突入電流
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突入電流(とつにゅうでんりゅう)あるいはインラッシュカレントとは、電気機器に電源を投入したときに、一時的に流れる大電流の事である。
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[編集] 概要
電動機やトランスなどを使った巻き線機器、大容量の平滑コンデンサ/デカップリングコンデンサを持つ機器、あるいは白熱電灯などは、電源投入時に定常状態で流れるよりもはるかに大きな電流が流れる事が知られており、このような大電流の事を突入電流と呼んでいる。
[編集] 原因
白熱電灯などは、電源投入直後はフィラメントがまだ冷たいためにその抵抗が小さく、それゆえに大電流が流れる。発熱してフィラメントが温まると抵抗が大きくなるために流れる電流は小さくなるのである。
次に、大容量の平滑コンデンサやデカップリングコンデンサを持つ機器の場合であるが、このような機器では、電源投入時にまずそれらのコンデンサを充電する必要がある。充電されていないからコンデンサは、電源投入直後には等価インピーダンスがほぼゼロであり、大電流が流れる事となる。コンデンサの容量が小さければ、回路のインダクタンスの関係で電圧が完全に上がりきる前に充電されてしまうので悪影響は少ないが、特に大容量の場合には注意が必要である。
巻き線機器の場合は…
[編集] 悪影響
突入電流が流れる事を考慮していない回路では、電源スイッチ接点の溶着、ヒューズの溶断、ブレーカーの切断、整流回路などへの悪影響、電源電圧の不安定化およびそれに伴う電源を共有する危機などへの影響などが考えられる。これらは、突入電流の大きさをあらかじめ計算に入れて、それに耐えうる素子を用いる事で回避できるが、それだけでは無駄に高い素子を使う事にもなるし、ヒューズやブレーカーに関しては定常使用時の異常に対して機能しなくなる可能性があるなどのデメリットもおおきい。
[編集] 主な対策
前述のとおり、電源スイッチ等を大容量なものにするのが一番基本的な対策だが、弊害もある。ヒューズを悪戯に大容量なものにしては、機器を保護する役目を果たせない。そこで、タイム・ラグ・ヒューズなどと呼ばれる、電源投入時の一時的な大電流のみを許容する特殊なヒューズを用いる場合がある。
最も根本的な対策としては、電源電圧がゆっくりと立ち上がるようにすることである。簡単には出力インピーダンスの大きな電源を用いれば大電流が流れるときの出力電圧が下がるので、対策として有効である。単純に抵抗を直列にはさむなどが有効だが、それでは定常使用時もロスが生じるなどデメリットがおおきい。簡単な消費電力の比較的小さな機器ならば、大きな自己インダクタンスを持つコイルを直列にはさみ、その後段に大き目のデカップリングコンデンサをつけることで、立ち上がりの緩和と、電源の低インピーダンス化を両立できる可能性がある。パワーサーミスタと呼ばれる、電源投入直後の冷えているときには高抵抗を示し、温まると抵抗が下がるという、負の温度係数を持つ機器を用いるのも手だが、これは電源切断直後の再投入には効果が無いなどの欠点を持つ。もっと大規模な回路では、電源回路自体に、ゆっくり立ち上がる能動的な機能を組み込む事も検討する必要があるだろう。