N-ブチルリチウム
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n-ブチルリチウム | |
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一般情報 | |
IUPAC名 | n-Butyllithium |
別名 | n-BuLi |
分子式 | C4H9Li |
分子量 | 64.05 g/mol |
組成式 | |
式量 | g/mol |
形状 | 無色液体 普通は溶液で用いる |
CAS登録番号 | 109-72-8 |
SMILES | CCCCLi |
性質 | |
密度と相 | 0.765 g/cm3, 液体 (25 ℃) |
相対蒸気密度 | (空気 = 1) |
水への溶解度 | 激しく反応する |
シクロヘキサンへの溶解度 | 可溶 |
ジエチルエーテルへの溶解度 | 可溶 |
融点 | −76 ℃ |
沸点 | 80–90 ℃/0.0001 mmHg |
昇華点 | ℃ |
pKa | >35 |
pKb | |
旋光度 [α]D | |
粘度 | |
屈折率 | |
出典 | Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis; Vol. 1, pp. 899–907. |
n-ブチルリチウム (n-buthyllithium) は最も重要な有機リチウム化合物の1つである。n-BuLi と略記される。ポリブタジエンやスチレン・ブタジエンゴムなどの重合開始剤として広く用いられている。有機合成化学においては強塩基、プロトン引き抜き剤やリチオ化剤として広く用いられている。n-ブチルリチウムを含む有機リチウム化合物全体の、世界での年間生産量及び消費量は約1,800トンと見積もられている。
目次 |
[編集] 性質
ブチルリチウム及びその溶液は発火性を持つため、空気へ晒さないよう注意しなければならない。水と激しく反応してブタンと水酸化リチウムを与える。
- C4H9Li + H2O → C4H10 + LiOH
二酸化炭素 (CO2) とも反応し、ペンタン酸塩を生成する。
- C4H9Li + CO2 → C4H9CO2Li
炭素とリチウムの電気陰性度が大きく異なるため、炭素−リチウム結合は非常に大きく分極しているが、イオン性結合ではない(電気陰性度: C = 2.55, Li = 0.98)。電荷分離の正確な状態は知られていないが、55–90% と推測されている。それにもかかわらず、ブチルリチウムはしばしばブチルアニオンとリチウムイオンのように振る舞うと考えられることがある(下図参照)。
しかしながらこのモデルは、n-BuLi がイオン性ではないという点で正しくない。固体状態ではもちろん、溶液中においても n-BuLi は炭素−リチウム結合を持つ他の有機リチウム化合物と同じようにクラスターを形成している。n-BuLi の場合、ジエチルエーテル中では4量体を、シクロヘキサン中では5量体を形成している。炭素−リチウム相互作用は2中心2電子結合ではない。単純にリチウムの原子価殻の電子が不足しているだけである。4量体クラスターでは2つの平衡状態がみられる。1つはリチウムと CH2R が立方体の頂点に交互に配置した状態であり、もう1つはリチウム原子部分と炭素鎖部分がそれぞれ4量体となり、それらが互いに構造体を形成しているというものである。このような固体状態での構造は、非極性溶媒中でも維持されている。4量体リチウムクラスターの周りにある電子不足の多くの炭素鎖は、2電子4中心結合によりリチウムを安定化している。リチウムが非占有軌道を使って多くの炭素鎖に配位するという性質と同じく、n-BuLi は溶液中で他のσドナーに配位可能である。
[編集] 生産
標準的な生産法は臭化ブチルや塩化ブチルと金属リチウムとを反応させるというものである。
- 2 Li + C4H9X → C4H9Li + LiX
- ただし X = Cl, Br
この反応は金属リチウム中に 1% のナトリウムを入れておくことで加速される。この反応ではベンゼン、シクロヘキサン、ジエチルエーテルなどが溶媒として用いられる。臭化ブチルが前駆体となった場合、反応物は臭化リチウムとブチルリチウムが混在してクラスターを形成した、一様な溶液となる。一方塩化リチウムとの錯形成能は比較的弱いため、塩化ブチルとリチウムの反応では塩化リチウムの沈殿が生成する。
[編集] 反応
n-BuLi はハロゲン化炭化水素、特に臭化物と交換反応を起こし、新たな有機リチウム化合物を生成する。
- C4H9Li + RBr → C4H9Br + RLi
このようにして生成した有機リチウム化合物 (RLi) は単離されることなく用いられる。RLi は求核性のある炭素原子を持つこととなる。これらの反応はジエチルエーテル中、−78 ℃で行われることが多い。
似たような反応として、2つの有機金属化合物がその金属を交換するトランスメタル化反応が挙げられる。このような反応の例として多く挙げられるのはリチウムとスズの交換反応である。
- C4H9Li + Me3SnAr → C4H9SnMe3 + LiAr
- ただし Ar: アリール基(芳香族置換基)、Me: メチル基
n-BuLi の最も特徴的な性質の1つは、その塩基性である。tert-ブチルリチウム (t-BuLi) と sec-ブチルリチウム (s-BuLi) はより強い塩基として用いられる。n-BuLi は、電子の非局在化により共役塩基が多少安定化されている炭化水素の水素原子を引き抜くことができる。アセチレン (H−C≡C−R) やメチルホスフィン (H−CH2PR2)、フェロセン (H−C5H4) などがその例として挙げられる。ブタンの安定性と揮発性から、この脱水素化反応は便利であると言える。n-BuLi の速度論的な塩基性は反応溶媒に依存する。
- LiC4H9 + R−H C4H10 + R−Li
テトラメチルエチレンジアミン (TMEDA) や DABCO といったリチウムイオンへの配位能を持つ化合物は炭素−リチウム結合を分極させ、リチオ化を促進する。このような添加剤はリチオ化された化合物を単離するのに有用である。有名な例としてジリチオフェロセンが挙げられる。
- Fe(C5H5)2 + 2 LiC4H9 + 2 TMEDA → C4H10 + Fe(C5H4Li)2(TMEDA)2
n-BuLiを含む有機リチウム化合物は特定のアルデヒドやケトンの生成にも用いられる。1つの例として、有機リチウム化合物と2置換アミドとの反応が挙げられる。
- R1Li + R2CONMe2 → LiNMe2 + R2C(O)R1
有機リチウム化合物はアルケンの生成にも用いられる。加熱するとβ水素脱離を起こし、アルケンと水素化リチウムを生成する。
- C4H9Li → LiH + CH3CH2CH=CH2
[編集] 安全性
ブチルリチウムは空気と水に非常に敏感であり、空気に晒すとしばしば発火する。取り扱う際には不活性ガス下で、活性を落とさないように保存、取扱を行わなければいけない。
[編集] 参考文献(英語)
- ChemExper Chemical Directory
- FMC Lithium manufacturer's product sheets
- Environmental Chemistry directory
- Weissenbacher, Anderson, Ishikawa, Organometallics, July 1998, p681.7002, Chemicals Economics Handbook SRI International
- HPV test plan, submitted by FMC Lithium to EPA
- Ovaska, T. V. e-EROS Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis "n-butyllithium." Wiley and sons. 2006. DOI: [1]
- Elschenbroich, C.; Salzer, A. Organometallics: a Concise Introduction 1st ed. 1989: VHC publishers, New York.
- Greenwood, N. N.; Earnshaw, A. Chemistry of the Elements, 2nd ed. 1997: Butterworth-Heinemann, Boston.
- Brandsma, L.; Verkraijsse, H. D. "Preparative Polar Organometallic Chemistry I"; Springer-Verlag: Berlin, 1987.
[編集] 外部リンク
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