クール・ビズ
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クール・ビズ (COOL BIZ) は、小泉政権下の2005年以降の夏に環境省が中心となって行っている環境対策などを目的とした衣服の軽装化キャンペーンである(実施期間は6月から9月まで)。
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[編集] 語源
「涼しい」や「格好いい」という意味のクール(cool)と、仕事や職業の意味を表す「ビジネス(Business)」の短縮形ビズ(BIZ)をあわせた造語である。2005年4月に行われた環境省の公募によって選ばれた。
[編集] 概要
夏の職場環境において、過剰な冷房が環境問題の「地球温暖化」、「省エネルギー」(2005年に発効した京都議定書の影響が強い)の観点から重要問題とされた。その一因として夏期のネクタイや背広が指摘される。このような服装は太陽光などの熱が体内にこもりやすく、冷房の設定温度を低くしがちになる。また、そのような服装の男性が仕事をしやすい温度まで部屋を涼しくすることが、夏期に軽装となることの多い女性にとっては温度が低すぎてしまうために、結果として冷え性になるなど、健康を損ねてしまうことも問題とされた。このようなことからか、いままでクール・ビズに取り組んでこなかった日本社会には女性差別が蔓延っているとの主張をした女性も一部に存在した。
この解決策として、環境省が音頭をとり、ネクタイや上着をなるべく着用せず(いわゆる「ノーネクタイ・ノージャケット」キャンペーン)、夏季に28度前後の冷房の適温に対応できる軽装の服装を着用するように呼びかけている。政府・与党もこれを推進しており、小泉首相をはじめとする閣僚や議員のノーネクタイ姿がテレビによく映るようになった。また、東京都霞が関の中央官庁では、夏季に上着やネクタイをしている職員はほぼ見かけなくなった。
ちなみに推奨されている衣類は、新たに購入しなければならないような特別な衣類や、ノーネクタイ・ノージャケットなど具体的な衣装を定義し指すものではなく、事務所衛生基準規則を出所とした摂氏28度という温度設定の中でも涼しく効率的に働くことが出来るような軽装全般を指していて、それが満たされる衣服であればよいとされている。そのため、自治体によってはアロハシャツや、その土地特有の服装を採用している役所も存在し、市や町のイメージ向上や宣伝に活用されている場合もある。しかし、衣料メーカーや百貨店は、かつての「カジュアル・フライデー」につづく紳士服の商機ととらえ、開襟シャツなど、ネクタイを装着していなくともだらしなく見えないデザインのシャツや、沖縄で夏のシャツとして普及しつつあるかりゆしウエアの販売を展開している。ちなみに、第一生命経済研究所が試算したところによると、クール・ビズの実施によって衣類の買い換えが日本経済に与える経済効果は1000億円以上と試算されている。
あるアンケートでは認知度が9割以上と高いものの、クール・ビズ自体に関しては賛否両論の声が上がっている。政治家の亀井静香が「だらしない、政治家として相応しくない格好」と酷評したり、売り上げの減少に繋がるため、ネクタイ業界からも批判の声が上がっている。一方、メーカー以外のファッション業界からも疑問の声が上がっていて、ピーコも自身のエッセイで酷評している。また、一般論として男性社員が上着・ネクタイを着用しないことへの非難も根強い(男性にも根強いが女性に特に強い)。特に営業職は顧客と接する職種であるため、社外からも理解が無ければ「ノーネクタイ・ノー上着」を行うことは事実上不可能であると言える。第44回衆議院議員総選挙の際の選挙活動でもクール・ビズを取り入れた服装の候補者はいるものの、有権者に対して礼儀良く接したいなどの理由から、ネクタイ姿の候補者が多くなっている。クール・ビズを取り入れる側も、クール・ビズを推進する側も、一貫した姿勢を取れない現状が、クール・ビズの定着を妨げる原因であると推察される。
かつて、第二次オイルショック後の1979年に大平内閣で提唱され、元首相・羽田孜が夏期によく着用している半袖の背広である「省エネスーツ」は、ほとんど普及しなかったが、新・省エネルックともいわれる今回の提案はどれほど定着してゆくのか注目されている。
[編集] 効果の検証
環境省が実施した、「COOL BIZ」の実施状況についてのアンケート調査の結果では、「COOL BIZ」の認知度は95.8%、「勤務先が例年より冷房温度を高く設定している」と回答した就業者の割合が32.7%であった。この割合をもとに二酸化炭素削減量を推計すると、約46万トン-CO2(約100万世帯の1ヶ月分のCO2排出量に相当)となっている。
一方、クール・ビズを含む環境省の地球温暖化防止大規模「国民運動」推進事業では、テレビ・新聞・雑誌・ラジオに加えて街頭ポスターや電車内広告、webサイトや携帯電話サイトといったメディアでの大々的な温暖化防止集中キャンペーンを行うために30億円の予算が計上されている。
単純に二酸化炭素排出削減量を見るだけでなく、その費用対効果の面からも更なる検証が必要であろう。
[編集] 効果への疑問の声
クールビズによる二酸化炭素削減量が数十万トンとするという推計がある一方、専門家からはその効果に疑問を持つ声も少なくない。 クールビズによって、衣類の買い替えの経済効果が1000億円以上とされるが、それはそれに伴った経済活動、生産活動が行われたことを意味する。経済活動や生産活動を行うには、当然工場を稼働させるための電力や、重油などの石油燃料を燃やして得られる火力、輸送の際に発生する車や船舶などの排気など、二酸化炭素を排出する様々なプロセスをとらざるをえない。そのため、生産活動での二酸化炭素排出量は膨大なものとなり、クールビズによる二酸化炭素削減量と相殺し合う形となり、その削減量は推計よりかなり少なくなるのではないかというものである。
しかし、国民に地球温暖化という問題に関心を持たせ、実行させたという意味では、非常に有効な方法ではある。
[編集] 日本社会との関係
地球温暖化防止という目的のためとはいえ、ファッションという極めて私的な領域に対して、国家が国民運動という形である種の押しつけをして統一化するというのは、先進的な自由民主主義国家においては特異な現象であるといえる。また、逆に言えば、それぞれの会社や団体において、柔軟に温度調節をしたり服装を変えたりする自由がほとんど無いことが、このような大規模国民運動という帰結を生み出しているともいえる。また男性ビジネスマンが酷暑の時期においても清涼な服装を選択できない社会習慣も根底には存在するだろう。
[編集] 日本国外での反響
中国では、当時の日本の首相である小泉純一郎がラフな服装で登場した日本式の軽装が注目されており、「清涼商務(チンリヤンシャンウー、qīngliáng shāngwū)」という当て字が使われている。これはあくまでも日本の「クール・ビズ」を指しているが、中国では新語として定着するまでになっていない。
韓国の環境部は2006年6月にクール・ビズ・キャンペーンを開始すると発表した。趣旨は日本のものと同様である。
また、2006年7月にはイギリスのナショナルセンターである労働組合会議(TUC)が、猛暑続きの夏季にはクールビズに倣い、公務員や民間企業における服装の簡素化を提唱している。ただ、イギリスでも議会や、企業でも重要な顧客との会議などの席では、未だに厳格な服装着用を求める声が根強く、定着にはまだまだ程遠いのが現状である。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- クール・ビズのニュースリリース(大韓民国環境部、英語)