IPアドレス枯渇問題
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IPアドレス枯渇問題(あいぴーあどれすこかつもんだい)とはインターネットの発展に伴い浮上してきた問題で、現在使用されているIPv4というプロトコルでは近い将来にIPアドレスが不足してしまうことが予想されている事態を指す。
インターネット上のノードはIPアドレスによって一意に区別されるが、インターネットの急速な普及により1993年までにクラスBアドレス空間が枯渇してしまうと予測された問題である。不足により、一部ではIPアドレスに代わってドメイン名をメインに使用することもある。
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[編集] 問題の発生
限定された通信だけを行なうのであれば、ローカルなIPアドレスと、グローバルなIPアドレスを使い分けるNAPT(IPマスカレード)等の技術によって一時的に回避することが可能ではあるが、これらはインターネット上のサービスを指定するポート番号を他の目的に流用するやり方であり、根本的な解決方法ではない。NAPTはネットワーク上を流れるパケットを書き換える行為であり、これはセキュリティ上問題がある行為である。また、ネットワーク上でIPアドレスによってノードを一意に指定できないという問題は依然として残っている。
IPアドレス枯渇問題はインターネットが誕生した時から潜在的に存在していた。 「32ビットのIPアドレスでは2の32乗=約43億のIPアドレスしか管理できない」という考えは将来に起こり得る問題として提起されはしたが、実際に深刻な問題としては取り組まれなかったのである。つまり、当時からIPアドレス枯渇問題を回避するための技術を用いることはできたかもしれないが、当時の考えではそこまでの機能を持たせるだけの必要性がなかったのである。
[編集] 日本での対応
日本においては1990年台後半に起こった爆発的なインターネット接続の普及などもあり、プロバイダは接続者ごとに固定IPを振る本来的な方法ではなく、接続中だけいずれかのIPが振られる動的IP割当方式を採用した。そのため、一般ユーザーはサーバーを公開することが難しくなり、固定IPサービスは多くのプロバイダで追加料金が課されるようになった。 更にブロードバンドインターネット接続の先駆けとして登場したケーブルテレビインターネット接続では、ローカルIPしか割り当てない方式が一時主流となった。このような環境下ではウェブ、メール、FTPなどの特定の通信以外での使用は多くの場合厳しい。
またJPNICなどが、アドレス空間の割り当てを審査するなど割り当て方法を厳格にし、無用な割り当てを行わないようにした。
このように、IPアドレスの枯渇はインターネット末端での通信環境の制限をもたらす事を意味している。さらに、現在では家電機器などにネットワーク機能をインプラントする構想も始まっており、さらには電子レンジ1台ごと、冷蔵庫1台ごとに1つのIPを必要とするような時代が到来するかもしれず、IPアドレス枯渇問題はますます深刻性を増していくとの予想もある。
[編集] 126.0.0.0/8分配事件
2005年2月、JANOGのメーリングリストで126.0.0.0/8(126.0.0.0~126.255.255.255の範囲のIPアドレスのことで、理論値で最大16,581,375個割り当てられる)という大量のIPアドレスがソフトバンク傘下のBBテクノロジーに分配されたことについて疑問を呈するメールが投稿された。そのときは”ソフトバンクさん大量にIP使うんだね、APNIC太っ腹だね(このIPを割り当てたのはAPNIC)”程度の認識であったが、翌3月にJPNICのIPアドレス担当理事である前村昌紀が日経ネットワーク誌上でIP枯渇問題は依然としてあるけど前より余裕あるし、APNICがやったことだけど126.0.0.0/8割り当ても妥当じゃないのという旨の発言をしたため事態は一変、JANOG-ML上で今までIPアドレスを出し渋っていたJPNICに対して一斉に批判がなされた(subjectが”Re: 126.0.0.0/8”ものを参照)。
[編集] 他国での対応
[編集] 米国の場合
世界的地域間でのIP割り当て格差も問題の一つである。IPアドレス最大保有国(70%保有)であり、IPアドレス枯渇問題への影響力が大きいアメリカでは利害と直結しないことからこの問題に対する関心・危機感が薄い。
[編集] APNICの見解
APNICではIPアドレスの枯渇はない、少なくとも管轄であるアジア・太平洋エリアでのIPアドレスの不足はないとしている。
[編集] IPv6の採用
現在、アドレス空間の桁数を増大させたIPv6が普及しつつある。
詳細はIPv6の頁を参照。