電気主任技術者
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電気主任技術者(でんきしゅにんぎじゅつしゃ)は、事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する専門的な知識を有するものに与えられる資格。資格者には免状が交付される。「電気主任技術者試験」の名から電験(でんけん)と略称されることが多い。必置資格である。
事業用電気工作物(定義は電気工作物の項参照)の設置者(所有者)は電気事業法の定めにより電気主任技術者等の主任技術者を有資格者の中から選任することが義務付けられている。この有資格者に対する特別な称号は定められておらず、主任技術者免状の交付を受けている者と呼ぶ。したがって、選任されていない有資格者に対する個人の称号としての使用は、法律的には誤用であるが、社会的には通用している。
なお、自家用電気工作物については、設置者が経済産業大臣の許可を受ければ電気工事士の資格保有者等を電気主任技術者として選任することができる。これを許可選任と言う。
- 第一種電気工事士(試験のみ合格の場合を含む)は500kW未満の受電設備に限定。
- 第二種電気工事士の場合は100kW未満の受電設備に限定。
目次 |
[編集] 任務
主任技術者の任務は次のとおり。
- 事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安の監督を行う。
- ただし水力設備(ダム等)についてはダム水路主任技術者の、火力設備及び原子力の設備(ボイラ、タービン、原子炉等)並びに燃料電池設備の改質器で最高使用圧力が98kPa以上のものについてはボイラー・タービン主任技術者の監督範囲となり、電気主任技術者の監督範囲からは外れる。
[編集] 資格の区分と選任範囲
電気主任技術者の主任技術者免状には以下の区分があり、それぞれ記載した範囲の電気工作物について電気主任技術者として選任をうけ、電気的設備の工事、維持及び運用に関する保安の監督ができる。
- 第1種電気主任技術者免状
- すべての電気工作物
- 第2種電気主任技術者免状
- 170,000V未満の電気工作物
- 第3種電気主任技術者免状(「電験三種(でんけん・さんしゅ)」と呼称されることがある)
- 50,000V未満の電気工作物(出力5,000kW以上の発電所を除く)
[編集] 資格取得方法
[編集] 試験
財団法人電気技術者試験センターが電気主任技術者試験を全国で年1回実施。試験は誰でも受験可能。
- 第1種、第2種
- 一次試験4科目(理論、電力、機械、法規)と二次試験2科目(電力・管理、機械・制御)がある。
- 第3種
- 一次試験4科目(理論、電力、機械、法規)のみ。
[編集] 認定
学歴または資格及び実務経験の証明書を添えて経済産業大臣に提出する。学歴の科目の一部は試験(一次試験)の科目合格で替えることができる。
- 第1種、第2種
- 認定校を所定の科目を習得して卒業し、定められた年数以上の実務経験が認められた場合。
- 1つ下位の資格を取得し、定められた年数以上の実務経験が認められた場合。
- 第3種
- 認定校を所定の科目を習得して卒業し、定められた年数以上の実務経験が認められた場合。
[編集] 試験の合格率
下表は財団法人電気技術者試験センターが発表した資料を元に合格率を計算したものである。合格率=難易度ではないことと、平成7年度以降は科目合格保留制度があるため、合格率は参考であることに注意されたい。
年度 | 一次受験者数 | 一次合格者数 | 一次合格率 | 二次受験者数 | 二次合格者数 | 二次合格率 | 一次×二次合格率 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
平成09年度 | 901 | 272 | 30.2% | 428 | 126 | 29.4% | 8.9% |
平成10年度 | 1,108 | 259 | 23.4% | 432 | 72 | 16.7% | 3.9% |
平成11年度 | 1,261 | 335 | 26.6% | 515 | 47 | 9.1% | 2.4% |
平成12年度 | 1,285 | 398 | 31.0% | 638 | 129 | 20.2% | 6.3% |
平成13年度 | 1,328 | 327 | 24.6% | 591 | 75 | 12.7% | 3.1% |
平成14年度 | 1,389 | 332 | 23.9% | 566 | 53 | 9.4% | 2.2% |
平成15年度 | 1,590 | 443 | 27.9% | 685 | 81 | 11.8% | 3.3% |
平成16年度 | 1,627 | 381 | 23.4% | 694 | 49 | 7.1% | 1.7% |
平成17年度 | 1,666 | 219 | 13.1% | 524 | 66 | 12.6% | 1.7% |
平成18年度 | 1,755 | 234 | 13.3% | - | - | -% | -% |
年度 | 一次受験者数 | 一次合格者数 | 一次合格率 | 二次受験者数 | 二次合格者数 | 二次合格率 | 一次×二次合格率 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
平成09年度 | 5,078 | 1,666 | 32.8% | 2,331 | 603 | 25.9% | 8.5% |
平成10年度 | 5,704 | 1,944 | 34.1% | 2,807 | 440 | 15.7% | 5.4% |
平成11年度 | 6,010 | 2,026 | 33.7% | 3,169 | 367 | 11.6% | 3.9% |
平成12年度 | 6,339 | 1,837 | 29.0% | 3,127 | 476 | 15.2% | 4.4% |
平成13年度 | 6,889 | 1,931 | 28.0% | 3,023 | 370 | 12.2% | 3.4% |
平成14年度 | 7,405 | 1,855 | 25.1% | 2,993 | 641 | 21.4% | 5.4% |
平成15年度 | 7,772 | 1,769 | 22.8% | 2,731 | 480 | 17.6% | 4.0% |
平成16年度 | 7,536 | 1,777 | 23.6% | 2,702 | 303 | 11.2% | 2.6% |
平成17年度 | 7,127 | 1,581 | 22.2% | 2,551 | 545 | 21.4% | 4.8% |
平成18年度 | 7,038 | 1,523 | 21.6% | - | - | -% | -% |
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
昭和60年度 | 20,788人 | 2,343人 | 11.3% |
昭和61年度 | 20,584人 | 2,201人 | 10.7% |
昭和62年度 | 22,248人 | 2,232人 | 10.0% |
昭和63年度 | 22,312人 | 2,778人 | 12.5% |
平成01年度 | 21,269人 | 2,371人 | 11.1% |
平成02年度 | 20,609人 | 2,548人 | 12.4% |
平成03年度 | 20,565人 | 3,195人 | 15.5% |
平成04年度 | 23,021人 | 3,334人 | 14.5% |
平成05年度 | 24,323人 | 3,490人 | 14.3% |
平成06年度 | 28,548人 | 3,903人 | 13.7% |
平成07年度 | 39,077人 | 4,160人 | 10.6% |
平成08年度 | 51,895人 | 8,646人 | 16.7% |
平成09年度 | 59,025人 | 7,982人 | 13.5% |
平成10年度 | 54,386人 | 5,804人 | 10.7% |
平成11年度 | 52,358人 | 6,238人 | 11.9% |
平成12年度 | 55,767人 | 6,703人 | 12.0% |
平成13年度 | 53,446人 | 6,490人 | 12.1% |
平成14年度 | 53,804人 | 4,364人 | 8.1% |
平成15年度 | 51,480人 | 5,336人 | 10.4% |
平成16年度 | 44,661人 | 3,851人 | 8.6% |
平成17年度 | 42,390人 | 4,831人 | 11.4% |
平成18年度 | 41,133人 | 4,416人 | 10.7% |
[編集] 電験の役割
電気主任技術者(を置く、という)制度には、電気の安定供給や保安の確保という目的があるが、明治時代その制度発足に当たっては、電気技術者の地位の安定化というねらいもあったと言われる。当初、学識経験者としていた資格は、学歴要件などを経て現在、試験や認定という形式で誰にでも開かれている。とくに、学歴に関係なく受験でき、さらに、実務経験を必要としないこともあって、電験は電気技術者に最も信頼される資格であり、電験合格者は尊敬される存在であった。
電験は必然的に、個人の技量を競い、高める役割を増大させ、多くの不合格者を含めた電気技術者の努力によって定着した。最近では、電力関係は最先端技術という位置付けから、正常に動いて当たり前という社会基盤となっている。電気技術者の活躍の場が、弱電や情報分野にも広がり、電験が唯一無二のステータスという訳では無くなっているものの、本来限られた所でしか活かすことのできない資格(必置資格)であるにもかかわらず、電験合格を目指す者が近年でも毎年5万人程度ある。この数字は大学工学部全体の、近年の年間卒業生数に相当する。
試験のレベルは実務に比較して高めに設定されている。現場の一線で働く技術者が合格しないような試験では、通常ならば、試験の設定に問題があるということになりそうであるが、選任に当たっては試験以外にも、下位資格と経験などを考慮した資格の授与という配慮がある。
電気はオームの法則通りに動くと言われるものの、実際の選任では、試験合格だけの資格者が選ばれることは少ない。電気主任技術者になるには経験も積まなければならない。
[編集] 認定制度の問題点
電験は難易度が高い割には、認知度はそれほど高くはない。
それは認定制度の存在が原因である。認定校を卒業して実務経験を積めば、勉強をしなくても認定で電気主任技術者になれる(認定の場合、電験とは言わない)。認定制度だけで第一種まで取得することも可能である。事業用電気工作物の設置者にとっては、認定によって電気主任技術者になった者の方が実務経験があるため使いやすい面もある。実際、試験だけで資格を取った人が電気主任技術者として選任されることは少ない。このような理由から、苦労して難しい試験を受けて電気主任技術者を取得する必要性が薄いのである。