部 艦載艇置き場後部単脚檣、後ろ向き背負い式配置で主砲塔2基を計4基配置した。
[編集] 主砲塔配置
主砲塔の配置はイタリア海軍の「ダンテ・アリギエーリ級」が短船首楼型船体に主砲塔を甲板に 等間隔で置いていたのに対し、本級ではアメリカ海軍の「サウス・カロライナ」級と同じく、 前後共に背負い式配置を採用している。背負い式配置は直に主砲塔を甲板に並べるのよりも全長 を短縮できるメリットがあるが、高所にある主砲塔が艦の重心を上げて横揺れがひどくなる傾向 にあるので、排水量が二万トン台の弩級戦艦時代ではあまり積極的に採用している国は少ない。 これは、殆ど海の荒れる心配の無いアドリア海でしか運用する気が無かったためで、外洋での 戦闘を考えていないためである。本級はイタリアに次いで三連装砲塔を弩級戦艦時代から採用 した数少ない国の一つである、砲塔の開発は大砲製造の老舗、シュコダ社で、構造を簡略化する 目的で本来、一門に付き砲弾を揚弾する揚弾機は一機ずつ付くのがセオリーだが、本形式では 中央部の揚弾機が存在せず、中央砲の装填には左右どちらかの揚弾機を併用するしかなく、実際 の戦闘では実質的な火力は8門しかない事となる奇妙な設計である。但し、主砲自体はまともで、 この砲は仰角20度/俯角-3度、最大仰角で450kgの砲弾を20,000まで達せられた。旋回角度は 艦首尾砲塔が艦首尾方向を零度として左右150度、一分間辺り2発の発射速度を持っていた。
[編集] 副砲等
副砲は当時、欧州戦艦同様に打撃力を重視して「1910年型15cm(50口径)砲」を単装砲形式で 採用し、一番甲板と二番甲板の間に片舷6門で計12門を装備した。その他に、対水雷艇用に 「6.6cm(50口径)砲」を単装形式で計18基装備した、この時期の戦艦の装備として53,3cm水中 魚雷発射管4基を装備した。
[編集] 艦体
艦体は艦首が水線下に行くにしたがって膨らんでくるイギリス式を採用し、艦首衝角の下部に 水中魚雷発射管を持っていた。船体後部の舵は二枚舵である。
[編集] 防御について
本級は大海での作戦行動は考慮に入れられていないので、燃料搭載分を縮小し、その分を防御に 充てた、そのために小型の船体ながら防御力は同世代のトップクラスであったが、唯一の欠点 として水線下の区画配置が簡略化され、魚雷や機雷で水線下に穴が開いた場合は大量に浸水する 欠点があり、実戦において、本級が喪失される最大の要因となった。
[編集] 機関について
ボイラーはヤーロー式石炭・重油混焼缶で12基搭載した、機関は当時の主流のタービンを選択し、 パーソンズ社のギヤード・タービンを二基搭載し、機関出力27,000馬力、四軸推進で速力20,3ノット を達成した。 尚、四番艦「シュツェント・イストファン」のみ構成が異なり、バブコック&ウィルコックス社製 石炭・重油混焼缶を12基搭載し、タービンもAEG カーチス社スチーム・タービンを二基搭載し、機関 出力26,400馬力で二軸推進で20ノットを出した。
[編集] データ
[編集] 竣工時
(()内部はシュツェント・イストファン)
- 水線長:152,2m
- 全長:151.4m
- 全幅:27.3m
- 吃水:8.2m
- 基準排水量:19,698トン
- 常備排水量:21,595トン
- 満載排水量:-トン
- 兵装:30.5cm(45口径)三連装砲4基、15cm(50口径)単装砲12基、6,6cm(50口径)単装砲18基、
53,3cm水中魚雷発射管4基
- 機関:ヤーロー石炭・重油混焼缶12基+パーソンズ・ギヤードタービン2基4軸推進
(バブコック&ウィルコックス石炭・重油混焼缶12基+AEGカーチススチーム・タービン2基2軸推進)
- 最大出力:27,000hp(26,400hp)
- 航続性能:10ノット/4,200海里
- 最大速力:20.3ノット(20,0ノット)
- 装甲
- 舷側装甲:280mm(水線中央部)、160~150~130~110mm(水線端部)、180mm(第二甲板中央部)、110mm(第二甲板端部)
- 甲板装甲:36mm(18mm×2)
- 主砲塔装甲:200mm(前盾傾斜部)、280mm(前盾垂直部・側盾)、280mm(後盾)、150mm(天蓋水平部)、60mm(天蓋傾斜部)
- 副砲ケースメイト:180mm
- パーペット部:280mm(一段目)、160mm(二段目)、100mm(三段目側面)、80mm(三段目前後面)
- 司令塔:260mm(上段部)、280mm(下段部)、30mm(天蓋部)
- 航空兵装:-機
- 乗員:1,087名
- 同型艦
- フィリブス・ウニティス - 1912年竣工、1918年戦没
- テゲトフ - 1913年竣工
- プリンツ・オイゲン - 1914年竣工
- シュツェント・イストファン - 1915年竣工、1918年戦没