トラックボール
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トラックボール(Trackball)は、主にコンピュータの操作に用いるポインティングデバイスの一種。本体の上面についている球体を手で転がすことによってカーソル(ポインタ)などを移動させる。大抵は項目の決定・選択のためのボタンも数個配置される。
マウスをひっくり返した形状であることからキャットと呼ばれることがある。 メーカーや商品によってはトラックボールという名称を使用せず、マウスの名を商品名に冠している物もある。例:ケンジントンのExpert Mouseやロジクール(Logitech)のMarble Mouse等。
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[編集] 特徴
トラックボールは基本的に指先や手のひらで操作するため、腕全体を動かす必要がない。このため、長時間作業をする際にマウスなどと比較して疲労が少ない点で優れている。また、一度機器の設置場所を確保してしまえばその後は本体そのものを動かさなくとも操作できるため、占有面積が少ないという利点もある。
基本的には指で勢いをつけ、慣性を利用して玉を回転させる使い方をする。故に素早く精密な操作を行うことは不得意である。このため、素早い動作の要求されるFPSのようなジャンルのコンピューターゲームなどへの利用には向かないとされるが、『ミサイルコマンド』や『マーブルマッドネス』といったトラックボールを操作系に採用したアーケードゲームも少なからず存在する。また、過去にはアタリからコンシューマーゲーム機用(ミサイルコマンドの移植版等用)のトラックボールが発売されていた。
コンピュータ以外の用途としては、占有面積が少ないこと、手袋をしていても操作できることから、医療関係の画像診断装置(超音波診断装置など)に多く用いられる。
[編集] 現状
過去にはマウスと並んでポインティングデバイスの代表格であったが、一般へのパソコン普及が加速し始めた頃には、既に主流はマウスに移っていた。その頃でもノートパソコンにトラックボールを採用する事例は少なくなかったが、ノートパソコンの性能向上と共に薄型化が進行するにつれボール自体の直径も小さくせざるを得なくなり、次第に良好な操作性を得ることが難しくなっていった。代わってタッチパッドがノートパソコンに搭載されるようになると、トラックボールを搭載する製品はほとんど見られなくなった。
デスクトップ向け市場においてトラックボールを生産している主なメーカーはKensington・Microsoft・サンワサプライ・ロジクールの4社であったが、2006年現在、マイクロソフトは生産終了をアナウンスしている。しかし、少数派と言えどもトラックボールは未だ根強い人気を保持している。 なお、シャープのデジタルテレビパソコンのキーボードには標準で搭載している。
[編集] 操作性
トラックボールの操作感はマウスの操作感と大きく異なる。マウス操作に慣れたユーザーがトラックボールをうまく扱うには時間がかかるため、これが現在のトラックボールの衰退を招いたものと考えられる。ただし、初心者でも数日から数週間トラックボールを使えば、マウスとほぼ同じように操作出来るようになる事が多い。
現在ではマウスが標準となり、ノート型コンピュータからもトラックボールが消えてしまったため、このデバイスを目にする機会は少なくなった。しかしながら、現在でもトラックボールを好むユーザーは存在しており、有名企業を含むいくつかのメーカーから新製品がリリースされている。また、プレゼンテーション用の製品など、手で持ち上げて使う為のポインティングデバイスにおいては、現在でも小型のトラックボールを採用している製品が少なくない。
特殊なトラックボールとして「左手用トラックボール」という物もある。これはマウスやペンタブレットと組み合わせて、画面のスクロールや表示の拡大縮小などを指示し、ボタンに各種の機能を割り当てることによって、アプリケーションソフトをより素早く操作できるようにしたものである。これは「ポインティングデバイス」としての使い方ではないが、デバイスの構造は同様である。
マウスが光学式になったのと同様に、トラックボールも光学式のものが多くなっている。マウスではボールそのものが無くなったが、トラックボールの場合はボールの回転を光の反射で読み取るため、同じ形状ならば操作感に大きな違いはない。 メンテナンス性に関しては多少の差異がある。例えば採光部分(CCDが球体の回転を読み取る窓)や球体支持部などへの定期的な掃除などは光学式になっても軽減はされるものの必要ではある。
[編集] 形状の種類
机上で使われる、つまり一般のマウスと同じように使用されるトラックボールには、大別して次の3つの形状が存在する。一口にトラックボールと言っても形状によって操作感は大きく異なるのが普通である。
[編集] 手のひら操作タイプ
台座に手のひら、あるいは中指、または人差し指の「はら」で転がすための大型の球が載っているもの。大きな球の周囲にさらにボタンが配置されているため、大型の製品が多い。過去から存在するトラックボールの典型的な形状である。ボールが大きく、そのぶん慣性も大きいので操作感がよいとして好む人々がいる。なお、この種のデバイスは最近多い「エルゴノミクスに基づいた設計」の製品であっても左右対称(シンメトリー)型のものが多く、左右どちらの手でもデバイスを使用できる事が多い。
[編集] 人差し指操作タイプ
一般的なマウスに似た形をしており、マウスならばボタンやホイールがついている部分に人差し指や中指の先で転がすためのボールが載っているもの。手のひら操作タイプに比較するとボールのサイズは小さめである事が多い。デバイス自体のサイズは通常のマウスか、それより少し大きいほどのサイズの製品が多い。手のひら操作タイプと同様に左右対称型の製品が多い。なお、この「人差し指操作タイプ」は前述の「手のひら操作タイプ」と操作感覚が近い為、この2種類を1つにまとめて分類する場合もある。
[編集] 親指操作タイプ
一般的なマウスに似た形をしており、ボタンやホイールも一般のマウスと同様の配置になっている事が多い。球はデバイスの左側面に配置されており、デバイスを右手で持った時に親指でボールを転がすように作られている。ここに挙げた3つのタイプのうちでは最もマウスに近い形状・操作形態であり、かつトラックボールの利点を備えている点で優れている。ただし、宿命的に左右非対称の形状となってしまうため、左手で操作することは難しい。また、前述の2種のタイプに比べて操作感が大きく異なる。