超伝導
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超伝導 (ちょうでんどう、 Superconductivity) は、超低温環境下で金属に生じる現象で、電気抵抗がゼロになることからこのように呼ばれる。超伝導現象が生じる物質のことを超伝導体 (Superconductor) といい、超伝導状態で流れる電流のことを超伝導電流という。 超伝導状態では、ゼロ抵抗以外にも超伝導体内部から磁場が排除される(マイスナー効果)などの顕著な現象が見られる。さらに、超伝導体は磁場に対する応答の違いから第一種超伝導体と第二種超伝導体に分かれることが知られている。後者では超伝導体中を磁束量子が格子状に貫通することで超伝導状態と磁場が共存可能になり、磁束が超伝導体中の不純物などに固定される(ピン止め効果)ことによりゼロ抵抗を維持している。いわゆる「磁気浮上」現象ではこの磁束のピン止めが重要な役割を果たす。工学分野では、超電導と書かれることがある。
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[編集] 概要
1911年、水銀の電気抵抗が4.2Kでゼロになることがヘイケ・カメルリング・オネス(オランダ)によって初めて報告された。この発見以降、多くの超伝導を示す元素、物質が発見されている。単体の元素で最も超伝導転移温度が高いものは、ニオブの9.2 K(常圧下)である。常圧下において超伝導を示す金属は多いが、そうでない金属、あるいは非金属元素でも高圧下で(非金属の場合は金属化と同時に)超伝導を示すものがある。また、重い電子系における超伝導や、高温超伝導、強磁性と超伝導が共存する物質など従来の超伝導体と性格の異なるものも発見されている。超伝導現象は1957年に発表されたジョン・バーディーン、レオン・クーパー、およびロバート・シュリーファーらの理論(BCS理論)によりその基本的なメカニズムが解明された。
超伝導現象は超高感度の磁気測定装置(SQUID)、医療用(MRI)を含む各種の磁気共鳴用の超伝導電磁石など既に重要な応用分野を持っているが、現在でも超伝導状態を維持するための冷却剤としては主に液体ヘリウムが用いられており、液体ヘリウムの製造・供給が高コストであることが広汎かつ大規模な応用への障害になっている。そのため、より高温で超伝導を起こす物質を探索することを中心に、発見から100年近くを経た現在も超伝導についての研究が盛んに行なわれている。また、応用面では1980年代に発見された銅酸化物高温超伝導体や、その後今世紀になって見つかった二ホウ化マグネシウム(MgB2)を実用化する試みが続いている。
[編集] 超伝導の特徴
- 永久電流
- 電気抵抗がゼロのため、一度流し始めた電流が永続する。
- 完全反磁性(マイスナー効果)
- 超伝導体内部から磁場が排除される(内部磁場がゼロになる)。
- 磁束の量子化
- 超伝導体内部を通る磁束は h/2e の整数倍(h はプランク定数、e は素電荷)の値しかとることができない。
- 磁束格子状態
- 第二種超伝導体では、その超伝導体に固有の磁場値(下部臨界磁場)以上の磁場を印加した場合、量子化した磁束が超伝導体内部に侵入する。混合状態とも呼ばれる。このとき磁束コア同士は互いに反発するため、多くの場合、最密構造つまり三角格子を形成する。ただしフェルミ面の形状などの寄与によっては四角格子を組む場合もあることが最近の研究から知られている。
- ピン止め効果
- 上述の磁束格子状態において、外部磁場の変化に対して磁束格子が追随して変化しない現象をピン止め、あるいはピン止め効果と呼ぶ。強磁場を発生する超伝導マグネットの実用研究において重要な研究対象である。
- ジョセフソン効果
- 2つの超伝導体の間に挟まれた絶縁体には超伝導状態を表す波動関数の位相差に比例した電流が流れる。ミクロな波動関数という概念をマクロに観測できるという点で、超伝導現象をもっとも象徴する特徴といえよう。
- 臨界磁場の存在
- 一般的に磁場を印加することで超伝導状態は消失する。この磁場を臨界磁場という。第二種超伝導体には、この意味での臨界磁場(上部臨界磁場Hc2と呼ぶ)と完全反磁性状態から磁束格子状態への転移を意味する下部臨界磁場Hc1が存在する。→第一種超伝導体、第二種超伝導体
- 比熱の異常
- 超伝導への相転移は二次の相転移で、比熱に常伝導状態‐超伝導状態の間で“とび”が存在する。
- エネルギーギャップの存在(→BCS理論)
- 同位体効果
[編集] 応用
- ジョセフソン・コンピューター
- 磁気浮上式鉄道
- 磁気推進船
- 核融合炉(超高温プラズマを閉じこめる)
- 超伝導電磁石(→MRI)
- 超伝導トランジスタ
- 超伝導ケーブル
- 磁気シールド装置
- 超伝導カメラフィルム
- 超伝導磁気エネルギー貯蔵装置
- SQUID