クロマチン
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クロマチン(chromatin)とは、真核細胞内に存在するDNAとタンパク質の複合体のことを表す。元来、『核内の染色される物体(染色質)』を意味しており、ゲノムDNAの貯蔵形態としての役割が強調されてきたが、分子生物学の発展とともに意味合いは変わってきた。すなわち、クロマチンの構造とダイナミックスは、遺伝子の発現、複製、分離、修復等、DNAが関わるあらゆる機能の制御に積極的な役割りを果たしていると考えられるようになってきた。
具体的には、まずDNAがヒストン八量体に巻きついてヌクレオソーム構造を取る。こうした構造が150-200bpの周期で繰り返される。さらにこのヌクレオソーム繊維が折り畳まれ、直径30 nmのクロマチン繊維(30 nmファイバー)を形成する。その構造を説明するものとして、ソレノイドモデル等、多数のモデルが提出されているが、まだ定説はないのが現状である。
細胞分裂期にはいると、このクロマチン構造がコンデンシン複合体等の働きによってさらに組織的に折り畳まれ、よりコンパクトな染色体構造に変換される。この過程は染色体凝縮と呼ばれ、染色体が正確に分離されるために重要である。
[編集] 歴史
1882年 ドイツの細胞学者ヴァルター・フレミング(Walther Flemming)が、特異的な染料によって染められる細胞核内の構成要素を示す用語として、クロマチンという言葉を提案した。
1973年 精製クロマチンをエンドヌクレアーゼで消化したところ、断片はすべて200 bp の倍数であった。このことにより、タンパク質がDNAに規則正しい長さで結合していること、そしてそのタンパク質はエンドヌクレアーゼの消化からDNAを守っていることなどが示唆された。
1974年 オリンズら(Ada & Donald Olins)は、電子顕微鏡を用いクロマチンのビーズ状構造を初めて可視化した。
1974年 コーンバーグ(Roger Kornberg)は、X線回折、生化学、ヌクレアーゼ消化実験の結果をもとに、ヒストンとDNAから構成されるクロマチンの繰り返し構造のモデルを提出した。
1975年 シャンボーン(Pierre Chambon)らにより、この繰り返しのユニットを表す用語として、ヌクレオソームという言葉が提案された。
1976年 クルーグ(Aaron Klug)らは、電子顕微鏡観察をもとにして、30 nmファイバーのソレノイドモデルを提出した。
1997年 リッチモンド(Timothy Richmond)らは、ヌクレオソームの結晶構造を2.8オングストロームの解像度で決定した。
1990年半ば以降、ヌクレオソームをダイナミックに変化させる活性(クロマチンリモデリング活性)やヒストンを修飾する活性が相次いで発見され、クロマチン構造の機能的な重要性が再認識されるようになった。