ギフチョウ
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ギフチョウ | ||||||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||
Luehdorfia japonica Leach,1889 | ||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||
Luehdorfia |
ギフチョウ(岐阜蝶・学名 Luehdorfia japonica Leach,1889)は、チョウ目・アゲハチョウ科・ウスバシロチョウ亜科に分類されるチョウの一種。本州の里山に生息するチョウで、成虫は春に発生する。
[編集] 特徴
成虫の前翅長は3cm-3.5cmほど。成虫の翅は黄白色と黒の縦じま模様で、後翅の外側には青や橙、赤色の斑紋が並ぶ。さらに後翅には尾状突起を持つ。近縁種のヒメギフチョウとよく似ているが、ギフチョウは前翅のいちばん外側に並ぶ黄白色の斑紋が、一番上の1つだけが内側にずれている。また、尾状突起が長く、先が丸いことなども区別点となる。
日本の固有種で、本州の秋田県南部から山口県中部にいたる26都府県(東京都・和歌山県では絶滅)に分布する。
和名は明治初期に岐阜県で発見されたことに由来する。なお国立国会図書館には1731年作とされるギフチョウ図が所蔵されているが、その当時は「錦蝶」と呼ばれていた。
下草の少ない落葉広葉樹林に生息し、成虫は年に1度だけ、3月下旬-6月中旬に発生する。ただし発生時期はその年の残雪の量に左右される。カタクリなどの花を訪れ吸蜜する。
幼虫の食草はウマノスズクサ科のヒメカンアオイなどのカンアオイ属や、フタバアオイ属のフタバアオイ(カモアオイ)などで、卵もこれらの食草に産みつけられる。真珠のような卵から孵化した幼虫は黒いケムシで、孵化後しばらくは集団生活をして育つ。4回脱皮した終齢幼虫は夏には成熟して地表に降り、落ち葉の下で蛹となる。蛹の期間が非常に長いのが特徴で、そのまま越冬して春まで蛹で過ごす。
[編集] 近縁種
日本にはギフチョウの他にもう1種類 ヒメギフチョウ Luehdorfia puziloiが分布する。
ギフチョウによく似ているが、前翅のいちばん前方外側の黄白色の斑紋がずれず、他の斑紋と曲線をなしている。また、尾状突起が短く、先がとがっている。生育環境も、より冷涼な山地を好む。
中国東北部からシベリアにかけて広く分布し、日本では中部地方・関東地方の数県と東北地方、北海道に分布している。日本の個体群のうち、本州産のものは亜種 L.p.inexpecta 、北海道のものは亜種 L.p.yessoensis とされている。
幼虫はウマノスズクサ科のウスバサイシン、オクエゾサイシンなどを食草とする。
日本ではギフチョウとヒメギフチョウの分布が明確に分かれていることが知られており、この2種の分布境界線をリュードルフィアライン(ギフチョウ線)と呼ぶ。リュードルフィアとはギフチョウの属名 Luehdorfia である。
ギフチョウ属( Luehdorfia 属)のチョウは、シベリアから中国にかけても3種類が分布している。即ちそれはヒメギフチョウ L.puziloi、シナギフチョウ L.chinensis そしてオナガギフチョウ L.longicaudataである。
[編集] 保護と問題点
ギフチョウは、国内産のチョウの中でも特に保護活動が盛んに行われている種類である。自然保護団体が率先してギフチョウ保護に乗り出し、それをマスコミが煽り立てる構図で日本の春を席巻してきた。行政側も相乗りし、保護条例を盛んに作っている。自然保護キャンペーンや保護論者のシンボル的存在ともなっている。
ギフチョウは手付かずの原生林ではなく、人間が利用するために適度な下草が保たれる里山に多い。そのためいわゆる保護区では、利用されなくなった落葉広葉樹林の草刈りや枝打ち、落ち葉かきを行って、ギフチョウの生息環境を維持している。
保護区を設けて愛好者を締め出しておきながら、一方ではゴルフ場やスキー場・道路建設のために、環境を根こそぎ変えてしまうことが平然と行われているのも実状である。また、指定はしたものの看板一つ立てただけで他の保護対策は何一つ実施されていない場所もある。このような状況は他の生物保護についてもしばしば見られる問題である。通常、生物保護にはきめ細かく総合的・長期的な対策が必要なことが多いため、ひとり行政のみによる対策では予算・人手・知識など不足から十全な保護が行えないのが一般的である。加えて宅地造成など、他の経済的事由により土地改変が行われることも多く、十分な保護対策には地元のボランティアや専門家、愛好者などによる保護活動への参画・モニタリング等が必要な場合も多い。
また、減少したギフチョウを増やすために他地域からの移入を行う事が企画される場合がある。しかしながら、この様な事が行なわれれば、メダカのような遺伝子汚染を起こすことになり、厳に慎むべきである。これも安易な考えに基づく生物保護活動に見られる大きな問題の一つである。