QWERTY配列
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QWERTY配列(クワーティはいれつ)は、ラテン文字が刻印されたキーボードの多くが採用しているキー配列。クウェルティ配列とも。QWERTYの名称は、英字の最上段のキー配列、左から6文字がQWERTYの並びであることから。1872年にChristopher Latham Sholesによって配列の原型が提案され、1882年に下記のQWERTY配列が登場(安岡、2005年5月)した。
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[編集] タイプライタとけん盤配列の関係
[編集] QWERTY配列成立前の状況
[編集] QWERTY配列が完成するまでの過程
[編集] QWERTYと同時期に普及前していた配列
[編集] QWERTYが市場に選ばれた理由
[編集] タイプライタ用けん盤から電子計算機用けん盤へ
[編集] 普及後の肯定論と否定論
QWERTY配列は一見したところ様々な字種が鍵盤上の各所に散在しており、如何なる意図を持って配置したのかが判りづらい。そういったこともあり、以下のような批判が為されてきた。
- 発明された当初のタイプライターのキー配列はABC順であったが、高速でのキー入力をすると、文字を紙面にたたきつけるためのタイプ・バー同士が絡み合って故障してしまう。このため、文字の組み合わせの内よく使われるものは離し、わざとタイピングしにくいような配列になっている。
- この配列は印刷工場の、植字工の現場で採用されていた活字ケースの配列に由来しており、「文字を拾う」ならばともかく、「打つ」ための配列としては適していない。
- この配列の開発過程において、当初最下段にあった「R」が上から2段目に移動していると伝えられる。これは商品名である「TYPE WRITER」の文字列をセールスマンが素早く入力して見せるために同じ列に集中させるのが目的である。すなわち販売戦略のための配列であり、文章入力に関して最適化されたものではない。
このように(特に第1の論に基づいて)考えると、タイプ・バーという物理的制約を持たない現代においてはQWERTY配列に拘る必要は無く、よりタイピングしやすいものを標準として定める必要があろう。過去にもそういった議論は存在したが、完全に標準化してしまったこの配列を放棄することには繋がらず、現在に至るまで"悪しき"デファクトスタンダードとして存続している、という。(このため、「標準化」の悪しき弊害の好例として繰り返し引用される)
だがこの説明には幾つもの反対意見がある。一方無論のこととして、それに対する再反論も存在する。
- QWERTYは和文の入力に於いては確かに非能率的だが、英語の単語の並びを前提として、それを入力する際には有用な配列である。フランス語圏でQWERTYを少しだけ入れ替えたAZERTY配列が普及しているのは、その言語での文字の出現の仕方の特性に応じたものが有用ということではないか。
- →だがその英語圏に於いてDvorak配列が考案され、より高速かつ疲労度の少ない入力を可能にするものとして一部に熱狂的に受け入れられていることの説明がつかない。
- 打鍵位置が散らばっているのは、むしろ入力をし易くする工夫である。運動生理学上、同じ手での連続打鍵よりも、左右の手による交互打鍵のほうが高速な入力が可能であることは明らか(太鼓を叩くところを想像すると良い)である。また同手同指よりも同手異指の連続操作のほうが、指の位置を動かすことによるタイムロス・タイプミスを減少せしめる効果は大きい。
- →QWERTY配列は英文の入力に際しても左右の手に均等に散ってはおらず、左手偏重の配列となっている。
- ※(これについては開発者が左利きであったという説や、右利きのタイピストにとって使いづらいようにしたといった説などがある。)
- この議論の前提には大きな間違いがある。そもそもQWERTY配列のタイプライターが1873年に市場に登場したのに対し、現代のように両手の指全部を使って入力するタッチタイピングが登場したのはそれから約10年後であり、当時はホームポジションという概念すらなかった。当初は二本指による打鍵が行われており、現在目にするような高速入力というもの自体が存在しなかったのだから、それによってバーが絡むなどの説は牽強付会に過ぎない。
- →確かにタッチタイプを前提として「わざと打ちづらくした」と捉える説は間違っているかもしれない。しかし逆に、二本指打鍵用の配列であるQWERTYが十本指打鍵に適していないことを補強するのではないか。
- 連続打鍵するキーを離したというならば、なぜ「er」や「ty」、「ed」といった、英文入力で連続して打たれることの多い2文字が隣接しているのか、説明がつかない。
- →その説のとおりに、QWERTY配列はそういった意味で快適な入力を志向したものかもしれない。だがそれは上述のように二本指による「拾い打ち」のための配列であり、タッチタイプの左右交互打鍵の思想とは相反する。やはり時代に応じた新しい配列を採用すべきであろう。Dvorak配列はこれらの文字の組み合わせが左右の手に散るように設計されている。
- TYPEWRITERの文字列を高速入力するためならば、全体の2段目ではなく3段目に配置したほうが打ちやすいのではないか?
- →上の説明に基づくと、当時は現代のようなホームポジションという概念がなかったいうことになる。そうすると逆にこの部分について論駁できよう。手を離して打つのだから、英字最上段に揃っていることはプラスはあってもマイナス面はないのではないか。
- そもそも当時の商標はTYPE-WRITERであってTYPEWRITERではないのではないか?
- →当時もハイフンは1段目にあったが、商標は文献によってTYPE WRITERであったりTYPE-WRITERであったりTYPEWRITERであったりしていることから、必ずしもTYPE-WRITERが最有力であったというわけではない。
なお、初発であったゆえに市場を席巻したと一般に語られるこの配列であるが、当初よりその位置を占めたわけではなく、タイピスト養成学校で採用されたタイプライターの配列が偶々これであったために独占の座を占めるに至ったとの説明もなされる。もちろん、これに対しても反論があり、たとえば、五本指タイピングの創始者の一人として知られるシンシナティのロングリー夫人(Mrs. Margaret Vater Longley)は、自身のタイピスト養成学校で、QWERTY配列とCaligraph配列の両方を教えていたことが明らかになっている。
[編集] QWERTY配列以降の新たな入力法
[編集] 参考文献
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- 安岡孝一: QWERTY配列再考, 情報管理, Vol.48, No.2 (2005年5月), pp.115-118.
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
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