インダストリアル
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インダストリアル(Industrial)は、電子音楽の一種である。
[編集] 概要
ジェネシス・P・オリッジ(Genesis P-Orridge)、クリス・カーター(Chris Carter)、ピーター・クリストファーソン(Peter Christopherson)、コージー・ファニー・トゥッティ(Cosey Fanni Tutti)の4人によって結成したパフォーマンス集団スロッビング・グリッスル(Throbbing Gristle;脈打つ男根の意)が、事実上の1stアルバムThe Second Annual Reportのジャケットにて、INDUSTRIAL MUSIC FOR INDUSTRIAL PEOPLEという言葉をスローガンとしてあげたことがその語源とされている。その後、この語源が米国に渡り、ミニストリー(Ministry)に代表されるインダストリアル系バンドへと形を変えていくことになる。米国以外で活躍したアーティストには、イタリアのマウリツィオ・ビアンキ(Maurizio Bianchi)などが挙げられる。
現在のインダストリアルといえば、ナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)やフィア・ファクトリー(Fear Factory)のようなデジタル系スラッシュメタルが思い浮かぶが、それは商業大国である米国の中で大衆向けに変化したもので、本来の音楽性はそれとは大きく異なる。 本来のインダストリアルは、過激なスローガンを掲げ、メタルパーカッションやドリルやチェーンソーなどといった身の回りの道具を楽器として多用したアインシュテュルツェンデ・ノイバウテン(Einstürzende Neubauten、以下ノイバウテン)やテスト・デプト(Test Dept.)、ゼヴ(Z'ev)、また、攻撃的な高周波数の音を操るSPK、ホワイト・ハウス(White House)などがあげられる。呪縛的なボイスとパフォーマンスを披露したスロッビング・グリッスルなどの表現アプローチを見ると、大衆ロックというより現代音楽寄りのアート性のかなり高いものになっている。また、ミニストリーのアルバムTwitchに収録されているIsle Of Man (Version II)などは、インダストリアル本来のサウンドであり、その面影を今に見ることができる。デジタルスラッシュ=インダストリアルというスタイルは、ミニストリーのアルバムThe Land Of Rape And Honeyの頃に形付いたものと思われる。キリング・ジョーク(Killing Joke)からの影響や経緯などは不明だが、このスタイルが後のナイン・インチ・ネイルズなどのバンドを誕生させることになる。
日本でも1980年代から激しい音を扱うノイズアーティストは多く、メルツバウや元ソフトバレエの藤井麻輝が代表アーティストである。藤井は、日本版SPK限定ボックスの解説を執筆するほどのノイズマニアで、BUCK-TICKの今井寿と組んだユニットSCHAFTで「踊れないダンスミュージック」を作ったことはノイズマニアの間では伝説となっている。また、数年前に倒産した出版社ペヨトル工房のサブカルチャー雑誌『銀星倶楽部』でノイズ特集が組まれたりするなど、日本でもかなり深く親しまれたジャンルである。
また、インダストリアルを語る上での重要なエピソードがある。ノイバウテンは「一つ目親父」がトレードマークだが、そのマークが、USオルタナ界の重鎮である元ブラック・フラッグ(Black Flag)のヘンリー・ロリンズ(Henry Rollins)の腕の入れ墨に用いられたり、ジョン・スペンサー(Jon Spenser)のプッシー・ガロア(Pussy Galore)のシンボルマークにローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)の唇マークとのコラージュとして使われていて、多方面からリスペクトされている。こういった事からも「インダストリアル・ノイズ」という存在は、現在のオルタナシーンを語る上でも、切っても切り離せない存在なのである。