鷲は舞い降りた
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『鷲は舞い降りた』(わしはまいおりた、英:The eagle has landed)は1975年に発表されたジャック・ヒギンズの小説のタイトルである。
英米において発売直後からベストセラーとなり当時の連続1位記録を塗り替えた。「鷲が舞い下りる」とは第二次世界大戦のドイツ空軍の落下傘部隊(en) が降下に成功した事を指す作戦用語である(あくまで物語上の約束)。1943年9月に成功したムッソリーニの救出作戦を背景として現実の事件や人物を織り込みながら壮大な物語を展開させる「ヒギンズ節」の傑作。翌年の1976年にはマイケル・ケイン、ドナルド・サザーランド、ロバート・デュヴァルらが出演した同名の映画も公開された。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] 物語
イギリスのノーフォーク州にある田舎町でジャック・ヒギンズは教会の墓地に隠されていた墓石を発見する。そこには「1943年11月6日に戦死せるクルト・シュタイナ中佐とドイツ落下傘部隊員13名、ここに眠る」と刻まれていた。奇妙な墓銘碑の真実を探す旅を続けたヒギンズはありえない事実にたどり着く。時代は第二次世界大戦まで溯る。
大戦末期、ドイツの敗色が濃厚の中で山頂ホテルに幽閉されていたムッソリーニをオットー・スコルツェニーの指揮する空軍降下部隊と親衛隊特殊部隊が救出した一件はヒトラーを狂喜させ、宿敵チャーチルの誘拐を口にさせる。最高権力者の一言だけに作戦課はプランを立てるが肝腎のチャーチルの予定が分らないというお粗末さであり、あくまで絵に描いた餅に過ぎなかった。しかし、英国に潜伏中のスパイがチャーチルが田舎で休暇を過ごす予定があり、日時と宿泊場所を具体的に連絡してくる。ここから偶然が重なる形で幾つかの条件が引き寄せられ、運命の歯車が回り始める。
空からの機動性を生かして実行部隊を輸送するとしても、敵国での潜入活動のため現地のスパイと協力できる工作員が不可欠であり、ベルリンで保護していたIRAのリーアム・デブリンに白羽の矢が立てられる。デブリンはいつか来る死を予感しながら祖国アイルランドの独立を夢見ていた。物資の調達も終わり、最後に作戦を指揮する男が指名される。
「非常に頭が良くて、勇気があって、冷静で、卓越した軍人 - そして、ロマンテックな愚か者だ」。名も知らぬユダヤ人の少女を助けた行為は伝説の将であるクルト・シュタイナ中佐を自殺同然の特攻作戦へ導く。死が訪れるまでの時間も微笑をたたえながら悠然と過ごすシュタイナのもとへヒムラーの使者とデブリンが訪れる。
チャーチルの誘拐、不可能ならば射殺という戦争とは関係のない愚かな決断が何も生まないと知りながらシュタイナ中佐と13人の部下(と1人の狡猾なヒムラーのスパイ)は作戦開始の日を迎えて輸送機から嵐の夜空へ飛び出していく。己の最期まで誇りを失わず空をいく鷲の如く。
1973年の「死にゆく者への祈り A Play for the Dead」で注目の的であったヒギンズの名を不滅たらしめた本作には、魅力的なフレーズがある。明晰な君がなぜ行くのかと聞かれたデブリンは「私が最後の冒険者だからだ」とシュタイナに答えている。
[編集] キャラクター
- ドイツ空軍降下猟兵(落下傘部隊)
- クルト・シュタイナ
- この物語の主人公。空軍降下兵中佐。ドイツ陸軍少将の父とアメリカ人の母を持ち、若い頃は芸術家を志していたらしいが結局は軍隊に入る。数々の戦いにおいて空挺奇襲任務において伝説的な手腕を発揮し、ロシア戦において、柏葉付騎士鉄十字章を受章してヒトラーでさえも会いたがっていたほどだったが、プラハでユダヤ人少女を助けたことによってチャンネル諸島で部下ともども懲罰任務に従事させられる。チャーチル誘拐殺人の件で有能且つイギリス人に見える将校が必要になったので作戦に起用される。「非常に頭が良くて、勇気があって、冷静で、卓越した軍人 - そして、ロマンテックな愚か者だ」という評価の通りの人物で早川書房の冒険小説ガイドブックの主人公ランキングで3位になるなど人気は高いが、デブリンと比べると若干クセにかけるきらいがある。
- リッター・ノイマン
- ヴァルター・シュトルム
- 階級は軍曹。軍隊に入る前はハンブルグではしけの仕事をしていたので口の聞き方が乱暴になるきらいがある。妻と娘がいたが空襲で死んでいた。
- ペーター・ゲーリケ
- ドイツ国防軍情報部
- マックス・ラードル
- ジョウアナ・グレイ
- 南アフリカにあったオレンジ自由国出身。ボーア戦争でイギリス軍のために両親と前夫、それに娘を失ったことからイギリスに強い恨みを抱いていた。彼女の身に同情したイギリス人医師と再婚。アフリカで夫の伝道を手伝い、夫の死後は南アフリカのイギリス人官吏の家で住み込みの家庭教師を働いていた。その時、ボーア・ナショナリズムの会合で出会ったハンス・マイアーというドイツ人情報員に官吏の家で手に入れたイギリスの情報を手渡したことが工作員になるきっかけとなる。
- 亡夫のおばが、スタドル・コンスタブルにある家に移り住むことを条件にその遺産を彼女に受け継がせたので、スタドリ・コンスタブルに移住。そこではレディとして扱われ、風景に魅了されたがマイアーが国防軍情報部に入っていたことによって、イギリス在住の工作員、暗号名「椋鳥」としてドイツのために働くことになる。上流イギリス婦人という顔が効いて、たびたび重要な情報を横流ししていた。その中にチャーチルが地元の有力者の家に逗留するという情報があって、チャーチル誘拐の作戦が一気に現実味を帯びることになる。
- IRA
- リーアム・デブリン
- IRA の伝説的なテロリスト。父親がイギリスとの戦いで処刑されおり、神父をしていた母方の伯父の許で成長。トリニティ・カレッジに進学しイギリス文学での学位を取って、将来は作家になるでろうといわれたが宗教暴動で伯父の教会が襲われ、伯父が片目を失明したことによってテロリストの道を邁進することになる。色々なことがあってドイツに引き取られるがナチズムには反対の立場を取っていたため、大学講師というしがない暮らしを強いられていた。だが、チャーチル誘拐において現地でさまざまな準備をする人間が必要なので彼に白羽の矢が立てられる。
-
- この世というのは神が作った冗談の世界だと知りつつ、それを笑いながら生きてやろうという人物でイギリスは嫌いだが、安易に女子供をテロの標的にすることを嫌うなど誇りを持っている。皮肉屋な性格と言動で人気が高く、早川書房の冒険小説ガイドブックの副主人公ランキングで2位を取っているほど。続編の鷲は飛び立ったでは主役を務め、テロリストに薔薇をやショーン・ディロンの一連のシリーズで登場するなど長生きしている。とりわけ「おれは、偉大なる冒険家の最後の一人なのだ」の一言は読者をひきつけてやまない。
-
- 非常に優秀な拳銃の使い手である。冒険家を引退した後はダブリンのトリニティ・カレッジで文学を教えながら暮らしている。たまに訪ねてくるジャック・ヒギンズをからかうのが楽しみらしい。