カーボンナノチューブ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
カーボンナノチューブ(Carbon nanotube、略称CNT)は、炭素によって作られる六員環ネットワーク(グラフェンシート)が単層あるいは多層の同軸管状になった物質。炭素の同素体で、フラーレンの一種に分類されることもある。
単層のものをシングルウォールナノチューブ(SWNT)、複層のものをマルチウォールナノチューブ(MWNT)という。 特に二層のものはダブルウォールナノチューブ(DWNT)とも呼ばれる。
目次 |
[編集] 性質
- 一様な平面のグラファイトを丸めて円筒状にしたような構造をしており、両端はフラーレンの半球のような構造で閉じられており5員環を必ず6個ずつ持つ。
- 構造(6員環の配列や直径など)によって電気伝導率が変わるため、シリコン以後の半導体の素材としても期待されている。
- 導体としてのCNTは集積回路配線材料として用いる研究が行われている。
- 半導体としてのCNTをゲート電極(チャンネル)として用いることで、高速スイッチング素子として用いられることが期待される。
- 内部に筒状の中空空間を有しているため、様々な分子を内包させることが期待されている。燃料電池の電極などとして注目されている。
- アルミニウムの半分という軽さ、鋼鉄の20倍の強度(特に繊維方向の引っ張り強度ではダイヤモンドすら凌駕する)と非常にしなやかな弾性力を持つため、将来軌道エレベータ(宇宙エレベータ)を建造するときにロープの素材に使うことが出来るのではないかと期待されている。
- 微細繊維の形をとる場合があるため、アスベスト状の毒性を示す可能性があると指摘されている。
- ナノオーダーの1次元的物質故、原子間力顕微鏡の探針やナノピンセットなどにも応用が期待される。
この他にも色々な性質を秘めているのではないかと期待され、さらなる利用価値を探して世界中で研究が進められている。
単一の構造(カイラリティー)を持ったナノチューブだけでは作製できていないため、電子デバイスに利用するためには作製方法のブレイクスルーが必要であろう。
[編集] カーボンナノチューブの発見
1991年、日本の飯島澄男(当時NEC筑波研究所。現NEC特別主席研究員、名城大学理工学部教授、科学技術振興事業団)によって、フラーレンを作っている途中にアーク放電した炭素電極の陰極側の堆積物中から発見された。この発見はセレンディピティだけでなく、高度な電子顕微鏡技術も大きな役割を果たしていた。また、電子顕微鏡で観察・発見したというだけでなく、電子線回折像からナノチューブ構造を正確に解明した点に大きな功績が認められている。このときのCNTは多層CNT (MWNT) であった。
この業績からノーベル賞候補と言われている。
[編集] 作製方法
[編集] アーク法
- 黒鉛電極をアーク放電で蒸発させた際に陰極堆積物の中にMWNTが含まれる。その際の雰囲気ガスはHeやAr、CH4、H2などである。
- 金属触媒を含む炭素電極を黒鉛電極をアーク放電で蒸発させるとSWNTが得られる。金属はNiやCo、Y、Feなどである。
[編集] レーザーアブレーション法
- Ni-Co、Pd-Rdなどの金属触媒を混ぜた黒鉛にYAGレーザーを当て蒸発させ、Arの気流で1200℃程度の電気炉に送り出すと炉の壁面に付着したSWNTが得られる。
- 高純度なSWNTが得られるが、大量合成には向かない。触媒の種類と炉の温度を変えることで直径を制御できる。
[編集] CVD法
[編集] HiPCO法
- High Pressure Carbon monooxideの略でCVD法の一種で触媒にペンタカルボニル鉄(Fe(CO)5)を用い、一酸化炭素を高圧で熱分解することにより高純度で比較的小さな直径(1nm前後)のSWNTを得る。
- Nanotechnologies Inc.より市販されており、日本では住友商事を通して購入できる。
[編集] スーパーグロースCVD法
産業技術総合研究所ナノカーボン研究センターにおいて、畠賢治らによりスーパーグロースCVD法が発表された。CVD法の一種である本法は高効率、高純度な単層ナノチューブを得ることができる。その効率は2000倍といわれ、純度等の問題も併せて量産が難しかったナノチューブの量産を実現する技術として期待されている。また、この技術を用いると、その配向性の高さから、花びらのような構造体を成長させることも可能である。この方法で合成されたカーボンナノチューブは、基板の上に貝割れ大根のように上向きに密集して成長する。また同研究センターは2006年11月に、単層カーボンナノチューブの優れた物理・化学特性を保持したまま配向高密度化した固体の開発に成功した、とプレス発表した。