矮惑星
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
矮惑星(わいわくせい)(dwarf planet)とは、国際天文学連合(IAU)が2006年8月24日に採択した第26回総会決議5A(以下、決議5Aと略)の中で惑星を定義した際に、同時に定義された太陽系の天体の新分類である。ただし、「矮惑星」という日本語訳は暫定的なものであり、学術団体が定めた訳語ではない。現在、日本学術会議・日本天文学会・日本惑星科学会ほかで、天体物理学的・言語学的見地を含めた総合的な立場から妥当な和名が検討されているため、これとは異なる訳語に落ち着く可能性が少なからずある。現状で矮惑星ということばを流布することで、後日異なる公式訳となった場合の混乱を招くことは極力避けるべきである。
これまで、太陽系内の新天体については小惑星と彗星についての命名手順についての規則はあったものの、それ以外の場合については規定がないので、個々の天体の固有名については、従来の小惑星の命名手順を踏襲して命名される可能性が高い。(国際天文学連合には、天体命名についての委員会が常設されているので、ここで順次決定されるものと予想するのが、順当である。)
なおこの記事ではこの項の読者の便のため、以下dwarf planetを現在の記事名である矮惑星として表記するが、使用に際しては上記の点を十分に考慮されたい。
目次 |
[編集] 国際天文学連合による定義
採択された決議案に示される定義は概略下記の通り。
dwarf planet(矮惑星)とは以下の条件をすべて満たす天体である。
- 太陽をめぐる軌道を周回している。
- 固体をその形に維持するための力(分子間力)によるのではなくそれ自身をまとめあげている重力(自己重力)によって静水圧平衡(ほぼ球形)を保つに足る質量がある。
- その軌道の近くに他の天体が存在している(他の天体を取り込んだりはじき飛ばしたりしていない)。
- それ自体が衛星ではない。(ただし、以下に明示したように「衛星」の定義はなされていない。)
なお、学術用語について、学会などが「定義」を明言することは極めて異例で、 通常は、関連研究者内部で随時提唱されたものが自然淘汰的に決まるものである。 一般言語での名詞の決まり方を考えれば、どこかの「権威」が定義を明示的に 示す方が異例であることは容易に理解できよう(使われる単語の意味を解説することと、それを単語の定義とすることは全く別の概念である。)
[編集] 冥王星の扱い
冥王星は、「自分の軌道周囲から他の天体を一掃している」とは判断されなかったため、惑星とは見なされず、矮惑星であるとして、これに分類されることとなった。決議6Aで、冥王星は矮惑星の典型例であると明示されている。
ちなみに、冥王星は エッジワース・カイパーベルトに位置する軌道を持つ天体であり、海王星と3:2の共鳴関係にある軌道を巡っている。Trans-Neptunian-Objects(TNOs、海王星以遠天体(暫定訳):次項参照)のうち、このような共鳴軌道を巡る天体はTNOs全体の1割を超えている。この観測事実が、冥王星が惑星と見なされなかった要因となっている。
[編集] 矮惑星の一覧
IAUが決議案採択の時点で「矮惑星」の例として示したのは以下の3つである。
名称 | 分類 | 直径 / km | 質量 / kg | 軌道傾斜角 / ° | 軌道離心率 | 軌道長半径 / AU (1) | 公転周期 / 年 | 自転周期 / 日 | 衛星数 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
冥王星 | 冥王星族 | 2306±20 | ~1.305 × 1022 | 17.14175 | 0.24880766 | 39.52944 | 248.54 | 6.387(2) | 3 |
エリス | 散乱ディスク天体 | 2400±100 | ~1.5 × 1022 | 44.177 | 0.4416129 | 67.7091 | 557 | 1 | |
ケレス | 小惑星 | 975×909 | 9.5 × 1020 | 10.581 | 0.080 | 2.767 | 4.60 | 0.377 | 0 |
- (1):1天文単位=149,597,870km
- (2):逆行
さらに、以下の天体が矮惑星に分類される可能性がある。
名称 | 分類 | 直径 / km | 質量 / kg |
---|---|---|---|
2005 FY9 | キュビワノ族 | 1600~2000? | (不明) |
オルクス | 冥王星族 | 840~1880 | 6.2~7.0 × 1020 |
セドナ | 散乱ディスク天体 | 1180~1800 | 1.7~6.1 × 1021 |
2003 EL61 | キュビワノ族 | ~1500 | ~4.2 × 1021 |
クワオアー | キュビワノ族 | 989~1346? | 1.0~2.6 × 1021 |
カロン | 冥王星族 | 1207±3 | 1.52 × 1021 |
2002 TC302 | 散乱ディスク天体 | <1200 | (不明) |
ヴァルナ | キュビワノ族 | ~936 | ~5.9 × 1020 |
2002 UX25 | キュビワノ族 | ~910 | ~7.9 × 1020 |
2002 TX300 | キュビワノ族 | <900 | (不明) |
イクシオン | 冥王星族 | <822 | (不明) |
2002 AW197 | キュビワノ族 | 700±50 | (不明) |
Trans-Neptunian objectという分類呼称は、それをどう翻訳するのかを含めて、国際天文学連合 (IAU) の決議には左右されず、各国及び各自の判断に任されている。(例えば、asteroid、エッジワース・カイパーベルト天体、あるいは地球型惑星などの名称はもとからIAUの公式分類ではない。)IAUの公式用語には、各国でどのように分類しどのように呼ぶかについての強制力は全くない。
また、現在は冥王星の衛星とされているカロンは、「衛星かどうか」という判断を除き基準を満たしている。ただし、委員会原案では共通重心が主星の外にあるものは衛星としないと明示されていたが、それは最終決議案では記述されなかったため、IAUの公式見解としては、この点について何も示していない。
さらに、ケレスに次いで大きな小惑星である、ベスタ、パラス、ヒギエアについては、自身の重力によって球に近い形を保っている可能性がある。このため、今後の観測の結果如何では、矮惑星となる分類される可能性がある[1]。 もちろん、これ以外の天体についても条件さえ満たすことがわかれば、順次、矮惑星と呼ぶべきであるし、そうなるであろう。
[編集] 矮惑星の大きさと質量
IAUが採択した決議5Aでは、矮惑星の大きさと質量については、その下限と上限が以下のようになっている。
上限については明確な定義はない。したがって、仮に、水星より質量の大きな天体がもし見つかったとしても、「その軌道周辺で他の天体を掃き散らしていない」なら、惑星には分類されず、矮惑星と分類されることになるはずである(ただし、そのような天体は2006年8月時点では発見されていない)。
下限に関しては、「自重によって静水圧平衡形状(ほぼ球状)になっている」というのが定義である。具体的な数値は該当天体の天体物理学的性質によって変わるのは当然で、IAU決議案として当初提示されていた委員会原案の補足文章では、半径や質量を数値的に明示するという形で定義するつもりはないとの意志が明確に提示されていた。国際天文連合決議5Bに相当する委員会原案では、正規の物理学的定義が理解できない人のために「この定義によれば通常の岩石でできている天体ならば、5 × 1020 kg の質量、あるいは 800 km 以上の直径をもつ天体がこれに該当するであろう」という、ガイドラインがされていたが、これ自体は定義ではない。
また、具体的な天体がどの分類に属するかについての具体的な判断については、その都度、IAUが適宜判断する旨の注記がそえられている。
[編集] 関連項目
- 太陽系
- 海王星以遠天体
- 惑星X
- en:2006 redefinition of planet
- en:Mesoplanet
- en:Small solar system body
- en:Clearing the neighbourhood
[編集] 参考文献
- ↑ "Three new planets may join solar system" New Scientist. .
[編集] 外部リンク
- 国立天文台(太陽系の惑星の定義確定)
- 国際天文学連合総会 2006年8月24日、プラハでの評決結果 - 採択された惑星、dwarf planet、Small Solar-System Bodiesの定義が末尾にある。