そろばん
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そろばん(算盤、十露盤など)は、古典的な計算補助器具である。 世界各地に多種多様なそろばんが存在するが、現在では、日本で開発されたものが世界的に普及している。珠を移動することにより計算する。このため、そろばんによる計算を珠算(しゅざん)という。
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[編集] 歴史
- そろばんの起源については諸説あるが、バビロニア起源説と中国起源説が有力である。
- 現存する最古のそろばんは、1846年ギリシアのサラミス島で発見された紀元前300年頃のもの。
- 日本には、室町時代頃、宋の商人が伝えたといわれている。
[編集] 日本のそろばん
そろばんの構造は十進法の位取りを表すのに優れている。そろばんは、珠(たま)、枠(わく)、芯(軸ともいう)を組み合わせて作られる。珠は樺(かば)や柘(つげ)、枠は黒檀(こくたん)、芯は煤竹(すすたけ)のものが一般的であるが、原材料が入手しにくくなってきているため、廉価なものでは積層材が使われることもある。現代でもほとんどの製造工程が手作業で行われており、枠に製造者の銘が入っているものも多い。枠は上下左右の枠、梁(はり)または中棧(ちゅうさん)といわれる横板、裏軸や裏板からなる。それぞれの芯は梁に通され、枠によって固定されている。また、天(上側)に1つの珠(天1珠)、地(下側)に4つの珠(地4珠)が通されている。これを桁(けた)という。桁の数は奇数と決まっており、現在一番多く作られているのは23桁のものである。また、梁には真ん中を基準として、左右とも端まで3桁ごとに定位点が打たれている。なお、枠の左側を上(かみ)、右側を下(しも)という。珠を上下にスライドすることで計算が行われ、梁と接している珠の数が盤面に置かれている数字(布数)を表す。天1珠は0または5を表すため五珠(ごだま)、地4珠は0から4までを表すため一珠(いちだま)という。これらを組み合わせると、1桁で0から9までの数を表せる。2桁なら99まで、3桁なら999までと、桁を増やすごとに表せる数字の桁も同じだけ増えていく。これは、十進法で計算するために工夫された構造である。
中国から伝来した当初には、枠が大きく珠の形状が丸い中国の算盤(さんばん)をまねて作られた、天2珠・地5珠のそろばんが用いられていた。このそろばんは、五珠で0、5または10、一珠で0から5まで、1桁では0から15まで表せる。現代の中国で算盤がいまだに用いられることがあるのは、尺貫法(尺斤法)が民間に根強く残っているからである。中国で発達した尺貫法では、度量衡の重さの単位で1斤が16両と定められていたため、十六進数の計算をする必要があったのである。日本では江戸時代にそろばんが広まっていくうち、枠の大きさが手の大きさにあわせて小さめに、珠の形状がすばやく計算しやすいよう円錐を2つ合わせた菱形のような形に、また、十六進数の計算が必要ではなかったため、使わない五珠を1つ減らして天1珠・地5珠の五つ珠(いつつだま)にと変化していった。時代が下り、昭和10(1935)年に小学校での珠算教育が必修となった際には、最後の不要な一珠が取り除かれて天1珠・地4珠の四つ珠(よつだま)のそろばんが作られるようになった。このように、日本のそろばんは高速で計算できるように工夫がなされてきており、このことが世界的な普及につながっている。国際的にメートル法の単位が使用される現在では、中国でも天1珠・地4珠の四つ珠のそろばんが普及してきている。
日本では、かつては、銀行などで事務職に就く場合などには、そろばんによる計算(珠算)を標準以上にこなせることが必須条件だったが、その後、電卓やコンピュータに取って代わられてゆき、現在では、そろばんの技能が要求されることは無くなった。しかし、文部科学省(旧文部省)がたびたび改定してきた小学校学習指導要領の算数の履修項目からそろばんが外されたことはない。近年では、そろばんは指先を高速に動かすことや盤面を1つのイメージとして捉えることから右脳の開発を促すとして、たびたび取り上げられている。また、特に教育において、十進法の概念を理解させるための格好の教材として取り入れられることもあるようである。電子計算機の普及は手動の計算道具であるそろばんから実務を奪ってしまったが、教具としてのそろばんの価値が再認識されてきている。
ひとつの特長として、一定以上、そろばん(珠算)の能力がある場合、特別な訓練を経なくても、その場に物理的にそろばんがなくても計算することができるようになることが挙げられる。これは、本来であれば実際に弾くはずのそろばんの珠を、イメージとして記憶することで順次計算することができることによる。このことを、珠算式暗算という。その際には一般にそろばんがなくても順次そろばんの珠を弾くアクションを繰り返していくことにより実行される。
[編集] 市場としてのそろばん
このようなそろばんに対する再評価にもかかわらずそろばんの市場は縮小している。これらの企業は例えば、計算という領域において電子機器の領域に参入するなどの動きは見られない。
[編集] 語源
- 「算盤」の中国読み、「スワンパン」が変化したものだといわれている。
[編集] その他
- 本来そろばんは計算のための道具であるが、振ると音がするため、マラカスのような使い方をすることもある。ボードビリアンのトニー谷が芸の一環として使っていたのが良い例である。高校野球において、商業高校の応援に用いられることも多い。
- またそろばんは小学生などの教育に使われる事が多い。そのため、2つのそろばんを用いて足の下に敷き、廊下等でスケートのように利用するといういたずらもまま見られる。ミニカーの代わりに遊ぶことも出来る。
- 和文通話表で、「そ」を送る際に「そろばんのソ」という。
- 正月に「はじき初め」を行う地域がある。日程は地域により異なる。
- 8月8日はパチパチとそろばんの珠をはじく音に通じるためそろばんの日となっている。
- 三国志の関羽が発明したという伝説がある。
- 1980年代後半のNHKラジオ第2放送に「そろばん教室」という番組があった。
- 誤解されることが多いが、そろばんはデジタル式である。手動式アナログ計算器としては計算尺がある。電子式デジタル計算機である電卓の登場によって、そろばんも計算尺も計算機(器)の主流ではなくなった。
- 内部的に二進法による計算方式を採用している電子式の計算機は、しばしば「各桁に1つしか珠がないそろばん」に喩えられる。